23話 先輩たち
◇ 先輩たち ◇
浜田から、区画内の転移者たちの話を少しずつ聞いた。
六ヶ月グループは、元々八人いたらしかった。現在は五人。うち一人は奴隷商人に連れて行かれ、二人はルヴェニアを出て北に向かったまま戻っていない。
「北に向かった人たちは」と誠が聞いた。
「わかりません」と浜田が答えた。「北に行けば帰れるという話を聞いて、出発したと聞きました」
「帰れるという話の出どころは」
「古い神殿があるとかないとか。詳しくは私も知りません。信憑性は不明です」
北。神殿。ep006で行商人が「古い神殿の神官なら帰る方法を知っているかもしれない」と言っていた。同じ情報が、別の経路でもある。
夕方、誠は六ヶ月グループの一人——安藤という男——に改めて話しかけた。
「北の神殿の話を聞いた。詳しく知ってるか」
安藤が誠を見た。「もしかしてそれを探しに来たのか」
「まだ決めていないが、選択肢として考えている」
安藤が少し笑った。笑顔が疲れていた。「俺たちも最初、探してた。ルヴェニアの商人から聞いた話だと、北の山を越えた先に神殿がある。実際に行って帰ってきた人間はいないが、行った人間もいないから、帰ってこない理由がわからない」
「危険だから帰ってこないのか、帰れたから戻らないのかが不明なわけか」
「そう。行ったきり消えてる」
「情報を集めた人間はいないか。商人とか」
「北の商人に聞けばわかるかもしれない。ルヴェニアの大市場に、北から来る行商人が月に一度ほど来るらしい。次の市は十日後だ」
十日。待てる時間だった。
その夜、田中グループ全員に話した。「北の神殿について調べる。十日間、ここで仕事をしながら情報を集める。その後、行くかどうかを決める」
誰かが「行く、ということは戻ってこないかもしれないということか」と言った。
「可能性の話をしているだけだ」と誠が言った。「決定ではない」
加藤が「でも行かなければ、どうなるんですか」と言った。
誠は少し止まった。「六ヶ月グループの安藤たちみたいになる」と言った。「明日の食料だけ考えて生きる。それが悪いとは言わない。ただ、俺はそれより先に進みたい」
全員が黙った。
松本先生が「田中の言う通りにする」と言った。先生が誠の判断に完全に任せると言ったのは、これが初めてだった。
誠は先生を見た。先生が少し微笑んだ。
微笑み方が疲れていた。ガレンに来る前から疲れていたが、今はその疲れが顔の奥に沈んでいた。




