6.火の国へ
火の国の「火」を油田から火山に変更しました 23/12/17
「レリック・ハンター」の14話も、これに合わせて数日中に変更しておきます。
レオニードたちは、タラスの森を出ると馬に乗り、南への街道を目指して平原を進んだ。
アミルとオズナが先導し、しばらく進むと街道に出た。
そこでオズナが止まり、後ろのレオニードたちの方を振り向むく。
「この街道は、南の国へ行くのには近いが、途中険しい峠道があるし、時々山賊も出る。これだけの人数がいれば襲われることは無いと思うが、皆用心していこう」
そう言って、再び馬を進めた。
エルフのアミルは、この先は行ったことが無いのだろう。先導をオズナに任せて後ろ下がっている。
レオニードは色々聞いてみたくて馬をアミルの隣に進めた。
「エルフの皆さんは、どうして深い森にいるんですか?」
アミルが少しの沈黙の後に逆に聞いた。
「レオニード殿は、エルフに会ったのは今回が初めてですか?」
「ええ」
「どうですか? 印象は」
「美しいし、知性的ですね」
アミルは、少し照れているようだった。
「私たちが人と交わらずに森の中にいるのは、色々と理由があります。姿が違うということもありますが、一番の理由は寿命の長さでしょう」
「寿命が長いから……ですか?」
「人と一緒に暮らしていたら、周りの友人や家族が先に歳をとって死んでしまうのです。悲しいと思いませんか?」
「それは……でも、悲しみだけではなく、思い出も残ると思います」
「そうですね……」
彼らは、川沿いの街道を南へと進んだ。
街道の左側はしだいに小高い山になってきて、その先には一段と高く険しそうな山も見えている。
道の右側を流れる川は、この辺りはまだ流れも緩やかだった。
しばらく歩くと、日もだんだん暮れ始めてくる。
すると、オズナが馬を止めた。
「この先は峠に出る。夜に峠を通るのは危険じゃ。今日はこの河原で野宿しよう」
河原に入って野宿できそうな場所を見つけると、皆で枯れ枝を集めて火を囲む。
その火の上に鍋をかけ、夕食の用意をした。
今日はスープを作り、パンの代わりにエルフの国で貰った携帯食を食べる。
レオニードはスープを飲みながらオズナに聞く。
「オズナさん、火の国とはどういう国なのですか?」
「ああ、あの国には火の山があるんじゃ。確か正式名称はホルトバージ王国といったか」
「火の山!?」
「そう。火の山からは、しばしば火の川が流れでいるそうじゃ。その火の山のあたりに聖なる火が灯っているらしい」
「ということは、行ったことはないのですか?」
「そばを通ったことがあるが、火の山やその近くにある町に寄ったことはない。火以外は見るべきものは無いからの」
「国中が、熱いんですかね?」
今度はエマルが聞いた。
「いや、熱いのは火の山の近くだけじゃよ。そして人が住んでいるのだから、心配するほどではない」
「なるほど」
レオニードたちは夕食を済ませ、順番に見張りをして寝ることにした。
今はレオニードが見張り番だ。
彼は焚火に枯れ枝をくべる。まわりは静かで、川のせせらぎが聞こえるだけだ。
でも今、遠くで人の声が聞こえたような気がした。
レオニードは耳を澄ませて、周りの暗闇の方を見回したが、その後は何も聞こえない。
彼は、もしかしたら空耳だったかもしれない、と思って再び火の方に目を戻した。
そこに、トトが飛んできたので、レオニードが左腕を出すとそこにとまる。
「おかえり、トト。獲物は見つかったか?」
レオニードは皆が寝ているので、小さい声で言った。
すると突然、トトが「フギャー」と、大きな鳴き声を上げた。
その鳴き声で皆が目を覚ます。
「ん? なんだ?」「どうした?」
「すいません、急に鳴き始めました」
レオニードが謝った。
すると、エルフのアミルが足音に気がついた様だ。
「南から何人かが近づいてくる」
それを聞いて、皆は自分の武器を手に取って立ち上がり、南側の闇に目をこらしてみる。
その直後、少女が草むらから飛び出してきた。
