覚悟 この国を守る為に -ラフィニア目線- -ゲイル目線-
まだ、王広間にたどり着きませんでした。
ラフィニアとクレールを厳しく躾けてくれる人が出てきました。
「俺は、君を認めていない。」
「はい?」
私は、頭の中に大きなハテナが浮かびました。
今彼は、私を認めていないと言いました。
認めるとは何か?私は、目の前の厳しい目を向ける、ディボル=フォード様を見上げました。
すると、脇からクレール様が私とディボル様の間に割って入って対峙しました。
「ディボル先輩。ラフィニアを困らせにきたんですか?今は、緊急事態です。変な事を言って混乱させないで頂きたい。」
クレール様の横顔は、いつもの彼と違って、とても厳しく怒っているように感じます。
しかし、私はどうしてもさっきの言葉が気になって、ディボル様に直接聞いてみることにしました。
「ディボル様。私を認めないとはどういうことでしょうか?」
そう口にする私に、ディボル様はクレール様から視線を外し、私を見て口を開きました。
「君は何も分かっていないでしょう?ゲイル様や私の兄、私やクレール。他の役目を持った貴族達の子息は、皆、その職務を全うすべく幼い頃から訓練されて生きてきた。
特に私達の家は、“戦い”を強要される一族だ。そしてその戦いの為に、我々は兵の命を預かっている。一人の命も無駄にしないように、死なないように最善の道を作る為、ゲイル様や兄が費やした努力や鍛錬は、貴女には分からない。
それをうちの兄に何を吹き込まれたかは知りませんが、兵士を集める?王宮の貴族招集の席で自分が発言する?何を舐めたこと言っているんですか。出来ると思っているなら、貴女はとんだ世間知らずで人を馬鹿にしています。
今まで何の努力も実力も成果もない分際で、貴女の言葉に誰が従い、兵を出すというのですか?貴族は皆、大事な平民を、甘々な御嬢さんに託すほど、脳みそがお花畑ではありません。」
厳しい言葉に、私は黙るしかありませんでした。
確かに私は今まで、兄達の事を知らな過ぎていた。
今更になって、ランス様に色々な事を教わったところで、それは所詮“遊びの領域”“机上の空論”。
実際の戦闘も、人が死ぬ場面も、安全だと守られた区域でしか見ておらず、今回の戦争でも、おじい様の手紙だけを頼りに、兵を集めようとしている。
兵、一人ひとりに命が家族がある。死にたい人間なんていない。
そんな人たちに、命を託せる相手と、私は認められる人間ではない。
ディボル様の言葉を、自分の胸に刻み、どうしたらいいのか。考えを整理して、ディボル様を見ました。
「確かに、私は皆様の覚悟を知りませんでした。いえ、知ろうともしなかった。私自身は、何も考えず人々の望むまま、求められるがままの自分でいればいいと思っていました。でも、これからは違います。国を守る為、大切な人を守る為、長年、国を守り続けてきたコンタージュの先代、おじい様が兵が足りないというのなら、私はどんなことをしても兵を集めます。お兄様がいない今、コンタージュの意思を伝えることが出来るのは、私しかいないのだから。だからお願いします。“コンタージュ”に力を貸してください。私にこの国を守る手助けをさせてください。」
コンタージュの代表として、目の前のディボル様へゆっくり頭をさげました。
すると、私の横にいたクレール様も頭を下げたことを察しました。
「お願いします、ディボル先輩。確かに、ラフィニアも私も戦いを知らない。戦闘の厳しさも、戦いの全ての責任を負う覚悟も。しかし、今は、この国を守る為に兵が必要なのです。私達は未熟です。だから、知恵をお貸しください。私達に兵を動かしてもらえるように。お願い致します。」
クレール様の言動に、涙が出そうになりました。
私一人では、何て無力なのでしょう。ディボル様への協力を得るのに、クレール様にも頭を下げさせてしまった。
申し訳ない気持ちが私の心を覆い隠していくようでした。
「…………。国を共に守るコンタージュがこれでは、先が思いやられますね。」
ディボル様のため息が聞こえ、私は落胆しました。
駄目なのかもしれないと。
しかし、上から降ってきた言葉は違うものでした。
「しかし、国を想い、大切な人を想う気持ちは同じです。まだ、考えが甘いとは思いますが、仕方がありません。知恵と情報を持ってきました。明日までにすべての事柄をクリアにして、明日、王広間で認証を戴きましょう。」
ディボル様の言葉に信じられない気持ちになり、ゆっくり顔を上げ、ぽかんとしてしまうと、「返事をしなさい。」とまた厳しい口調で言われ、「「はい!」」とクレール様と同時に返事をしたのでした。
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激しい雨の音と、風が窓を叩きつける音が室内を満たす。
コンタージュ領に帰還したゲイルは、自室の壁を力任せに殴った。
「くっそっ!!!!!!」
戦争開始までもう時間がない。
兵士増員の手配なんて、していない。
潮の変化は日々注意を払っていたのに。
ラフィニアが、王宮のお茶会に招かれる日も、気候天候などの報告は受けていたのに…。
迂闊だった。
机には、広げた地図と、この戦争に共同戦線をはることになった諸外国からの同意書が置いてある。
今回の戦いは、俺達が船で相手を迎え撃ち、敵船の後ろと真横から共闘する他国軍と追い詰める予定だった。
しかし、コンタージュの港を襲撃するなら話が変わる。
陸に敵兵を上陸させてしまえば、なだれ込まれてしまう。
食い止めるにしても、兵士が足りない。
軍艦の数を減らして、陸に兵を置く?いや、他国の協力軍が、話が違うと言ってきかねない。
俺は、海岸線を指でなぞった。
実は、潮の異常現象に備えて、準備はしてはいた。
だが、まだ兵士にこの訓練をさせていない。
ぶっつけ本番で、どうにかなるような設備ではないから、今から訓練させるか?
いや、こちらの動きを敵国に知られたくない。動けない。
「はぁ…。」
俺は、息をついて天井を向いた。
“いいことも悪いことも、俺達兄弟全員の責任だってな。…フォード家の持つ責任は、大半は俺だけど、片棒を担ぐ弟たちもいる。”
王都でのランスの言葉が不意に思い出されて、頭を抱えた。
初めて、ランスを羨み、ラフィニアに身勝手な願望を想ってしまった。
ラフィニアが、兵士を集められたなら……。
自分が、家族の誰もがラフィニアを戦いから遠ざけてきたというのに。
俺(兄)自身が、ラフィニアを戦いに巻き込むことを望みだしただなんて。
自分の何とも勝手な思いに、俺が俺自身に落胆し、執筆椅子に腰かけ、椅子を回転させる。
相変わらず、激しい雨と強い風が窓を打ちつける。
戦いの準備は、こんな中でも着実に進んでいる。
後、5日で開戦だ。
次話で、王広間かな…。




