5.エルフの国へ
レオニードたちはオズナの案内でまずはエルフの国へ行くことになり、砦近くのモラブ川の浅瀬を東岸に渡ろうとしていた。
馬が川底の石に足をとられて怪我をするといけないので、ここは全員馬から降りて引いて渡ることにする。
今回の旅ではポンザも馬をあてがわれた。長旅になりそうなのと、先日の馬泥棒の一件で、ポンザへの評価が上がったことも理由だ。
「じゃあ、渡りましょう」
レオニードがそう言って、彼らは川の中に入って行った。
レオニードが川の途中まで来ると、自分の家である砦の方から、フクロウのトトが飛んでくるのが見えた。レオニードが左肘をあげると、トトがとまってくる。
どうやら、昨日一緒に行ってくれと言ったのが分かったらしい。
「トト? 来てくれたか。さあ一緒に行こう」
彼がそう言うと、トトはホッホッと鳴いた。
その後トトは、レオニードの肩にとまったり、彼がが引いている馬の鞍の縁に飛び移ったりして、快適な場所を探しているようだった。
川の東岸付近は、あまり農地に適していないので人が住んでいない。隣国の砦も無いが、頻繁に見回りがやって来る。
これから足を踏み入れる隣国とは、五十年前に戦争をしているので、下手をすると様子を探りに来た間者として捕まる可能性もある。
そういう理由からレオニードたちは、できれば見回りにはここを渡っているところを見られたくないと思い、少し急いで川を渡った。
川を渡り終え、馬に乗って街道に向かって進んでいると、オズナがレオニードの横に並んでくる。
「レオニード殿」
「なんでしょう?」
「大丈夫だと思うが、オイマール家の紋章がついたものなどは持っていないであろうな?」
それを聞いたレオニードは自分の荷物や馬具を見る。そんなものを持っていたら、間者と思われて捕まってしまう可能性がより高くなる。
「大丈夫です」
「隣国にいる間は、武者修行の旅の騎士として通すのじゃぞ。名前も考えておいた方がいい」
「わかりました。……ではアビークと名乗りましょう」
「うむ」
レオニードたちが街道に出てしばらく進むと、さっそく隣国の見回りの騎士が三人、前からやって来た。
街道は馬がやっとすれ違える程の道幅だったので、レオニードたちは一列になり、その騎士たちとすれ違おうとする。
「待たれよ」
見回りの騎士の一人が声をかけてきた。
レオニードたちに緊張が走る。
レオニードたちの足が濡れているのに気が付いたかもしれない。
「なんでしょう?」
とレオニードが応えて、皆が馬を止めた。
「どこからきて、どこへ行かれる?」
「私たちは、武者修行で色々な国を旅しています。後ろの御老人は旅の途中で知り合って、一緒に旅をしています」
「武者修行?」
その騎士の後ろにいた隊長と思われる騎士が聞いてきた。
そしてレオニードの方をジロリと見て、続ける。
「それは面白い。手合わせ願えないかな?」
「え?」
レオニードは予想もしていなかった言葉に戸惑った。
その隊長はニコニコしながら、さらに言ってくる。
「我々の国は武を貴ぶ。少しいいではないか」
おそらく、腕に自信があるのだろう。
「はあ」
レオニードはあいまいな返事をしてから、どうしたものかと思いオズナを見る。
「受けてみてはどうじゃ」
オズナがそう言うので、レオニードは受けてみることにした。
「では、少しなら」
「そうこないとな」
その隊長は嬉しそうだ。
レオニードとその隊長は馬を降りて、道から外れた空き地で剣を抜いて対峙した。
他の皆も馬から降り、その様子を見物している。
「ではいくぞ!」
そう言って、隊長が上段から切りつけてきた。
それをレオニードは剣でわきに払う。態勢を立て直すとすぐにお互いに剣を振りかざし、剣と剣がぶつかった。
体格は隊長の方が上だ。腕力勝負では勝てないだろう。レオニードは旅の剣士バージルに教わった通り、身軽さを生かすことにした。
まず、レオニードは剣を押し出し、反動を利用して少し後ろに戻る。そこを隊長が今度は横から切ってきた。それをレオニードは隊長の横に飛んでかわし、今度はレオニードが剣を横に払う。すると隊長はバランスを崩した。そこにすかさずレオニードは、隊長ののど元に剣を突きつけた。