歳は十六才ぐらいで髪は金色。服はあまり見かけない民族衣装だった。黒と白がベースの服に、花の刺しゅうがあるのが特徴的だ。
その少女は一旦止まってそこにいたレオニードたちをざっと見たが、すぐに中央にいたレオニードのところに駆け寄ってくる。
中央にいたということもあるだろうが、歳が近くて話しかけやすかったのかも知れない。
「助けてください! 盗賊に追われています!」
「盗賊?」
皆はそれを聞いて、焚き火を背にして身構える。
「まてー!」
という声が聞こえて、その後ろの暗闇から数人の男たちがが後を追って来るのが見えた。
「後ろに」
レオニードはそう言って、その少女を自分の後ろに行かせる。
「おい、そこの娘を渡せ!」
一人が言ってきた。
「断る!」
そう言って、レオニードはその盗賊をにらんだ。
盗賊たちはお互いに目配せすると、すぐに襲ってきた。
アミルは得意の弓矢で、まずは自分に向かってきた男の右腕を射て出鼻をくじく。そしてナイフで切りつけた。
レオニードは剣で相手の剣を受け止め、横に払って相手がよろけたところに、剣を振り降ろした。
エマルは身軽な男と剣を交わしている。その男はエマルの剣をひらりと飛んでかわすので、エマルは手こずっている。
オズナは剣を持った相手に杖を突きだし、少しずつ後ずさりしていた。そのオズナの前にポンザが出て相手にヤリを突き出すが、そのヤリは相手に払われる。そこをアミルが弓で、その相手の盗賊の喉を射抜き、ポンザがとどめを刺した。
身軽な男に手こずっていたエマルも、アミルの弓に助けられて、相手を切り倒したようだ。
レオニードは、あたりを見回した。
「もういないか?」
「大丈夫、これで全員の様じゃ」
オズナが言った。
何か特別な力で、周囲を探ったように見える。
すると、後ろで隠れていた少女が皆の前に出てきた。
「本当に、ありがとうございました」
「でも、どうしてこんなところに?」
レオニードが聞いた。
「私は、この先のホルトバージ王国の者ですが、薬の材料を採りに山に来たところを、盗賊に捕まってしまいました。少し前に、あの者たちの隙を見て逃げてきたのです。そうしたらこの焚火が見えましたので、必死でここまで走ってきました」
「なるほど」
「あっ。私はユシカといいます」
その少女が自己紹介してきたので、レオニードたちも自己紹介する。
「私はレオニード」
「オズナじゃ」
「俺はエマル」
「アミルよ」
「ポンザです」
ユシカはアミルを見て、驚いている。
「噂でエルフの方々が北の森に住んでいるらしいことは聞いていましたが、会うのは初めてです」
「私もここまで南に来たのは初めてよ」
アミルが応えた。
すると、トトがレオニードの所に戻ってきて、肩にとまってきたので紹介する。
「あ、こいつはトトさ」
「皆が無事だったのも、トトのおかげですね」
ポンザが言った。
ユシカがトトに顔を近づけて聞く。
「この辺りでは見かけない鳥ですね」
「こいつはフクロウさ」
レオニードがトトの首のあたりを撫でながら言った。
「これがフクロウなんですね? 南の国の神話で聞いたことがあります。触っても大丈夫ですか?」
「おとなしいから大丈夫でしょう」
ユシカが恐る恐るトトの首のあたりを撫でると、トトは気持ちよさそうにしているようだ。
「では、我々も明日、ホルトバージ王国を訪れようとしていたので送りましょう」
と、レオニード。
「それは、ありがとうございます。でもあの山に、薬の材料をあの山に採りに行くところでしたので」
そう言ってユシカが指した先には、星空を背景に険しい山の影が見えている。
その山は、レオニードたちが向かっている峠道の横にそびえ立っているようだ。
「そうですか。では、途中までご一緒しましょう」
「はい、ありがとうございます」
「ところで、この盗賊の亡骸はどうする?」
エマルが聞いてきた。
「このままでは、なんじゃ。川に流して水葬にするかの」
オズナがそう言って、自分の顎髭を撫でる。
そこで、レオニードとエマル、ポンザで亡骸を川に流した。
翌朝レオニードたちは、日が昇ると、朝食を済ませてから出発した。
