20話 それでも
◇ それでも ◇
ガレンを出たのは、その日の午前中だった。
荷物をまとめて、役所に届け出をして、城門に向かった。
人数を数えた。十四人。転移時の四十一人から、二ヶ月足らずでこの数になった。宮田が死に、藤堂グループが分かれ、西村が奴隷商人に捕まりかけた夜に街の別の場所に逃げてそのまま連絡が取れなくなり、木村が去った。残りはさらに少なかった。
橘彩が誠の隣を歩いていた。
「どこに向かうの」と橘が言った。
「東に、もう一つ街があると聞いた。ガレンより大きい。転移者の扱いも少し違うかもしれない」
「かもしれない、か」
「情報がそこまでしかない」
「まあいいか」と橘が言った。「何かわかってから動くより、動きながら考える方がここでは合ってる気がしてきた」
松本先生が後ろを歩いていた。先生の目が以前より落ち着いていた。余裕がついたわけではなかった。ただ「わからないことを受け入れる」慣れがついていた。
城門に差し掛かった。
衛兵が一人、こちらを見て「出るのか」と言った。先生が「ああ」と答えた。衛兵は何も言わなかった。
城門をくぐった。
石畳の道から土の道に変わった。ガレンの壁が後ろに遠ざかった。草原がまた始まった。転移した最初の日に見た景色に似ていたが、違った。あのときと今では、同じ草原の見え方が違った。
誠は前を向いて歩いた。
「帰る」という言葉が、最近どこかに行った気がした。完全に消えたわけではなかった。だが毎日それを考えることが、いつの間にかなくなっていた。その代わりに「明日生きている」という言葉の方が近くにあった。
それがいいことかどうか、誠にはわからなかった。
橘が前を向いて歩きながら「宮田のこと、時々考える」と言った。
「俺も」と誠が言った。
「名前くらいは知ってたから、ましかな、と思ってたけど。でも何も知らなかった」
「うん」
「帰れたとして——帰れたとして、宮田の家族に何を言えばいいんだろう」
誠は考えた。「正直に言うしかない」と言った。「ここで何が起きたかを」
「嘘はつきたくない」と橘が言った。
「嘘をつく必要はないと思う」
それだけで終わった。
城門から一時間歩いたとき、誠は後ろを振り返った。ガレンの壁が遠くに見えた。城門のあたりに、まだ人が行き来しているのが小さく見えた。
その人混みの中に——
見覚えのある歩き方をした人影があった。
一瞬だけだった。次に目を向けたときには、その影は人混みに溶けていた。
木村かもしれなかった。別の誰かかもしれなかった。
誠はそれを誰にも言わなかった。
ただ、確認できなかっただけだ。
前を向いて、歩き続けた。
第2章「漂流」に続きます。
ストックがあるので毎日19:00にスケジュール投稿します。




