24話 魔法の話
◇ 魔法の話 ◇
ルヴェニアには魔法学校があった。
正確には「魔術師組合」という名前の機関で、学校というより資格認定機関に近かった。見習いを受け入れて、数年の修業を経て術師の資格を発行する。ヴァルナの魔法は独学では身につかず、師匠と一対一で習うか、組合に入るかの二択らしかった。
転移者も入れるか、と誠が浜田に聞くと「入れるけど、入った人間はいない」と言った。
「なぜ」
「費用と時間。修業中は無収入で、入組費だけで現地人の三ヶ月分の賃金に相当する。転移者は入れるほどの余裕がない」
「習得できれば何ができる」
「火を出す。水を出す。物を動かす。治癒は別系統で、難しいほうらしい」
治癒。橘がその言葉に反応した。誠はそれを見た。橘は目を向いただけで、何も言わなかった。
その夜、二人で外に出たとき、橘から話しかけてきた。
「魔法で治癒ができるとしたら、医療の代わりになるか、と考えてた」と橘が言った。
「なれると思うか、この世界で医者に」
「医者という概念がここにあるかどうかが最初の問題だ」と橘が言った。「ここの治療師は経験則と魔法の両立が多いらしい。理論体系が違う。私の知識はそのまま使えない」
「でも、考えてる」
橘が少し間を置いた。「考えてる」と言った。「帰れないかもしれないという前提で考えたとき、ここで何ができるかを考えると、それしか出てこない」
「帰れないという前提、か」
「帰れるかもしれないとも思ってる。ただ、帰れない場合の自分の使い道も考えておかないと、頭がおかしくなりそうで」
誠は橘を見た。橘は路地の先を見ていた。
「俺はそこまで考えていなかった」と誠が言った。
「田中くんは? 帰れなかったら何をしたい」
誠は少し考えた。正直に言うことにした。「わからない。帰れないとまだ決めていないから」
「それも正直だ」と橘が言った。笑わなかったが、口調が少し柔らかくなった。
翌日、橘が魔術師組合の前まで行った。中には入らなかった。建物の外から看板を見ていた。
誠は少し離れた場所でそれを見ていた。
橘が何分かそこに立ったあと、引き返してきた。「費用を計算した」と橘が言った。「今のペースで働いて一年強かかる。帰還の目途が立たなければ、一年後に考える選択肢がある」
「一年」と誠が繰り返した。
「長いと思うか」
誠は少し考えた。「長い」と言った。「でも、お前が考える道として、俺は反対しない」
橘がまた少し黙った。「ありがとう」と言った。珍しい言葉だった。




