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3.王都

 レオニードたちは王都の東の街道を進んできた。

 この少し前までは街道の両脇には木が生い茂っていて見晴らしが悪かったが、王都の少し手前の小高い丘のところで急に視界が開けた。

 目の前には平原が広がっており、その正面には山を背景に建つ白く立派な王城が遠望できた。

 その城の手間の平坦なところには大きな城下町が広がっている。城下町は塀で囲まれているが、こちらは丸太を組んだ普通の塀の様だ。


「白くてきれいな城だな」

レオニードは馬の手綱を引いているポンザに言った。


「この辺りでは白い石がたぐさん採れるど聞いだごどがあります」

「託宣所の事と言い、お前はずいぶん物知りだな」

「旦那様の家にお世話になる前は、全国旅したごどがあるので」


 レオニードたちはそのまま城下町へと向かった。


 城下町に入る門には騎士が一人と兵士が二人で警備していて、不審者のチェックをしていた。

 その前には二、三人が並んで、順番を待っている。

 レオニードたちもその後ろに並んだ。


「次」

レオニードたちの番だ。


「馬を降りろ」

その騎士が言った。


「旦那様にだいしてその言いがだは失礼だ」

ポンザが抗議した。


「ん? どこの田舎者かは知らないが、ここでは馬を降りてもらう決まりだ」

「田舎者!?」


「ポンザやめないか」

レオニードは馬を降りながら、ポンザをたしなめた。


「あ……すいません」

ポンザは老人に言われたことを思い出したようだ。


「それで? 騎士なのか? どこから来た?」

その騎士がレオニードに尋ねた。


「モラブ地方です」

「用向きは?」

「ドラゴン退治があると聞いてきたのですが」

「それは遅かったな。何日か前に出発したよ」

「そうなんですか」

「そろそろドラゴンを退治している頃だ」


 それを聞いてレオニードは少し落胆した。ここまで旅してきたのが無意味になってしまう。


「無駄足だったな」

レオニードはポンザに言った。


 ポンザはさきほど田舎者と言われて、今度はできるだけ方言が出ない様に気をつけて口を開く。

「うちの村は田舎で……ありますから、話が伝わったときはもう……何日も経っていた……のですね」

ちょっと、ぎこちない。


「ではせっかくだから王様にご挨拶して帰るか」

レオニードはポンザに言った。


 それを聞いたその騎士が笑う。

「はっはっ。それは無理だ」


「そうなんですか?」

「そりゃそうさ。どこの馬の骨ともわからぬに奴に陛下がお会いになるはずがなかろう」


「馬の骨だと?」

またポンザがつっかかった。


「どうした?」

その騎士の後ろから、位の高そうな騎士が出てきて聞いた。


 レオニードたちと話していた騎士は、後ろを振り向く。

「これは騎士団長殿。実はこの田舎者が陛下に会いたいと」

その騎士が説明した。


「お主、名前は?」

騎士団長がレオニードに聞いてきた。


「レオニード・オイマールと申します」


「……ああ、あの落ちぶれた家のものか」

騎士団長はあざけるように言った。


「なに!?」

ポンザがまた怒る。


「まあ、落ちぶれているのはたしかさ」

レオニードはポンザをなだめた。


 騎士団長は、鼻で笑うと言ってくる。

「まあ一応、陛下の耳には入れておく。宿屋で待っていろ」


 レオニードは、やな奴だな、と思ったが、ここで喧嘩してもしょうがないので、そのまま宿に向かった。


 宿屋に向かう途中、ポンザがちょっと後ろを気にしながら、

「あの騎士団長って、ずいぶん横柄なやづでしたね」

と、レオニードに言った。


「騎士団長ということは、貴族出身なんだろうな」


 レオニードたちは、宿屋で今晩の宿をかりて荷物を運び込み、一階の酒場で待っていると、しばらくして騎士の一人がやってきた。

 

