5.少しだけ変わった日常~魔法のお勉強~
私が属性検査を受けてからの日々は少しだけ変わった。
貴族令嬢としてのお勉強に追加して、午後に魔法の勉強の時間が増えました。
ただ、お兄様のように実践的な魔法の勉強ではなく、お兄様が魔法の練習をしている演習場の休憩場所で魔導書を読む時間ができたという程度です。
これは、私が仮に魔法を試して魔力暴走など起こさないように、お兄様を教えている先生が私を見ていられるための配慮とのことです。
お父様もお母様もお兄様も、私が一属性しか持たないからと言って扱いは変わりませんでした。
ただ、私付きのメイドの一部が変更されて、伯爵家に古くから仕えるものが増えました。
お父様曰く、信頼のおけないものをリリーには就けないとのことです。
練習場ではお兄様が二つの属性を使った魔法を行使して、的に向かって攻撃しています。
貴族は魔法が使えるがゆえに領地に現れる魔物を討伐する義務があります。
貴族の血でないと魔力を持っていても能力が低く、二つの属性を持っていないと”攻撃魔法”になりません。
たとえば、お兄様は火と風の属性を持っているので、魔法で火を起こして風をつかって敵を焼き払ったりします。
火属性だけだと薪に火をつけるみたいに敵に近寄る必要があり、遠距離攻撃ができません。
魔物と近接戦闘をするのは命を落とすだけなので、こうして練習してしっかりと魔物を足せるようにするのが次期当主の務めともいえます。
そんなお兄様の様子を見ながら私はもらった魔導書を開きます。
「亜空間魔法は主に、亜空間への入り口と出口を作ることができる魔法である」
魔導書の1ページ目にはそのようなことが書かれていました。
私が無意識に行っていた物の瞬間移動のようなことは、対象物を亜空間にしまって、それを取り出していたという事のようです。
亜空間という属性のは魔法を行使する人間にしか把握できず、その行使した亜空間もすべてを把握できているわけではないと本には書いてあります。
たしかに私は意識してその亜空間というのを認識したことは無いと思います。
「リリー、難しい顔をしてどうしたんだい?」
「お兄様、実際この本の文章が難しいのです」
そういって見せると、お兄様の眉間の間にしわが寄ってきます。
「確かにわかりにくいな……先生、少しいいですか?」
お兄様が先生を呼んでくれて一緒に本を見始めます。
「たしかに、概念的なことが書かれていますね……リリア様にこの辺りをいきなり理解してというのは難しいかもしれません。少しよろしいですか?」
そういった先生に魔導書を渡すとぺらぺらとページをめくり中身を確認していきます。
「リリア様は、この辺りから読んでみるのが良いのではないでしょうか?」
亜空間魔法初級と書かれた項目。
たしかに、難しい内容を読むよりも、ここのほうがわかりやすそうです。
「ありがとうございます。ここを読んでみます」
「実際に魔法を使ってみるときは声をかけてくださいね。魔力暴走などの危険性がゼロではありませんから」
「わかりました」
そして、初級の亜空間魔法の項目を読みながら試しにやってみるという日々が始まりました。
*****
亜空間魔法の初級とされていたものは、今までも私が使っていた魔法でした。
遠くにあるものを近くに持ってくる魔法。
本に記載されていたのは机の端と端への移動などで、本当に手元に持ってくるような魔法ではありませんでした。
魔法の先生に一応見てもらいながら、机の端のほうに置いたコップを反対の端っこに出現させてみます。
が、コップは何故か私の手元にやってきました。
「リリア様の今までの癖でしょう。手元に持ってくるというのは今までも出来ていましたからね」
「……無詠唱でもできるけれど、指定の場所に置くっていうのは難しいかもしれないわ」
私は何度か挑戦します。
記載されていた詠唱も含めてやってみますが、置いてある木のコップを消すことはできても、出現させる位置が安定しません。
机の端から外れて床に転がったり、手前すぎたり、私の手元に来てしまったり。
「意外と難しいです」
「基本はできていると思いますが、カディル様も初めは魔法を的に当てるのに苦労しましたから、練習を繰り返すしかないと思います」
「わかりました」
私はお兄様と同じ時間に魔法の勉強をするようになります。
そこで私はあることに気が付き始めるのです。
この亜空間魔法の恐ろしい活用方法の一つについてです。