ユシカはレオニードの馬に相乗りで、レオニードの後ろに座っている。
すると少し行ったところで、夕べの盗賊たちの馬が河原にいるのが見えた。
昨夜ユシカは、ここから逃げてきたのだろう。
その馬たちを見たアミルがユシカに聞いた。
「ユシカさんは、馬は操れる?」
「はい、大丈夫です」
「じゃあ、良さそうなのを一頭連れてくるわ」」
アミルが馬の方に行こうとすると、それを聞いたポンザも馬を降りて手伝いに行く。
もしかしたら、アミルから馬との接し方を学ぼうとしているのかも知れない。
一頭の馬の近くまで行くと、アミルが横にいたポンザに言う。
「この馬が良さそうね。馬に最初に話しかけるときはこう言うのよ……シュアバス、レルテ」
聞き慣れない発音だなと、ポンザは思ったようだ。
「シェア……レーテ?」
すると、その馬がアミルの方を見て、首を縦に振る。馬はすぐに彼女を受け入れたようだ。
アミルはその馬の首に手を伸ばして、撫で始める。
「シュアバス、レルテよ」
「それじゃあ、オラ……私も」
「シュアバスレーテ」
ポンザは他の馬で真似してみたが、あまりうまくいかなかったようだ。その馬は逃げてしまった。
「あっ」
「発音をもう少し正確に」
アミルは助言した。
「わかりました。次回はきっと」
アミルはユシカのために、その馬を引いて戻る。
「アミルさん、ありがとう」
ユシカがそう言ってその馬に乗り、一行は再び出発した。
彼らがさらに街道を南下すると、横を流れていた川は滝になった。そこからは街道と横を流れていた川との落差が大きくなって、街道のすぐ横は崖になる。彼らは注意深くその道を進んだ。
その途中でユシカが止まった。
「私はここから、この山の上に昇ります」
ユシカがそう言ったので、皆も止まって左上の山を見上げる。
その山はかなり険しそうだ。途中には崖のように切り立った部分もある。
「ここを何回か登ったことがあるのかな?」
オズナがユシカに聞いた。
「いえ、初めてです」
「え?」
レオニードたちは驚く。
レオニードたちは、彼女がここによく来て登りやすい道を知っているのかと思っていたが、そうではないとわかると、はたしてこの少女がこの山を昇れるのか心配になってきた、
「あなたは、あそこに何を採りに行こうとしているの?」
アミルが不思議に思って聞いた。
「ロック鳥の卵の殻です」
「え?」
またもや皆が驚く。
ロック鳥といえば、大きな動物をさらって食べるという、伝説に出てくるとても大きくて危険な鳥だ。下手をすると、ドラゴンと同じぐらい危険かもしれない。
伝説では、翼の大きさは広げると少なくとも家三軒分はあるらしい。
「ロック鳥なんて本当にいるのか?」
エマルが聞くと、ユシカが首を振りながら応える。
「よくわかりませんが、あの頂き付近に巣があるという話を聞いて」
「確証も無いのに、こんな山を登るのか?」
「もしいたとして、その卵の殻からどんな薬を作ろうと?」
アミルがユシカに聞いた。
「よくわからないのです。ただ、父が急に倒れて、そのとき現れた旅の魔術師が、それが必要で、この山の上にロック鳥の巣があるはずだ、と言うものですから」
アミルが首を傾げる。
「他の方法がありそうな気がする。私は薬草の知識もあるから、まずは父上殿の容体を見てみたい」
「わしも、少しは薬の知識がある。助けになるかもしれん」
オズナも言ってきた。
「わかりました。たしかに、私もロック鳥は見たことないし、実際来てみるとこの山は人がとても登れそうもありません。……では町にご案内します」
ユシカは二人の意見に従うことにして、山に登ることをあきらめた。
彼らがそこを過ぎて、さらに峠道を進むと、南の土地がよく見渡せる見晴らしのいい場所に出る。
そこで彼らは馬を止めた。
ユシカがレオニードの横に馬を並べて来る。
「あそこが、通称火の国。ホルトバージ王国です」
そこから南に広がる土地は、森も豊かだが、大きな火山が見えている。
その火山からは噴煙が上がっているようだ。
レオニードたちは、再び馬を進め、道なりに山を下ってその町を目指した。
