34.学園の状況と大人たちの思惑
おおよそ学園内での動きというものを把握できてきたころ、一つの事件が起こった。
第一王子のお気に入りの男爵令嬢、彼女の教科書が学園内の噴水に投げ込まれたという事件だ。
犯人は中立派閥の令息。
第一王子たちが犯人としてやり玉に挙げたのはアンジェリカ嬢。
アンジェリカ嬢には明確なアリバイがあり、宰相の孫であるルバート・チェスター侯爵令息によって第一王子はいさめられ、騒ぎは一応落ち着いた。
「少し情報を整理しないといけない気がしますね」
私はレポートにまとめながら、コーワン内務伯へのアポイントを取り付けた。
どうも学園の動きは生徒たちの暴走というには少し動きがおかしいと感じているからだ。
「現状、学園内は10年以上前の貴族界と同じ構図を取っています。とても不自然であり、かつ第一王子の資質を貶める流れになっていると感じますが……何者かが意図している動きでしょうか?」
コーワン内務伯の執務室では目立つことから、王都の料亭にて密談となった。
ここは経営そのものが王家の影が運営がかかわっており、部屋にランクによっては外務交渉にも使われる由緒正しい場所だ。
「あまり詳しく話すわけにもいかないが、完全に上の上の事情を反映している」
「つまり、現国王というより、先王の意向が強いと?」
私の質問にコーワン内務伯が頷く。
そもそも、第一王子とアンジェリカ嬢の婚約を決めたのは現在の国王、兄と同世代の彼が取りまとめたが、先王陛下は反対していた。
聡明ゆえに王家に拘束されるべきではないという話だったはずだ。
王妃になれば公務に政務に忙しくなり、自由な時間などほぼ無くなる。
せっかく自由気ままに商品などを開発するアンジェリカ嬢を王家に拘束することはその利をつぶすというのが考えだったはずだ。
だが現国王陛下は二大派閥化を恐れこの婚約を結んだわけだが……それがうまくいっているかというとあまりうまくいっているとは言えない。
「王家としては第一王子を立太子させるのはあきらめる方向だ。公式ではないが」
「あの醜態では、誰しもがそう判断されるかと」
「そして、アレにすべての責任を押し付け、王家ではなくアンジェリカ嬢を中立派に取り込むことで、均衡を保とういう考えがある」
つまり、王弟殿下の息子、ルバート・チェスター侯爵令息とアンジェリカ・タウンゼント伯爵令嬢を近づけ、第一王子に瑕疵をつけて全責任を負わせ、北部閥と南部閥の橋渡しを中立派が抑えることで再度均衡を保つというのが先王の考えと。
それに王弟殿下も賛成し、息子に指示してアンジェリカを支えさせ第一王子から乗り換えさせようということだろう。
国王陛下が認めているかは疑問だが、コーワン内務伯が「王家として」と言っていることから了解しているのだろう。
「その推察の通りだ。北部閥も南部閥もそれを認識している。テレシア伯令息もそのように動いているだろう?」
「えぇ甥っ子はアイリンガム侯爵令嬢に緩やかに従っている状態ですわね」
「テレシア子爵、あなたへの指示は学園での観察と記録だが、これがアレを引きずり下ろす決定的証拠となることがこの一月でわかっただろう?」
「えぇ、答え合わせもできましたし、しっかりと役割を果たさせていただきますわ」
「よろしく頼む、王国で第一を引きずり下ろすのは大変なのだ」
ふぅっとコーワン内務伯が息を吐く。
上層部ではすべて決定事項として現状を放置しているのは国法による王位継承権問題が根本にあるわけだ。
少年少女の心をもてあそんでいるともいえるが、第一王子という肩書はそれだけ重い。
なんの瑕疵もなく第二王子を立太子させることはできない。
なにか決定的なやらかしが必要というのが現状というわけだ。
が、これら上の流れを当の第一王子が理解しているとは思えない。
まぁ理解していたら取り繕うぐらいするわよね。




