15話 仕事
◇ 仕事 ◇
ガレンに来て六週間が経った。
宿屋の清掃の仕事は、誠と橘彩を含む四人で回していた。加藤は腕の傷が完全には治らず重い荷物が持てなかったが、それ以外は動けていた。松本先生は情報収集と交渉に動いていた。その他のメンバーも農作業の手伝いや荷物運びで少しずつ収入を得ていた。
「全員、生きている」と橘が言った。ある朝、仕事の前に二人で路地に立っていたとき。
「うん」と誠が言った。
「ガレンに着いてから、誰も死んでいない」
「そうだな」
それが橘の言いたいことの全部だった。誠も同じことを感じていた。それだけで今は十分だ、という気持ちと、この安定がいつ崩れるかわからないという気持ちが、同時にあった。
その日の午後、木村が戻ってきて、誠に金を渡してきた。
「なんだ」と誠が言った。
「先週借りたやつ、返す」
先週、木村は金を貸してほしいと言ってきた。何かあったのかと聞くと「ちょっと足りなくて」と言った。金額は大きくなかった。貸した。
だが今日返してきた金は、貸した金より多かった。
「利子はいらない」と誠が言った。
「おまけだよ」と木村が笑った。「ちょっと稼いだから」
「どこで」
「いろいろ」
木村が話を変えようとするのが見えた。誠はそれ以上聞かなかった。聞いて答えが来るより、聞かない方がいい場合がある——そう思うことにした。自分に言い訳をしている感覚が、少しあった。
その夜、誠は眠れなかった。
木村のことを考えていた。
ガレンに来てから、木村は変わった。最初の一週間は普通だった。いつもの木村だった。ただその後から、時々妙に落ち着きがない日があった。帰りが遅い日があった。金が足りないと言う日があった。
もし木村が賭博に手を出しているとしたら——行商人が増える時期に博打場が開く、という話を誠は路地で聞いたことがあった——どうすべきか。
止めるべきだった。
止めるべきだとわかっていながら、誠は一度もそれを木村に言っていなかった。
言えなかったのか、言いたくなかったのか、どちらかわからなかった。
翌朝、木村はいつも通りだった。誠の隣で朝食を食べて、冗談を言って笑った。
誠は笑い返した。
何も言わなかった。