途中、ユシカがレオニードの横に馬を並べてくる。
「この国に外から旅人が訪れるのは珍しいですが、何をしにいらっしゃるのですか?」
そこでレオニードは、ドラゴンと女神のお告げの事を話した。
それを聞いて、ユシカの目が輝く。
「まあ? それは、わくわくしますわね。私もそういう冒険の旅をしてみたいです」
「え?」
「でも、それは父が許さないでしょう。そして、聖なる火を手に入れるのは、今は少し難しいかもしれません」
「どうしてですか?」
「それは、火の山が活発になっているからです」
彼らは山を下り、森の間に続く道を南へと進んだ。
その途中で、ときどき風に乗って、少し臭い匂いが漂ってくる。
「これは火の山から出る匂いです」
ユシカが説明した。
彼らはやがて、町の入口に着いた。
ユシカが案内しながら、皆は町の奥へと進む。町を歩く人々はユシカが着ているような、変わった民族衣装だ。
レオニードたちは周りの家を見まわしてみた。
どれも、石を積み上げて出来た家で、屋根と入口、窓は木でできている。
彼らがさらに進むと、王城がしだいに大きくなってきた。
サマ王国の王城のとは違って、こちら石で出来た砦という感じだ。
ユシカがさらに王城の方に向かうので、レオニードたちがどうするのかと思っていると、ユシカはそのまま城の門に案内した。
すると、門の両脇にいる兵士が敬礼してくる。それを見て、レオニードたちは顔を見合わせた。
彼らはそのまま城門を通り抜け、城の玄関前で馬を降りると、召使と思われる人々が出てきて皆から馬を預かり、馬つなぎにつないでいった。
その後から、身なりのいい老人があわてて出てくる。
「姫、姿が見えないので、皆心配しておりました」
レオニードたちは顔を見合わせた。今の会話からすると、ユシカはこの国の姫らしい。
「爺。隣国との境の北の山に行ってたの。そこで盗賊に捕まったところを、この方たちに助けられました」
「なんと! 一人で行くなど無茶です。しかしご無事でよかった。馬だけが戻ってきて、皆で心配しておりました。これから捜索隊を出そうとしていたところです」
そして、その老人は俺たちに礼を言ってきた。
「姫をお救い下さりありがとうございました。ここではなんですから、中へどうぞ」
「姫様と分かっていたら……」
レオニードたちはユシカが姫と分り、非礼を詫びるべきかと考えていると、ユシカの方から言ってくる。
「気にしないで、今まで通りに接してくださいね。では中へどうぞ」
そう言って、ユシカが案内して、皆で城の中に入った。
「まずは、部屋を用意させましょう」
「いや。先に御父上のご容体を診たいのだが」
アミルが言った。
「ありがとうございます。では、こちらへ」
ユシカは城の奥へと進み、兵士が守っているドアの前で止まった。ユシカがうなずくと、兵士がドアを開ける。
「どうぞ」
ユシカがレオニードたちを、部屋に招き入れた。
部屋の奥には、ベッドで王様が寝ていた。顔色はよくなさそうだ。
アミルは、部屋の入口の脇に弓矢などの武器や荷物を置いて、王様に歩み寄る。「爺」と呼ばれた老人とユシカ、オズナも続く。
一応姫の命の恩人ということで、武器は預けろとは言われなかったが、やはり王の寝所近くに寄るときは武器を置くのが礼儀だろうとレオニードたちも思い、彼らも武器を置いて王様に近づいた。
アミルが王様の手を取って、容体を診ている。
「これは、植物由来の毒だと思うが」
「わしもそう思う」
アミルが言ってオズナが応えた。
そしてアミルは、ユシカと爺の方を向いた。
「毒を盛られたようです。でもこれは、どこにでもある、いくつかの薬草があれば治ります」
それを聞いたユシカたちが笑顔になった。
そこにドアがノックされる。
「魔術師殿がみえました」
ドアのところにいた兵士が言ってきた。
案内されて入ってきた魔術師が、ユシカの顔を見るとハッとする。
しかしオズナはその表情を見逃さなかった。
「どうなされた? ユシカ殿がここにいるのが不思議か?」
と、オズナが魔術師に聞いた。
「な、なにを申される」