「オイマール家の方はおられるか?」

その騎士が、そこにいる人々を見回して聞いてきた。


「私ですが」

「陛下がお会いになるそうです」


 レオニードは、ポンザをそこに残して、その騎士とともに王城へ向かった。


 レオニードは、左の腰に差していた剣を右手に持ち替え、謁見の間に入った。

 正面の王座にはサマ王が座っていが、今は大臣たちと何か話していて、しばらく待たされた。


 大臣との話が終わると、迎えに来た騎士がサマ王に申し出る。

「オイマール殿をお連れしました」


 レオニードはサマ王の前に行くと、ひざまずき、

「レオニード・オイマールでございます。陛下におかれましては、ご機嫌うるわしゅう」

と、型通りの挨拶をした。


「オイマール殿か、よく来られたな」

サマ王は王座の背もたれに寄りかかったまま言ってきた。


「ありがとうございます」

「して、今回はなにをしに来られた?」

「実はドラゴン退治の話を聞きまして。やってまいりましたが、遅かったようです」

「あー、そなたもドラゴン退治にまいったのか、それはごくろうであった」

「門を守られていた騎士殿によると、そろそろ退治されているころだと……」

「そうだな」


 そのとき、誰かが後ろから速足で入ってくる音がしたので、レオニードは後ろを見て立ち上がり、横に移動して王座の正面を空けた。

 

「なにごとだ?」

王座の斜め前にいた大臣が、入ってきた騎士に聞いた。


「ドラゴン退治に出ていた者が戻りました」


 それを聞いたサマ王が、

「おお、そうか!」と言った後、レオニードの方を向いて声を掛ける。

「オイマール殿も一緒に聞いていくがよい」


 サマ王は討伐の成功を信じているようで、機嫌が良い。


 レオニードは、サマ王にお辞儀をして応えた。


 そこに、ドラゴン退治に出かけた騎士の二人が入ってきた。鎧や肌が薄汚れている。

 隊長が前に出てひざまずき、斜め後ろにもう一人の騎士が控えている。


「陛下にご報告いたします」

「退治できたか?」

「それが、……全滅いたしました」


 そこにいた取り巻きを含め、どよめきが起きた。

 

 サマ王は王座から身を乗り出す。

「なんと! ……詳しく申せ」


 王の言葉に、その騎士は見たままを報告した。


 あまりの悲惨さとドラゴンの強さに、そこにいたものはみな、しばらくは言葉が出なかった。

 

「どうしたらいい? だれかよい考えはないか?」

サマ王は、そこにいた皆に聞いた。


 しかし、誰も答えられない。

 レオニードもその話を聞くまでは、父が言っていたように心の底ではなんとかなるのではかと思っていたが、そんな甘くはないということが分かった。話を聞いた限りでは普通の武器では太刀打ちできそうにない。

 なにかいい方法はないのだろうか、と考えていると、昨日の老人との会話を思い出した。


 レオニードはサマ王の前に出る。

「陛下。今聞いた話では、普通の方法では太刀打ちできそうにありません。そこで私はコムニの託宣所に行き、ドラゴン退治の方法を聞いてきたいと存じます」


「おおそうか、なるほど。……それしかないかもしれぬな。ではオイマール殿、巫女に渡す貢物の金貨を十枚授ける。私の名代として聞いて来てくれ」

「はい、かしこまりました」


 レオニードは大臣から金貨を受け取ると、城下町の宿屋に戻ってきた。

「ポンザ」


「はい旦那様」

「コムニの託宣所に行くことになった」


 レオニードはポンザに、先ほどの話をした。


「それは、大変なことになりましたね」

「今日はここに泊まって、明日の朝一番で出発しよう」



 騎士団の詰所では、騎士団長が部下の騎士と話している。

「あのオイマールというやつ、信用できるんですか?」

騎士の一人が聞いた。


「女神のお告げを聞いて、手柄を独り占めするかもしれないな」

と騎士団長。


「そんなことになれば、我々の顔は丸つぶれです」

「よし、だれかに後をつけさせろ。そして、逐一報告させるんだ」




 チェスカ村のヤンは、昨日の朝ことを考えていた。


 少し数が減った羊をいつものように牧草地の方へ追っていると、街道を渡るところで遠くから馬が速足でやってくるのが見えた。

 ヤンは羊を急がせ、すぐに道を渡らせる。

 ギリギリのところで間に合った。

 渡り切ったところで、通り過ぎようとしている馬の方見ると、前の日にドラゴン退治をしに出掛けた騎士たちだった。でもなにか様子がおかしい。

 

