表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/40

30話 役割

◇ 役割 ◇


北に向かった転移者二人の消息が、ようやく分かった。


情報源は浜田だった。翻訳の仕事の中で、北の旅商人の台帳に「転移者二名への物資提供」という記録を見つけた。日付は三ヶ月前。場所は北の山道の入口近くの集落だった。


「そこから先の記録はなかった」と浜田が言った。「でも少なくとも山に入るまでは生きていた」


「山に入った後が不明なわけか」と誠が言った。


「行商人が一人、「北の旅人が無事に帰国した」という噂を聞いたと言っていました。本人ではなく噂の話なので信憑性は低いですが」


「でも帰れた可能性はある」


「可能性はある」と浜田が言った。「私は行きませんが」


誠は浜田に「今まで協力してくれてありがとう」と言った。浜田が少し驚いた顔をした。「お礼を言う人がいなかったので」と浜田が言った。何の感情もない顔で言ったが、言葉の重さだけはあった。


翌日、全員に決断を求めた。


「北の神殿に向かう。帰れる可能性がある。ただし保証はない。行かない選択も自由だ」


誰も「行かない」と言わなかった。


「全員行く、ということか」と誠が確認した。


加藤が「行かない理由がない」と言った。「ここにいても先細りだ。帰れる可能性があるなら行く」


佐々木が「先生はまだ本調子じゃないが」と言った。


「先生は俺が連れて行く」と誠が言った。


松本先生が「自分で歩けます」と言った。一週間の休息でだいぶ回復していた。顔に少し色が戻っていた。


「先生」と誠が言った。


「何」


「北に向かうとき、リードを俺にくれますか」と誠が言った。「先生が判断するのではなく、俺が判断する。先生は後ろで見ていてくれ」


先生が誠を見た。


長い間があった。先生の目が何かを考えていた。


「……わかった」と先生が言った。「田中に任せる」


その言葉が出たとき、周囲の空気が少し変わった気がした。正式に何かが移った感覚があった。


橘が「出発はいつにする」と事務的に聞いた。


「三日後」と誠が言った。「それまでに食料を準備する。木村に連絡する。全員の体調を確認する」


「木村を連れて行くのか」と誰かが聞いた。


「行くかどうかは木村が決める」と誠が言った。「俺から誘う」


異論はなかった。


その夜、誠は一人で空を見た。草原での最初の夜から、空は変わっていなかった。見知らぬ星が、同じ場所にある。だがこちら側の解像度が、少しだけ上がった気がした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