魔術師は焦っているようだ。
「そなたの仲間たちは、夕べ我々が成敗したぞ」
それを聞いた魔術師は、冷や汗をかき始めた。
「それでは、この魔術師が盗賊の仲間で、私をあそこへ行くように仕向けたのですか?」
ユシカが驚いてオズナを見る。
「その通り。この解毒をするのにロック鳥の卵など必要ない。ユシカ殿をあの峠に向かわせて襲うための作り話でしょう」
オズナはユシカにそう言って、今度は魔術師に言う。
「お前さんら身代金目当てか? 夕べ成敗した中に身軽なものがおったが、あいつが忍び込んで毒を盛ったか。もしかすると、おまえさんは後で王様を治して、この国の要職にでもつくつもりじゃったか?」
それを聞いて、魔術師が逃げだそうとした。
「捕まえるのよ!」
ユシカが入口の兵士に命じた。
兵士は出て行こうとした魔術師をすぐに捕まえる。
オズナが魔術師に近づいて、顔を覗き込む
「もしかすると、こやつは解毒剤を持っているかもしれないの」
「どうなのだ?」
兵士が捕まえた魔術師の襟首をつかんで質問した。
魔術師はおろおろしている。
「もし、解毒剤を出せば、罪が軽くなるかもしれんぞ」
オズナが魔術師にそう言うと、
「ある……」
と、魔術師はぽつりと言って、肩を落とした。
「それをよこしなさい」
アミルがそう言うと、魔術師はしぶしぶ懐から薬の入った袋を取り出す。
アミルがそれを受け取り、中身を確かめ、小指に粉を付けて舐めてみる。
「間違いないわ、いくつかの毒消し効果がある薬草が混ざっている」
「水でお父上に飲ませるのじゃ。量はさじに一杯でよい」
オズナがそう言うと、ユシカが薬を受け取る。
次にユシカは水差しから木のコップに水を注ぎ、その中にさじ一杯の薬を入れてかき回し、王様に飲ませた。
「おそらく、明日の朝には回復されるでしょう」
アミルが言った。
次の日の昼、レオニードたちは大広間に呼ばれた。
レオニードたちが全員入ると、王様が回復していて彼らを迎えてくれる。
すっかり回復しているようだ。
「我が娘だけではなく、私も救っていただいて、本当に感謝します」
王様が言ってきた。
「この度は、ありがとうございました」
ユシカもあらためて、お礼を言ってきた。
「何はさておき、まずは歓迎の宴を催しましょう」
王様はそう言うと、横にいた部下に合図をした。
すると奥の扉から、女性たちがいろいろな果物や肉料理やスープなどを持って入って来る。
レオニードたちは、案内されるままにテーブルに座り、その前に料理が並べられていった。
この国の大臣や騎士と思われる人々も席に着く。
盃に酒が注がれると、王様が席を立つ。
「皆さんへの感謝と、あなたがたの旅の目的が果たされますように」
王様が乾杯の音頭を取って、皆が盃を上げた。
今度はレオニードの番だ。
「この国に永遠の繁栄を」
そう言うと、再び皆が盃を上げて、お互いに飲み干した。
部屋の中央では、この国の踊りが披露されている。
けっこう速いテンポで、女性はくるくる回り、男性がときどき自分の足を叩いてリズムをとる。
皆は食事や踊りを楽しんだ。
宴も終わりになったころ、王様が聞いてくる。
「そういえば、レオニード殿は聖なる火を別けて欲しいそうですね」
「はい、ぜひともお願いします。それがないと聖剣が鍛えられないのです」
「私としては、別けて差し上げたいのだが、問題があるのです」
「それはどういう問題ですか?」
「それは、これからご覧にいれましょう。どうぞこちらへ」
そういうと、王様は城のテラスに出る扉に向かった。
レオニードたちも後をついて行く。
王様はテラスから、説明する。
「あの火の山の中腹に洞窟があります。その洞窟は火口に通じていて、その奥に聖なる火が灯っているのです」
「そんなところに?」
と、レオニード。
「ところが今は火の山から溶岩が流れていて、その聖なる火に近寄れません」
レオニードたちは顔を見合わせた。
「とにかく、近くまで行って見ることは出来ますか?」
「では、案内させましょう」
レオニードたちは火の山に向かった。
