16話 噂
◇ 噂 ◇
藤堂グループの話が入ってきたのは、ガレンに来て七週間目のことだった。
情報源は宿屋に泊まっていた旅の商人だった。松本先生が夕食のついでに話しかけて聞いてきた。
「南の街——カルヴェートというところで、転移者のグループが問題を起こした。村を一つ制圧して、住民を何人か傷つけた。カルヴェートの衛兵が鎮圧に向かい、抵抗した転移者が複数死亡。リーダーと思われる大柄な男が投獄された」
人数は最終的に五人が生き残ったとのことだった。
先生がその話をしたとき、建物の中は静かだった。
二十二人が五人になった。
「藤堂は生きてるんですか」と加藤が聞いた。腕の傷が残る加藤は藤堂グループに行かなかった一人だった。
「投獄されているようだ。生きているはずだ」と先生が言った。
「カルヴェートって、ここから遠いんですか」と佐々木が聞いた。
「徒歩で四、五日ほど南だと思う」
「助けに行けますか」
先生が答える前に「行けない」と誠が言った。
佐々木が誠を見た。
「行ったとして、何ができる」と誠が言った。「俺たちに衛兵を止める手段はない。俺たちが動いて全員が捕まったら、こっちも終わる」
「でも同じクラスだよ」
「うん」と誠が言った。「それはわかってる」
沈黙があった。
木村が「藤堂は、自分で選んだんだ」と静かに言った。「俺たちと違う方向を選んで、その結果がそうなった。それは俺たちには……どうにもできない」
木村がそういうことを言うのを、誠は初めて聞いた気がした。
その夜、誠は予想外のものを感じていた。
藤堂が投獄されたと聞いて、悲しくはなかった。驚きもなかった。「やはり、こうなったか」という気持ちもあった。だがそれと同時に——
誠には、藤堂が嫌いではなかった。
合わなかった。判断に賛成できなかった。だが藤堂は、この状況で逃げずに動いた人間だった。間違った方向に動いたが、動いた。
「先生」と誠が言った。部屋の隅で地図を眺めていた松本先生が顔を上げた。
「次はどこに行くか、考え始めた方がいいかもしれない」と誠が言った。「ガレンが安全だとは限らない。もっと情報がある場所、あるいは俺たちが動きやすい場所を探したい」
先生が少し黙って、頷いた。「お前が動いてくれるか」
「やってみる」
それだけだった。
渡辺の噂も入ってきた別の話として——カルヴェートで捕まった五人の中に女子生徒が二人いるという。渡辺がいるかどうかはわからなかった。
誠は、その話を橘彩にだけ伝えた。橘は何も言わなかった。




