10.王立貴族学園の初日
王立貴族学園にはいくつかの専門学科があります。
例えば騎士科であれば、将来はどこかの家に仕える騎士になるための勉強をしますし、家政侍女科であれば将来家令や侍女として仕えるためのより実践的な勉強をします。
私はとりあえず魔法学科に入学しました。
高位貴族であれば、領地経営科かこの魔法学科のいずれかに入るのがお約束です。
理由は簡単で、高位貴族であれば領主になるか、その魔法の腕を生かして領地の安全を保つかのいずれかになるからです。
私の場合、兄が次期領主ですから、わざわざ領地経営科に行く必要はありません。
となると、結果的に魔法学科になるというわけです。
寮内や休憩時間などは伯爵家の者たちで固まって行動することが多いですが、授業の時だけは違います。
皆それぞれの学びがありますからね。
つまり私は一人で他の高位貴族たちと同じ授業を受けることになるわけです。
「なんで一属性しか持ってない出来損ないの伯爵令嬢が魔法学科にいるんだよ」
席に着いて魔法学の本を読んでいた私にわざわざ声をかけてきた男が居ました。
顔を上げれば貴族名鑑でもあまり見覚えのない顔の男が私の席の前に立っていました。
あまり見覚えがないという事は子爵以下ですね。
伯爵令嬢の私になんてものいいでしょう。
「どこのどなたか知りませんが、貴方のおっしゃる通り私は ”伯爵家の出” なのだけれど、今のはどう言う意味での発言かしら?」
「なんだよ? 身分を笠に着る気か? 伯爵家のご令嬢なのに一属性しか持っていない出来損ないが何でここにいるのかって聞いてんだよ」
こいつ馬鹿なのかしら。
学園内でも爵位の差は歴然とあり ”成績については爵位は考慮しない” とされていますが、身分の平等は歌っていないのですが……本来爵位が下の物から上のものに話しかけることすら問題なのに、それすら分からず話し続けるとか ”良い” 御身分ですわね。
それとも彼は伯爵家以上の隠し子か何かでしょうか?
そういえば今年は子爵の出なのに3属性持ちの令息がいると聞いていましたわね……
あぁ顔がようやく一致しました。北部閥のハーバー伯爵家に連なるジョーンズ子爵令息ですね。
火と風と土でしたか……それぞれの組み合わせで魔法を使えるのはさぞご自慢でしょうが……私には勝てなそうですね。
「思い出しました。ジョーンズ子爵のご長男でしたわね、たしか3属性持ちとか。で?1属性しかなくとも私は攻撃魔法が使えますの。だからこちらにおりますわ。ところで私に向けての侮辱はジョーンズ子爵家からだけのものかしら? それともハーバー伯爵家からの指示? どちらでもいいですわね。テレシア家から正式に抗議させていただきます。3属性使えるからと言って貴族の常識をどこかに置き去りにしている方から侮辱を受けたと」
「なっ!だから身分を笠に……」
「それ以上はやめておけサイモン! お前は礼を失している見苦しいぞ!」
ジョーンズ子爵令息を別の男子生徒が制止しました。
あら、ハーバー伯爵令息ですね。彼は私に向き直り頭を下げます。
「テレシア伯爵令嬢、我が家門のものが申し訳ございません。ハーバー伯爵家の者として正式に謝罪いたします」
「ハーバー伯爵令息の謝罪は受け入れますわ。そちらの苦虫を噛みつぶした顔をされている方は謝罪する気が無いようですけれど」
「頭を下げろサイモン。貴様不敬罪で自分の首を飛ばしたいのか」
「……もうしわけ、ありません」
謝る気はさらさらなさそうですね、が言い争いはここらでしめませんと面倒です。
「ハーバー伯爵令息、家門の者を再教育されることを提言いたしますわ。それと子爵令息、私が一属性しかなくてもこの魔法学科にいることは実技で証明いたしますわ。残念ながら私は一属性しか持たないため普通のお方のような魔法理論と違う立ち位置におりますの。なのでここに学ぶつもりでおりますのよ」
私の言葉でようやく教室の空気が落ち着きを取り戻しました。
たぶん我が家に近い南部閥の生徒たちが緊張していたのでしょう。安堵の空気が一部からあがります。
さすがに入学早々、学友の首を消し飛ばすなんてしませんよ。
でも、ジョーンズ子爵令息は属性至上主義な方なのでしょう。3属性を持ったせいで高慢になっているのでしょうね。
ハーバー伯爵令息に従いたくないような感じすらありますから、特殊属性とはいえ一属性しか持たない私が魔法学を学ぶ意味などないだろうと思っていそうですね。
まぁハーバー伯爵令息の言う通り、不敬罪でしょっ引いてもいいレベルでしたけどね。
ハーバー伯爵令息からの謝罪は受けましたけど、ジョーンズ子爵家には抗議を入れてもらいましょう。
こんなひと悶着がありましたが、先生が訪れ授業がはじまりました。
皆が自己紹介をします。
ジョーンズ子爵令息以外、みな2属性持ちのようです。
私を含めて伯爵家が三人、子爵家が十二人、男爵家が一人ですか。
女の子は私を含めて三人しかいません。
一人は男爵家で女性の二属性をお持ちの珍しい方。
ドロシー・オーモンド男爵令嬢はアイリンガム侯爵家の直系ですから仲良くしましょう。
昨日のうちに挨拶もできておりますし、特に問題ないでしょう。
問題はもう一人の女性、メアリー・フェアブラザー伯爵令嬢は北部閥のご令嬢です。
出来れば敵対したくないですね。同格ですから派閥争いにならないようにしないといけません。
可能な限り仲良くしたいです。
ちょっと波乱な幕開けでしたが、初日は無難に過ごす事が出来ました。