「ドランゴンはどうなったの?」

ヤンは声をかけてみた。


 騎士たちは無視してそのまま通り過ぎようとしたが、隊長が少し先で馬を止める。

「馬を休ませなければ」


 隊長がそう言うと、もう一人の騎士が、ヤンの方に馬をゆっくり戻してきた。

「坊主、井戸は村の広場まで行かないと無いか?」


「その家の庭にもあるけど」

ヤンはすぐ近くの農家を指さした。


 騎士たちは顔を見合わせると、馬をその家に向ける。


 そして隊長が、後ろから見ていたヤンの方に首だけ回して、

「全滅だ」

と、ひとこと言った。


 もう一人の騎士も振り向き、付け加える。

「ドラゴンは、二十人を食っちまった。また腹が減るまでは、すぐにはこの村を襲わないだろう」

そう言って、二人は井戸のある家に入って行った。


 ヤンはそれを聞くと、羊を牧羊犬のピロに任せ、村に走って戻った。


 ヤンはケガをしていない方の手で、村長の家の扉を激しくたたいた。


 ドアが開いて、村長が顔を出す。

「どうした、ヤン。こんな朝早くから」


 ヤンは、今さっき騎士たちから聞いたことを村長に話した。

 

「そりゃ大変だぞ」

村長が慌てだした。



 村では緊急の集会が開かれ、ヤンが皆の前で先ほどのことを話した。

「二十人かかっても、ドラゴンに勝てないなんて」

村人の一人が言った。


「でも今のヤンの話だと、ドラゴンはすぐには来ないということか?」

「いつかわからないが、腹が減ったらまた来るぞ」

「どうすればいいんだ?」

「家の中にこもって、外に出ないとか」


「家の中に居れば安全なの? ドラゴンは火を噴いて、家なんか焼き尽くされるわ」

ある女性が言った。


「そういえばあの騎士が、シュマブの北東にある村が全滅したって言ってたぞ」

「ということは、このままだったらこの村も同じ目にあうぞ」

「この村を捨てて逃げるのか?」

「村を捨ててどこに行くんだ?」


 その言葉に、そこにいた大半がうなずく。


「王様の次の助けを待った方がいいんじゃないか?」

誰かが言った。


「騎士だけが生き延びて逃げ帰ったということは、あの騎士は初めから戦う気はなかったんじゃないか? 遠くで見ていたんだろ?」

「あの二十人もやられたし、そもそも退治なんてできないのよ」

「王様の助けはもう期待しない方がいいかもな」

「でも俺たちは王様にすがるしかないだろ」

「向こうから来てくれないんだったら、こっちから行くか? 王都まで行けば、なんとかなるんじゃないか? あそこは高い塀もあるし」

「そうだな」


 昨日、村ではこういう会話がされ、今朝早くに村人たちは全員で村を出て来たわけだ。

 ヤンの家を始め、牛や羊を飼っている家は、大事な財産を置いていく気にはなれなかったので、人間の数以上の牛や羊を伴っての大移動だ。

 普通に歩くよりだいぶ時間がかかっていた。




 そのころドラゴンは、腹ごなしに上空へと舞い上がった。

 自分の住処すみかである山の洞窟には、まだ何日分かの食料が置いてある。

 一昨日の夜に襲ったうちの五匹の人間はその場で食べ、残りのまだかろうじて生きている者は深い穴の中に入れてある。今日も何匹か食べたところだ。

 まだ腹はすいていない。

 

 ドラゴンは自分の住処を中心にそのあたりを旋回すると、東南にあった人間の村から、人間やうまそうな牛や羊が、どこかに移動しているのが見えた。

 ドラゴンは特別な目を持っているので、結構遠くまでが見渡せる。

 

 彼らの移動している方向の遠い先には、人間たちの大きな町が見えていた。

 

 あそこに逃げるのか?

 ドラゴンはそう思い、今保管してある食料を食べ尽くしたら、あの人間の町を襲ってみようと考えた。

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