「ま、まいった」
隊長が降参した。
「失礼しました」
レオニードは剣を降ろしてさやに納め、丁寧に対応する。
「おぬし、強いではないか? 名前は?」
隊長も剣を納めながら聞いてきた。
「レオニード・アビークといいます」
「そうか、アビーク殿。実は王都で武芸大会がある。それに出てはいかがか?」
「武芸大会ですか?」
「わしはベネディクトと申す。わしの名を出せば参加できるはずだ。おぬしなら、きっといいところまでいけるぞ」
「そうですか」
「武芸大会に出るなら、このまままっすぐ行って、途中の村の先にある分かれ道を右に南下すればいい」
「わかりました。ありがとう」
見回りの騎士たちは去っていった。
ポンザが、レオニードに馬の手綱を渡しながら言ってくる。
「旦那様、お強いですね」
「今回はまぐれさ」
そう言って、レオニードは馬にまたがった。
でもレオニードは、この勝利で少し自信がついたようだ。
「さすがですな」
エマルも言ってきた。
オズナはニコリとして、
「運命がそなたを導く。さあ、東へ進もう」
レオニードにそう言うと、馬を進めた。
サマ王国の王城では、謁見室にいたサマ王に、大臣がレオニードからの手紙を持って来た。
「陛下、あのオイマールの若者から途中経過が届きました」
「それで?」
サマ王は、目通りを願い出ていた者への対応がやっと終わり、王座に片肘を突いて気だるそうにしていたが、どういうお告げだったのか興味がわいて、身を起こした。
「女神のお告げでは、折れた聖剣を探し出して鍛えろ、という内容だったそうで、彼はそれを探して鍛える旅に出るようです」
「折れた聖剣?」
「おそらく彼の家に伝わると言う聖剣でしょう」
サマ王は、彼の父がオイマール家の後ろ盾になった当時のことを、昔言っていたのを思い出した。
彼の父はその聖剣に興味があり、隣国に持っていかれるのを防ぐ意味もあって、オイマール家の後ろ盾になったと言っていた。でもその聖剣は、行方不明になっているとも言っていた気がする。
「ああ、そういえば聞いたことがあるな。して、どんな剣なのだ?」
サマ王は大臣に聞いた。
「たしか、『グラム』といいましたかな」
「ほう?」
「はるか昔。神オーディンが、ある王の結婚の席にやってきて、携えていた剣をリンゴの木に刺したそうです。そして、この剣を抜くことができた者にこの剣を与える、と言ったそうです」
「引き抜くのは簡単ではないか」
「ところが誰も抜くことができず、オイマールの先祖が唯一その剣を抜いて、もらい受けたそうです」
「そうなのか?」
「ところが、オイマールがある戦場で戦っていると、オーディンがヤリを持ってあらわれ、その剣を折ってしまったそうです」
「どうしてだ?」
「それはわかりません。神の御意思は、人間には計れません」
「それでさきほどの手紙で、折れた剣を鍛える、と書いてきたのか」
サマ王は聖剣と言われるほどの剣が、どうして折れているのか気になっていたが、ある程度は納得できたようだ。
「まあ、しかし、ドラゴンの心配はもうしなくても大丈夫かもしれません」
「そうなのか?」
「ドラゴンはあのチェスカ村の家畜や村人を食い尽くしたら、次は西の隣国にいくでしょう。シュマブから次に近いのは隣国の村です」
「そうか。それならよいが」
そこに、騎士団長がやってきて、腕を胸に当て敬礼する。
「陛下」
「どうした?」
サマ王が聞いた。
騎士団長は王座の近くまで進む。
「物見によりますと、例のドラゴンの襲撃を受けたチェスカ村の者たちが、全員で村を引き払ってこちらを目指して移動しているようにございます」
「なに?」
サマ王はそう言って、大臣を見る。
先程の大臣の話しでは、あの村を犠牲にすれば、ドラゴンは他の国に行ってくれるのではないかということだった。
その村人たちがこちらに向かっているなら、果たしてこの先どうなるのか心配になってきたようだ。
大臣も目論見が外れて、少し焦っている。
「奴らは、村を捨てたか!?」
「ああ、そのようだ」
騎士団長は大臣に答えた。
「これは、まずいことになるかもしれませんな」
大臣が眉間にしわをよせた。
