14話 ガレン
◇ ガレン ◇
ガレンで一ヶ月が経った。
暮らしが少し落ち着いた——「落ち着いた」という言葉が正しいかどうか誠にはわからなかったが、毎日同じ仕事をして、毎日食べて、毎日眠れるようになったという意味では、そう言えた。
宿屋の清掃の仕事は続いていた。橘の交渉で少しずつ賃金が上がっていた。現代の衛生知識が役に立った。食器の洗い方、水の管理方法、布の干し方——ここでは当たり前でないことが、いくつかあった。
宿屋の女主人は最初、転移者に対して「金を払えるなら別にいい」という態度だったが、一週間後には「あんたたちは使えるね」と言うようになった。褒めているのか馬鹿にしているのかわからなかったが、仕事を続けられている事実の方が大事だった。
ガレンという街の輪郭が、少しずつ見えてきた。
封建制の都市国家で、領主がいて、商人ギルドがあり、傭兵が雇われ、農民が外周の農地を耕していた。転移者は法的には「浮遊市民」という扱いで、権利は限定的だが、奴隷ではなかった——ガレンに限っては。別の街では違った。
「ガレンがまだマシだった」と松本先生が言った。情報を集めながらそういう判断をしていた。先生の行動力は、グループが分裂してから少し変わっていた。決定を一人で下さなくなった代わりに、足を使って情報を集めるようになった。
「藤堂グループはどうなってるか、情報はあるか」と誠が聞いた。
先生が少し黙った。「詳細はわからない。ただ、南の方の村で転移者が問題を起こしたという話が商人の間で回っている」
「藤堂グループだとわかるのか」
「確証はない。でも時期と方向が一致する」
誠は何も言わなかった。
「合流することを考えているか」と橘が聞いた。誠ではなく先生に向けて。
「……わからない」と先生が答えた。珍しく正直な答えだった。「藤堂が何をしたか、どこまでしたか、わからないうちに合流はできない」
「合流しなくていい」と誠が言った。先生が誠を見た。「藤堂グループは藤堂グループだ。俺たちとは別の選択をした。それを今更混ぜても、うまくいかない」
先生は何も言わなかった。
その夜、木村が早めに帰ってきた。顔色がいつもより悪かった。誠が「どこに行ってたんだ」と聞くと「ちょっと」と言って話を終わらせた。
木村が時々いなくなるのは、最近始まったことではなかった。一週間ほど前から、夕方から夜の間に居場所が不明になる時間があった。聞くと「散歩」と言った。
「散歩じゃないだろう」と誠が言ったことがあった。
「散歩だよ」と木村は笑った。「閉塞感があるから、少し歩いてるだけだ。誠はそういうの、ないの?」
誠はその問いを、今でも考えることがあった。