「時々大きな石が降ってくることもありますので、注意してください」
案内の者が言ってきた。
火山の中腹まで登ってくると洞窟の入口がある。
そこからは熱気が吹き出していて、かなり熱そうだ。
「この熱気。この辺りはまだいいが、中はもっと暑そうだな」
エマルが言った。
「わしが何とかしよう」
と、オズナ。
「なんとかできるんですか?」
レオニードが驚いて聞いた。
「今から涼しい風を吹かせて、この洞窟の中に送り込む。さすれば人が入っていけるじゃろう」
「ではお願いできますか」
オズナは杖を持ち、呪文を唱え始めた。
すると風が吹いてきて、その洞窟の中に吹き込んでいった。
「わしはこのまま、ここで風を吹かせるので、行ってくるが良い」
「では行ってきます」
オズナはそこに残り、皆は洞窟の中に入っていく。
少し歩いたところで視界が開けた。
ここは火山の中で、下には火の川。つまり溶岩が流れている。
その溶岩は、火の山の中腹に出来た穴から外に流れ出ているようだ。
「聖なる火はどこです」
レオニードが、案内の者に聞いた。
「あそこです。火の川が流れていないときなら下に降りて、あの階段を登れますが今は……」
今レオニード達が立っているところから火の川を挟んで対岸に祠のような物があった。
距離は二十メートルぐらいだ。
「確かに今は渡れないか」
「待って。あの金属の杭は?」
アミルが聞いた。
そこには金属の杭のようなものが撃ち込まれているが、その頭にはあなが空いている。
「あれは、ここに橋を掛ける時に縄を通すものです」
「あそこに矢を通して、ロープを通してみる?」
アミルがレオニードに聞いた。
「え? あそこに?」
「やってみるわ」
アミルは矢の中央にロープを結びつける。
細いが丈夫そうなエルフ製のロープのようだ。
そしてその矢を弓につがえ、矢を放った。
すると矢はその穴を通り、矢に結んであったロープもその穴を通り抜ける。
「おみごと」「すばらしい」
皆が褒めた。
アミルがゆっくりとロープを手繰り寄せると、矢がその穴につっかえてロープが張られた。
あとは、誰かがロープを伝って向かう側に渡ればいい。
「では、私が行ってくる」
レオニードがそう言うと、残りの皆でそのロープを持って支える。
レオニードは今は必要がない剣などを外し身軽になり、腰には王様からもらったランプだけを縛り付けた。
そしてロープに捕まり、足と手を使って渡り始める。
「旦那さま、頑張ってください」
ポンザが声を掛けた。
レオニードはなんとか向こう側にたどり着いた。
そして祠に入り、ランプに聖なる火を移して引き返してくる。
途中、足がロープから外れるハプニングがあったが、なんとか戻ってくることが出来た。
「やったな」「やりましたね」
エマルとポンザ。
「ありがとう、皆のおかげだ」
レオニードたちは町に戻ってきた。
すると王様も、その火が欲しかったらしく、レオニードは他のランプに火を移してあげた。
その晩は城に泊らせてもらって、次の朝に出発することにする。
その夜、レオニードが城のテラスの上から火の山を見ていると、横にユシカがやってきた。
「レオニード様は、ドラゴンを倒した後はどうされるのです?」
「そこまでは考えていませんでした」
「この国に住むのはどうですか?」
「え?」
「父には息子がいないので、もし……いえ、なんでもありません」
ユシカは顔を赤くして小走りで去った。
出発の朝、王様が木の樽に植物から取った油を入れたものを、それを運ぶための荷車と一緒に用意してくれた。
その荷車は、盗賊が残してユシカがここまで乗ってきた馬で引くことにする。
「途中、一日に一回ほど、そのランプにこの油を足しながら行きなさい、そうすれば火は消えることがないでしょう」
王様が別れ際に言ってきた。
「ありがとうございます」
「ではご武運を」
レオニードは、ユシカが見送りに来ていなかったのが少し残念だったが、見送ってくれた王様たちに挨拶をして、その町を出発した。
少し進んだところでオズナが皆に言う。
「では、次は聖なる金属を求めて、ドワーフのいる村を目指そう」