「そんなに、まずいのか?」
騎士団長はどういうことになるのかわからず、大臣に聞いた。
「うむ。村人や家畜があの村にとどまっていれば、ドラゴンは食料にはしばらくは事欠かないし、その後は西の隣国に行ってくれると思っていた。だが、村人がこちらに向かっているとなると、下手するとドラゴンがこの王都に目をつけるかもしれん」
「では大臣は、ドラゴンが村人たちを追って、ここに来ると?」
「こちらに向かって移動しているのがドラゴンに見つかれば、そうなる可能性が高い。もう見つかっているかもしれん」
「……しかし、ドラゴンごとき。聖剣が無くても我々騎士団が退治して見せる」
騎士団長が胸を張って言った。
それを聞いた大臣がいぶかし気に聞く。
「ん? 何で聖剣のことを知っている?」
「あっ。実は密偵からの報告が届いてな……」
サマ王はしばらく二人のやり取りを聞いていたが、
「聖剣以外にあのドラゴンをなんとかできる手段があるのか?」
と、騎士団長に聞いた。
「はっ。現在、東の国から来た賢者に教えてもらった知識で、大弓を作らせています」
「大弓?」
「当たれば、城壁も吹っ飛ぶほどの威力だそうです」
「そうか、それは期待できそうだな。で、それはいつできる?」
「あと、二、三日もあれば完成します」
「それなら、少なくともそれまでの間ドラゴンを足止めできればいいな?」
「はい」
「ではチェスカから向かっている村人は、王都に来る前に、どこか途中で野宿させておけ。そうすればドラゴンは、しばらくはここに来ないだろう?」
「はい」
「まあ、テントぐらいは支給してやれ」
「わかりました」
そう言うと、騎士団長は敬礼して退室した。
レオニードたちは街道を通り、翌日には隣国の王都への分かれ道の近くまで来ていた。
ここは両脇を小高い山に挟まれた場所で、そのふもとまで畑が広がっている。その畑では農民が耕しているのが見えた。
少し先には村があり、その手前には関所も見えている。
関所では、旅人はすべて調べられているようだ。何人かが順番待ちをしていた。
関所の横には左右の山にまで達する柵もあり、迂回するには山の中に入らなければならない。そしてここから迂回したら、目撃した農民が不審に思って通報するだろう。
レオニードたちは、おとなしく旅人の列に並ぶことにした。
「名前は?」
関所の役人が聞いてきた。
「レオニード・アビーク。旅をしています」
「目的地は?」
レオニードはここで、昨日聞いた情報を使うことにした。
「武者修行の旅ですが、王都で開かれる武芸大会に出ようと思っています」
「ほう? 紹介者はいるのか?」
「ベネディクトさんです」
「そうか。あの家の紹介なら間違いなかろう。では通れ」
レオニードたちはすんなり関所を通った後、笑顔で顔を見合わせた。
あそこで戦ったおかげで、うまく通ることができたようだ。
「オズナさんは先程、運命が導くとおっしゃっていましたが、こういうことでしたか」
レオニードが聞いた。
「そのとおりじゃ」
レオニードたちはその村を通り過ぎ、しばらく行くと、分かれ道にさしかかった。
そこで先頭を行くオズナが止まり、馬ごと後ろを向く。
「ここを右に曲がると、この国の王都トレンチじゃ。我々はこのまままっすぐ進み、あのタラスの森の中へ入る」
レオニードたちの前方には、遠くにリスイ山脈が見え、その手前に青黒いタラスの森が広がっているのが見える。
普通なら近くの村人が木材などを得るために森に入って木を伐採することが多いと思われるが、あのタラスの森はうっそうとした感じで、人間がだれも近づかない魔の森のように感じた。
「あの森に?」
「大丈夫なのか?」
と、レオニードとエマル。
「あの森の奥にエルフたちがひっそりと暮らしておる」
「あんなところに?」
ポンザが聞いた。
「エルフたちは、あまり人と交わらないのでな。ひっそりと暮らすにはああいう場所が最適なのじゃろう。さあ、日が暮れないうちに行こうではないか」
オズナは皆に言い終わると馬の向きを戻して、再び馬を東に進めた。
森に近づくにつれ道は荒れ始め、とうとう道はなくなる。彼らはそのまま草原の中を進んで行った。
