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31話 奴隷市場

◇ 奴隷市場 ◇


出発前の三日間で、誠は西村の消息を追うことにした。


橘の発案だった。「北の神殿に向かう理由が二つあった方がいい」と橘が言った。「帰還の可能性だけで動くより、西村を探すという理由も持っておきたい」


「感情の話か、理屈の話か」と誠が聞いた。


「両方だ」と橘が答えた。「西村を置いてきたことは、ずっとある。消えたわけじゃない」


誠も同じだった。ガレンの路地で西村の悲鳴が遠くなったとき、戻らなかった事実は、今も残っていた。


情報を集めるために、誠は市場に足を運んだ。奴隷商人の動きを観察した。浜田に協力してもらった。浜田は転移者区画の書類仕事の中で、奴隷として売られた転移者の記録を断片的に見ていた。


「ガレン発、女性、十七歳前後」という条件で絞り込むと、数件の取引記録が残っていた。


「一件、条件に近いものがある」と浜田が言った。「二ヶ月前、ガレン南区の奴隷商人から北の商人に売られた。「珍しい転移者」という注記がある」


「珍しいとはどういう意味か」


「わからない。ただ、北の商人——これは神殿の守護者と関係のある商人の名前です——に売られたという記録は、転移者の帰還と関係している場合があると浜田が読んだことがある、という別の情報と重なる」


「西村が神殿に運ばれた可能性がある」と誠が言った。


「可能性として」と浜田が慎重に言った。「確証はない」


橘がその話を聞いて「北に向かう理由が、二つになった」と言った。最初に言った言葉の通りだった。


誠は橘を見た。橘の顔が少し違った。市場で奴隷市場を見たときの顔とも、ルヴェニアに来た最初の日の顔とも違った。目的が定まった顔だった。


「ガレンで撤退を命じたとき」と誠が言った。


「うん」と橘が言った。


「お前も俺も、何も言わなかった。夜の野営でも、誰も西村の名前を出さなかった」


「出せなかった」


「出せなかった」と誠が繰り返した。「でも、今は出せる」


橘が少し間を置いた。「出せる」と言った。


二人が最初に西村の名前を出した夜だった。


浜田に礼を言い、区画を出た。夕暮れの路地が長く伸びていた。


「行こう」と誠が言った。


「北に」と橘が言った。


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