22話 ルヴェニア
◇ ルヴェニア ◇
転移者区画には、すでに四十人ほどが住んでいた。
日本人と思しき顔が数人いた。他に、東南アジア系と思われる男性、中東系らしい家族連れ、肌の色が違う若い女性。出身がどこかはわからなかった。ここに来てからわかったことだが、転移はヴァルナの各地で起きており、世界中から人が来ていた。
「日本人ですか」と誠が声をかけた。
若い女性が振り返った。二十代前半くらいだった。顔が少し驚いた。「そうです」と言った。
「いつから」と誠が聞いた。
「四ヶ月前。一人で来ました」
一人で、という言葉が刺さった。
田中たちは十四人いた。グループがあった。この女性には最初から誰もいなかった。
女性の名前は浜田と言った。ルヴェニアに来て三ヶ月。最初の一ヶ月で現地語を覚え、今は翻訳の仕事をしていた。転移者区画の管理組合(現地人が運営している)に雇われ、転移者の登録書類の翻訳をしていた。
「帰れると思いますか」と橘が聞いた。
浜田が少し間を置いた。「考えないようにしています」と言った。
「なぜ」
「考えると動けなくなるから」
橘は黙った。
浜田が区画の中を案内してくれた。共同の炊事場があった。水道はないが、井戸が二つあった。空き部屋が十二ある。田中たちの十四人には少し足りなかったが、詰めれば使えた。
「仕事は?」と誠が聞いた。
「区画の外に出れば荷物運びや農作業はある。ルヴェニアはガレンより仕事の種類が多い。ただし賃金は現地人の半分以下です」
「区画の外では安全か」
「昼間は比較的。夜は出ない方がいい。奴隷商人は夜に動く」
ガレンと同じだった。規模が大きくなっただけで、根本は変わっていなかった。
その夜、共同炊事場で食事をしていると、別の転移者グループが帰ってきた。
五人。全員が二十代くらいに見えた。疲れた顔をしていた。ただ「疲れた顔」の質が違った。ガレンで出会った人間たちと違う。何かを諦めた顔というより、感情が抜けた顔だった。
「いつ来たんですか」と誠が聞いた。
一人が顔を上げた。「六ヶ月前」と答えた。
「帰る方法を探していますか」
男が少し間を置いた。「最初は探してた」と言った。「でもここでは情報がなくて、金もなくて、体力もなくなって。今は明日の食料のことだけ考えてる」
男が食事を持って部屋に戻った。
誠は男の後ろ姿を見た。
六ヶ月。自分たちが来てからまだ二ヶ月ちょっとだった。あと四ヶ月でああなるかもしれなかった。ならないためには、何かが必要だった。
「帰る方法を探す」と誠はその夜、小さく声に出して言った。橘だけが聞こえる距離で。
橘が何も言わなかった。それが返事だった。