その間トトは時々飛び立ち、戻ってくるとレオニードの肩にとまったり、馬の荷物の上に移ったりしていた。
一行がタラスの森の端に着いた時には日が暮れ始め、森の中はいっそう薄暗く見える。
「森に入る前にここで野宿した方がいいのではないか?」
後ろからエマルが言った。
オズナは振り返る。
「ここは、見晴らしがよすぎる。火を焚けば遠くの街道からもよく見える」
皆が後ろを振り向いて見晴らしが良いのを見ると、納得したようだ。
レオニードがオズナに聞く。
「では、この森の中で野宿を?」
「ここの森はエルフたちが管理していて、狂暴な獣もいないはずじゃから、少し入って休めるところをさがそうではないか」
レオニードたちは、慎重に森に足を踏み入れた。
森が古すぎて、陰うつな感じもしてくる。道はもちろんなく、木の根が出ていて足元もあまりよくない。
彼らは馬を降りて引きながら、なんとか三十分ほど森の中を進むと、倒木によって少し開けた場所に出た。
ここは上から薄日が差し込んでいて、思ったより明るい。
オズナが周りを見回す。
「ここなら大丈夫じゃろう」
レオニードたちは、野宿する準備を始める。
小枝を探して、火を起こす。その火を囲んで、四人は燻製肉などで夕食を済ませた。
フクロウのトトは、自分で小動物を見つけてきて食べている。
「夜の見張りはどうします」
エマルがオズナに聞いた。
「ここでは見張りは必要ないじゃろう。狂暴な獣はいないし、こうやっていても、すでにエルフたちは遠くから見張っているかもしれない。今更恐れるものはないからの」
オズナを除く皆が、エルフたちがどこからか見ていないか気になって、辺りを見回した。
レオニードたちが夜中に寝ていると、急にトトが騒ぎ出した。
皆は起き出して、自分の剣や槍をつかんで周りを見回す。
しかし、すでにエルフたちに取り囲まれていた。
身長は人間と同じぐらいで、耳は話に聞いた通りとんがっている。服装は鎧ではなく、動きやすそうな、レオニードたちがあまり見たことが無い生地だ。
エルフたちは近くにいる者は剣を構え、少し離れたところにいる者は弓を構えている。
数はレオニードたちの倍以上いるし、これでは勝ち目はなさそうだ。
もちろんレオニードたちは、はじめから戦うつもりはない。
「この森に何用だ」
エルフの一人が話しかけてきた。
「争う気はありません。あなたたちの長に会わせてほしい」
レオニードが答えた。
「用件は?」
「コムニの託宣所でフリッグ神のお告げを授かり、聖剣を鍛える旅をしています。そのことで」
それを聞いたエルフたちは、レオニードたちの知らない言葉で話し合っている。
「もしそれが嘘なら、ここを生きては出られないぞ」
「大丈夫じゃ。嘘ではない」
オズナが応えた。
エルフたちが、腰に付けていたものを触ると、辺りが明るく照らされる。
「ま、まぶしい」
ポンザが思わず驚いて声に出した。
これはロウソクの光ではない。こんな明るいものは初めてだ、とレオニードも思った。
「すぐになれる。では馬はここに置いて、ついてきなさい。大きな荷物もここに置いてきて大丈夫だ」
そういうと、エルフたちは二手に分かれて歩き出した。
レオニードたちは焚火の火を消して、今話しかけてきたエルフの方について行く。
エルフたちの後について行くと、道があるわけでは無いが、森を熟知しているだけあってけっこう歩きやすい所を選んで歩いて行った。
森の中を二時間ほど歩いたころ、急に森が開け、エルフたちの町が窪地の中に現れる。石造りの見たことがないデザインで、美しい建物だ。
エルフたちが腰に着けているような明かりで照らされ、夜なのに結構明るく見えている。
窪地の中にあるせいで、遠くから見ても町があるとはわからなかったようだ。
エルフに導かれ、レオニードたちはその町に入って行った。
案内してきたエルフが、一つの建物の前で止まって振り返る。
「今夜はもう遅いので、明日、われらの長が会われる。今夜はこの中で寝てほしい。見張りは置かないが、あまりうろうろしない様に」
「わかりました」
建物の中に入ると、ベッドが六つほどあった。