それを聞いたエルフのアミルが少し嫌な顔をした。
「ドワーフですか?」
「そうじゃ」
「ドワーフも本当にいるのですね」
ポンザが聞いた。
「ああ、おるとも。ここから南西の山に囲まれたところにおる」
すると、町からから少し離れた所で、後ろから馬が一頭追い駆けてきた。
振り向いて見ると、あのユシカだ。男性のような旅用の服を着て、腰には剣を刺しているようだ。
「どうしたのです?」
レオニードがユシカに聞いた。
「私もご一緒させてください」
「え!?」
「私も少し世の中を見てみたいの」
「お父様が反対されたのでは?」
「はじめは反対していましたが。根負けしましたわ」
レオニードは皆を見まわした。
「しょうがないですな」
と、エマル。
レオニードたちは、遠くに見えるアルム山脈を目指し、草原の道なき道を南西へと進んだ。
サマ王国の王都の西の草原では、チェスカから避難してきた村人たちが野宿していた。
三日前、王都まで半分の距離に来たところで騎士がやってきて、王都には全員が泊まれるところがないので、ここで野宿するように言ってきたのだ。
一応テントを張るための布などはくれたので、それを使って、二十張りのテントができた。
牧童のヤンは、そのテントの近くの草原で羊たちに草を食べさせていた。他の家の羊たちも一緒にみている。
その時遠くで何か吠えたような気がした。
もしかしたらドラゴンじゃないかという考えがよぎり、顔を上げて空を見る。
しかし、真上にはなにもいない。
そして西の、自分たちの村があった方の空を見た時だ。遠くからこちらに向かって黒いものが飛んでくるのが見えた。
あれは間違いない。ドラゴンだ、と思ったヤンは、羊をそのままにして、村人がいるテントに走った。
「ドラゴンだ!」
ヤンが叫ぶと、みんながテントから出てきた。
「どこだ?」
「あそこ」
ヤンが指さした方から、黒いものがこちらを目指して飛んでくる。それはだんだん大きくなってきた。
初めてドラゴンを見る村人たちも、あれが普通の鳥ではないことはすぐにわかった。
村人たちは、「ドラゴンだ!」「逃げろ!」と叫んだ。
みんな慌てふためいて、右往左往している。
「みんな後ろの森の中に入れ!」
村長が叫んだ。
それを聞いて、村人たちは森の方に走り始めた。
後ろを振り返ると、ドラゴンはさらに大きくなる。
ヤンが、一番最後に森に飛び込んだ。
すると、ドラゴンは放牧されていた羊のそばに降り、逃げまどっていた羊をくわえて丸呑みにした。
そして、次の羊に向かって少しジャンプすると、その羊を捕まえ丸呑みにする。
同様にして五匹ぐらい食べると、ドラゴンは食べるのをやめて、森からドラゴンを見ていた村人の方をジロリと見た。
村人は焦って、森の木の後ろに隠れる。
すると、ドラゴンは飛び上がり、再び西の方へ帰っていった。
村人たちは、恐る恐る森から出てきた。
「あれがドラゴンか」
「怖いわ」
「帰ったみたいだな」
「もう、来ないだろうな?」
「腹がへったらまた来るに違いない」
「俺たちはどうしたらいいんだ?」
「羊たちが全部食べられたら、次は俺たちだぞ」
「……なぜいつも俺たちなんだ?」
「そりゃあ……、あのドラゴンの巣から一番近いところにいるからだろ」
「ということは王様は、王都にドラゴンが行かない様に、俺たちをここに足止めしたんじゃないのか?」
「え!?」
「それで、ここにテントを張らせたのか?」
「そんなひどいわ」
村人たちに沈黙が広がった。
「……王様があてにならないならどうする?」
村人の一人が口を開いた。
「俺たちには、どうしようもできない」
「でも、ここに居たらまたくるぞ」
「じゃあ、どこかに移動しよう」
「そんなこと言ったって、どこに?」
「もっと、東に行ったらどうだ?」
「騎士に追い返されるぞ」
「じゃあ、南から遠回りして、王都を抜けたらどうだ」
「……そうするか」
村人たちは、こっそりと王都よりも東に行くことにする。
荷物をまとめ、まずは少し西に戻ってから、南に向かう街道に出た。




