10話 獣のあとに
◇ 獣のあとに ◇
分裂から三日後の朝、草原の道に人が倒れていた。
最初は動物の死骸かと思った。近づいて、制服だとわかった。
中原だった。藤堂グループに行った男子生徒の一人だった。腕に深い傷があった。乾いた血が服に染み込んでいた。呼びかけると意識があった。水を飲ませると、少しずつ話し始めた。
「村を、やった」と中原が言った。
「やった、とは」と先生が言った。
「食料がなくて、藤堂が言ったんです。あの村から奪えば全員分になるって。最初みんな反対したけど、藤堂が……強引に進んで、そのあとは、もう」
誠は中原の傷を見た。刃物の傷だった。
「村人がいたんだな」
「はい。逃げた人と、戦った人がいて。俺は刺されて、それで逃げてきました」
「他のみんなは」
中原の目が揺れた。「三人、死にました」
先生が黙った。橘彩は石になったように動かなかった。
「藤堂は」
「生きてます。向こうも怪我してたけど……今は村を、支配している、と思います。村人を何人か捕まえて」
誠は何も言わなかった。
藤堂が「支配する」という選択を取ったことは、驚きではなかった。驚きではなかったことに、誠は少しだけ驚いた。
中原を連れて歩き続けることにした。傷の手当をして、水を飲ませた。歩けるかどうか微妙だったが、「置いていかないでくれ」と中原が言ったので、交代で肩を貸すことにした。
その日の夕方、橘が誠に並んで歩いてきた。
「どう思う」と橘が言った。
「何を」
「藤堂の話」
「どうとも思わない」と誠は言った。「起きたことで、驚いていない」
「私もそう」と橘が静かに言った。「それが怖い。最初だったら、信じられないって思ったはずなのに。今は、ああ、そうか、と思った」
誠は橘を見た。橘は前を向いたままだった。
「感覚が麻痺してきてるのかな」と橘が続けた。「宮田が死んだときも、泣かなかった。泣けなかった。おかしくなっていってる気がする」
「それが正常だと思う」と誠が言った。
「どっちが」
「麻痺していく方が。この状況で全部に感情を使い切ったら、動けなくなる」
橘は少し黙った。「そうかもしれない」と言った。「でも、帰ったときに戻れるかな、元に」
誠はその問いには答えられなかった。「帰ったとき」という前提を、今の自分は信じているかどうか、自分でもわからなかったから。
夜、中原が「迷惑かけてすみません」と言った。
「謝るな」と誠が言った。
「でも」
「谢るな、と言った」
中原は黙った。しばらくして「東の都市に、本当に行けますか」と聞いた。
誠は答えなかった。