レオニードたちは、見たこともないような、清潔そうで豪華なベッドに入ると、その気持ちよさですぐに寝てしまった。
朝になってエルフに起こされる。
レオニードたちは、部屋に備えてあったボウルに水差しから水を注ぐと、顔を洗い、服をととのえた。
そして準備ができたころを見計らって、呼びに来たエルフが言ってくる。
「長が会われる。武器や荷物はここに置いて、ついてきなさい」
そう言うと、そのエルフは先に歩き出す。
レオニードたちは言われた通り、武器や荷物をその部屋に置いたまま、彼について行った。
その町の中央に少し大きな石造りの屋敷があり、そこに案内された。
すると、一人の白っぽいローブのようなものを着たエルフが立っていて、彼らを出迎える。
「私がここの長、エクエルです」
それを聞いて、レオニードたちもそれぞれ自己紹介をする。
「レオニード・オイマールと申します」
「エマルと申します」
「ポンザです」
「オズナですじゃ」
エルフのエクエルが、オズナの顔を見つめる。
「おや、オズナ殿はここに来られたことがあるかな?」
エクエルが聞いた。
「はい、若いころに一度」
「どおりで」
「あなたは全然歳をおとりになられていないですな」
「我々は、長命の種族ですから、歳は少しずつとります」
「そうでしたな」
「では、朝食をとりながら話しましょう」
エクエルはそう言うと、レオニードたちをダイニングに案内した。
そこには、卵料理や豆料理、パンやフルーツ、野菜などがテーブルに用意されていた。
レオニードたちは食べたこともない味付けに驚きを隠せない。
「これはうまい」
パンも普段食べている硬いパンと違い、柔らかかった。
エクエルは、皆が大体食事を済ませたのを見て聞いてくる。
「それで? 今回来られたご用件は?」
「聞かないでもわかっていらっしゃるのでは?」
オズナが言った。
レオニードはそれを聞いて、どういう意味だろう、と考える。
「普段はそういう力は使いません。口で説明してください」
エクエルがそう言って、ニコリとした。
そこで、レオニードは今回の成り行きを説明する。
ドラゴンの事、女神のお告げの事、折れた聖剣を見つけた事、そして、ここには聖なる木を求めてやってきたことを話した。
それを聞き終わると、エクエルが言ってくる。
「そうですか。話は分かりました。しかし、いくら女神のお告げとはいえ、大事な聖なる木をお渡しするのです。条件を飲んでいただきましょう」
「その条件とはなんです?」
レオニードが聞いた。
「そこに立っているアミルと、弓で勝負していただきたい」
「え?」
エクエルが示した先にいたのは、男の様な服装をしているが、弓を背負った女性のエルフだった。
歳はレオニードと同じくらいに見え、顔立ちはかわいいが、エルフは長命なので実際は何歳かわからない。
「それで、勝つことができたら、お渡ししましょう」
レオニードは自分の仲間を見た。
「だれか、私たちの中で弓の得意な人は?」
そう聞いたが、皆は首を振っている。
レオニードも弓は得意ではないが、一応練習はしている。
自信があるわけでは無いが、レオニードは自分がやるしかないか、と思った。
「では、私が受けるしかなさそうですね」
「よろしければ早速競いましょう」
その女性のエルフ、アミルが言ってきた。
「わかりました」
アミルが案内し、皆は後について外に出た。
広場に出るとアミルがレオニードに説明してくる。
「あそこにリンゴがなっているのが見えますか?」
アミルが指を差した方を見ると、百歩程離れたところにリンゴの木があり、実がいくつかなっていた。
「はい」
「ではここから矢を射って、あのリンゴの実を先に落とした者が勝ちです。もし二人とも同じ回に落とした場合は、よりリンゴがきれいな形に残っていた方が勝ちになります。一番いいのは茎を狙って、リンゴの実自体には矢を当てないことです」
「わかりました」
「ではどうぞ」
と言って、アミルはレオニードに弓と矢を渡そうとした。
レオニードはそれを見て、
「実は、弓はあまり得意ではないので、見本を見せてください」
と言った。
「それでは、私が先にやりましょう」
そう言うと、アミルは矢をつがえて、リンゴを狙った。というよりはリンゴの茎を狙ったようだ。
