39.報告と今後
アンジェリカ・タウンゼント伯爵令嬢についての報告をコーワン内務伯に行った。
書面には残さない。口頭だけの報告となった。
これにはいくつかの理由がある。
一つは、アンジェリカ嬢の身の安全の確保のためだ。
ハンストリア王国を含め周辺諸国も東の蛮族とは違い女神を崇拝する宗教を是としている。
女神教では、死後は安寧の地へいざなわれ浄化されるとされており、前世の記憶などというものをもって生まれることはイレギュラーと考えている。
仮に公になれば彼女は最悪異端審問の上悪魔と選定されれば処刑されかねない。
お着きのメイドが良く彼女を裏切らなかったなと感心してしまう。
そしてもう一つ、単純に彼女の能力を失うのが惜しいという判断だ。
彼女が生み出した様々な魔道具は、王城のみならず各貴族家にも入り、さらには輸出もされ始めている。
今後さらに彼女が開発するものが増えれば、それだけハンストリア王国の国際的地位が上がることは容易に想像できるためである。
「彼女の勘違いとはいえ、良い情報を報告してくれたなテレシア子爵」
「報告せぬわけにはいかないと思いましたので、ただ、私の発言で彼女が不利になるようなことがないようにだけ、おねがいいたしますわね」
「もちろんだ。そうでなければルバート・チェスター侯爵令息との婚約など王家が許していない」
王家としては彼女を国に縛り付けておきたい。
そのために当初は第一王子と婚約させていたわけだが、それはこのありさまだ。
最初から互いの相性が悪かったのもあるだろうが、王家に嫁ぎましてや王太子妃になどなれば、公務にばかり時間が取られ、彼女の「発明」という部分を殺してしまうだろう。
それならば、タウンゼント伯爵家自体を一代限りとしてチェスター侯爵家に取り込んでしまい奥方としての仕事を免除して自由にさせたほうがよい、という判断だ。
方針転換ともいえる。
彼女らが婚約をしたときには王家は第一王子が順当に王太子になると思っていたし、その方がよいと考えていたのだから。
「半年以上にも及ぶ学園での監視、ごくろうと言っておこう。報酬はいつも通りだ」
「ありがとうございます。ところで、学園に私ではない影の配置はできそうなのですか?」
「今回の問題を受けて正式に影とは別の監査官が置かれる。テレシア子爵のようにすべてを見ることはかなわないだろうが、清掃員や食堂に影を置くことにした。今までが生徒と教師に任せ過ぎだったというのもあるがな」
「本来の私の仕事ではありませんでしたわね」
「だが、おかげで揺るがない証拠を積み上げられたのだ」
まぁどうしたって影も人であり一切姿を見せずに対象を監視するなんてできはしない。
私のもつ亜空間魔法がおかしいだけだ。
「だが、王家としては貴女をこれ以上重宝しないほうが良いと判断した」
「あら、それはどうしてまた」
「テレシア子爵の魔物討伐能力はもはや周知されている。それだけでも我々は問題だと感じていた。仮に貴女が不在となった場合、今までのような対応はできない」
「そうですわね」
「さらに、今回のことで隠密としては最高の仕事ができることもわかった」
「これになれると戻れなくなると」
「そういうことだ」
納得できる理由だ。
私は便利すぎるのだ。
「では今後はどういたします? 王家の影をやめますか?」
「いや、宮廷魔導士として魔物討伐については引き続き続け、行った先の領地の様子などは情報をまとめる今までの仕事を続けてほしい」
「わかりました。よろしいのですか?」
「半年、テレシア子爵がいないだけで宮廷魔導部はてんやわんやだ。だが、ようやく貴女に頼り切らない旧来のやり方に戻りつつある。彼らではどうにもならない魔物だけ相手をしてもらうことになっているよ」
「まぁ!それはそれで問題がありそうですね」
「しばらくすればテレシア子爵に頼らなくとも魔物討伐できるようになる。そうすれば席だけおいて、子爵家当主としての仕事をメインにできるだろう」
「そうなることを望みますわコーワン内務伯」
報告と今後について話し合いが終わった。
もうしばらくすれば私も自由時間が取れるということだ。
さすがに今更に出産は無理だと思うけれど……亜空間に入ることがなくなればチャンスはあるかもしれないわね。