アミルが放った矢は、リンゴの茎をわずかにかすったが、それてしまった。リンゴが少し揺れている。
アミルは肩をすくめて、弓と矢をレオニードに渡してきた。
次はレオニードの番だ。
もう少し近ければ何とかなりそうだがこの距離では、リンゴにあたるかどうかもわからない。
そう思ったレオニードは、後ろで見ていたエクエルに聞いてみることにした。
「アミル殿以上に弓を上手く使えるとは思えません。とにかくリンゴを落とせば勝ちということでかまいませんか?」
「弓を使わないで石を投げても構わない。どんな手を使ってもいいですよ」
それを聞いた、レオニードは左ひじを上にあげ、トトを探した。
「トト?」
トトがレオニードの肘にとまってきた。
「あのリンゴを落とせるかい?」
トトはレオニードの言葉を聞くと、リンゴの方に飛んで行って、一つのリンゴの茎に噛みついて、下に落とした。
「なんと!」
そこにいた皆が驚いている。レオニードがエクエルの方を見ると、彼は笑っていた。
「でもこれはいくら何でも……」
エマルは、これはルール違反だろうと思ったらしい。
すると、エクエルが口を開く。
「いやいや、私はどんな手を使ってもいいと言いましたからね。それに、エルフの間ではフクロウは神聖視されています。そのフクロウがやったのですから、誰も文句は言えません」
「そうなんですか?」
苦肉の策でレオニードはトトに頼んだが、それが功を奏したようだ。
トトが戻ってきたので、レオニードが左ひじを出すと、トトはそこにとまる。
「しかし、そのフクロウはよくなついている。おもしろいものを見せてもらいました」
エクエルがトトの方を見て言った。
「ありがとう。トト」
レオニードはそう言うと、トトの首のあたりを撫でた。
「では約束通り、聖なる木の木片を差し上げる。それと、このアミルを一緒に連れて行くといいでしょう」
エクエルはにこやかに言った。
「え?」
思ってもみなかったことにレオニードは驚いた。
「聖剣を人の手で鍛えるのは難しい。彼女は役に立つはずです。剣が無事鍛え終わって、ドラゴンが退治されたのを見届けたら、彼女は戻ってきます」
「そうですか。ありがとう」
レオニードはエクエルにお礼を言った後、アミルの目を見て会釈した。
エクエルは部下に指示をして、聖なる木を取りに行かせる。
「それから、まだ旅は続くでしょうから、携帯食も持ってお行きなさい」
「何から何までありがとう」
「では幸運を」
そう言うとエクエルは屋敷に戻っていった。
オズナがレオニードに耳打ちしてくる。
「エクエルは始めからこうなることをわかった上で、競わせた様じゃな」
「なぜです」
レオニードは腑に落ちなかった。
「さてな。でも彼は全てを見通しておる。今だけではなく、遠い未来をもじゃ」
レオニードは、聖なる木を一束と食糧の入った袋を受け取った。
ポンザがそれを背負って、皆はそこを離れた。
帰り道はアミルが案内してくれて、皆は森の西の、馬のいるところまで戻ってきた。
レオニードたちが馬に荷物をつけていると、アミルが聞いてくる。
「次はどこへ行くのです?」
「場所からすると、次はここから南に行った火の国で、聖なる火を手に入れるのがよいじゃろう」
オズナが言った。
皆の準備が終わったのを見ると、アミルが歩きだす。
「ではこちらに」
アミルは比較的歩きやすい場所を選んで、皆を先導して森の南側に向かった。
しばらく歩くと、タラスの森の南側に出る。
アミルは馬を持っていないので、どうするのかとレオニードは思っていたが、アミルがあたりを見回して口笛を吹くと、どこからともなく馬がやってきた。
アミルがその馬の鼻を撫でる。
「イラミスよ」
「よくなれてますね」
レオニードが感嘆して言った。
「我々は馬と話すこともできるので。でも、あなたのトトも同じぐらいなついているわ」
それを聞いたポンザが驚く。
「馬と話せるんですか? それはいいですね。自分も馬番だから、馬の気持ちがわかったらどんなにいいかと思ったことが何度もあります」
「では旅の途中に少しずつ教えましょう」
アミルはそんなポンザに言った。




