第四話 召喚士というもの
新街道をひたすら進み林を抜けると視界が一気に広けた。
そこに広がっているのはただの海ではない、遠くに対岸が見える場所。そう此処が商人たちに聞いていたヴルスガルト海峡だ。
海峡に出たら北へ進路を変えて迂回しなければいけない。海を渡れれば良いのだが、海峡にはシーサーペントやクラーケンなどの海獣が生息しており、浅瀬となる沿岸部以外は危険すぎて対岸へ渡る船はないそうだ。
深い碧になったところから危険地帯だそうだ、空を飛べれば良いのだが俺の召喚獣はバイコーンとユニコーンの二頭だ。召喚獣は召喚魔石で眠っており、魔石を起動させないと召喚獣にはならない。しかも魔石と召喚魔石の判別は難しく召喚魔石の割合は少ないため普通の魔石に紛れているのが普通だ。
「露天商で魔石のまとめ売りを買っておいた。鑑定を頼む」
「りょーかーい」
ビビは片手に乗るような革の袋から、ザザッと魔石を取り出し鑑定している。こんな軽く鑑定しているが、召喚魔石の鑑定ができるのなんてビビ以外には居ないんじゃないかと俺は思っている。
理由としては簡単で、召喚魔石は鑑定できないというのが一般的に周知されているからだ。裏を返せば今まで鑑定持ちが鑑定しても分からなかったという逆説的な理由だ。
鑑定士が魔石を鑑定したことがないなんてあり得ない事なんだ。魔石は魔道具の起動材としても需要があるが、宝飾品としての価値も高いからだ。
宝飾品として需要があるのは透明度があり、磨きカットをして美しい物だけだ。俺の買ったまとめ売り魔石は所謂クズ魔石と呼ばれるもので内包魔力も少なく見た目も良くない物だ。
そんなクズ魔石と呼ばれる物でも錬金術には必要な物だし、初めての召喚魔石はクズ魔石から見つかった。
***
あれは二年前……。
「ミミー、今日も錬金術の練習?」
「ああ、いま錬金術が一番熱い!」
「おー、やる気満々まんじゅう食べたい」
ビビはそう言って、無造作に置かれたクズ魔石の小山をいじっていた。鑑定士は何でも鑑定することで鑑定能力を上げていく、ビビも俺と同じように鑑定術の練習中だ。
その中の一つを摘まみ上げ、ビビは首を傾げマジマジと魔石を観察している。何が気になるんだろう。
「ビビどうした?」
「うーん。見た目は魔石なんだけど、鑑定では召喚魔石って出る」
「……」
「えっ?」
「エエエエエエエエエエエエ!?」
「ひゃっ! 急に大きな声ださないで」
珍しいねミミが大声出すなんて、なんて言いながらビビは次の魔石の鑑定に入っている。そりゃ大声も出るだろう、召喚魔石は鑑定できないが定石なんだぞ。やばいなコイツ……。
「さて、ビビ君その召喚魔石の召喚獣は何か分かるか?」
「えっ? 召喚獣の種類?」
「そう。ドラゴンとか炎ドラゴンとか暴風ドラゴンとかだよ」
ビビはもう一度魔石を手に取り鑑定する。
「馬型?なのかな……。シルエットが見えただけで名前なんかは分からなかった」
「馬か……。良いね。騎乗出来る可能性がある。」
「あー!ミミって召喚士のジョブあるもんね!」
俺は首肯し軽く胸を張った。
「召喚士は召喚魔石を見付けないといけないし、幸運にも召喚魔石を手に入れたとしても、俺のようにクズ魔石と分からず普通の魔石として消費してしまう人がほとんどだろう」
俺はビビは凄い! と力説したがどうもビビにはピンときていないようだ。召喚士が希少ジョブとなるのは召、喚獣を手に入れ難いというのが一番だ。
どの魔石が召喚魔石が分からない状態で、召喚スキルの行使……。不発……。行使……。不発……。行使……。を繰り返すのは中々の苦行だ。
もし召喚成功しても虫の可能性もある、魚の場合もだ。召喚ジョブは男性にしか現れないものでもなく女性がゴ○ブ○なんて召喚してしまったらなんて想像もしたくない。
「な? 召喚士が希少って分かるだろ?」
俺の意味不明な問い掛けに首をひねったビビは口を開く。
「早く魔石から出してあげてよ」
俺の驚きの情緒も関係のないいつものビビに俺は苦笑する。
「分かった、表に出るぞ」
ワクワク顔のビビと連れ立って家の表に出る。俺はそっと召喚魔石を地面に置き、針で指先を刺す……。プクッと血の球が出たところで召喚魔石に触れる。
「召喚」
召喚魔石は輝きだし一層強く光を放つと、そこには二本角を額から生やした、闇に溶ける深い焦げ茶の大きな馬が現れた。
召喚直後の魔力の揺らぎで角が前後に見えているが、これはバイコーンってやつだな。そう思った瞬間隣から聞こえてくる可愛い声。
「突進紳士!」
バイコーンが突進紳士になった瞬間である。名前は俺が付けるか……。見た目は
「サイとゾウだな」
「サイゾーさん!」
名付けの瞬間である。覚えやすくて良い名前だな。サイゾーも喜んでいるようでビビと戯れている。
「さて、背には乗せてくれるのかな?」
ブルッと返事があり意思疎通はできるようだ。手触りはしっかりした毛に覆われた筋肉質だ。鞍まではいかなくても、背に布か革でもあると爪を引っ掛けて騎乗出来そうだな。主要部位のサイズを測りメモしていく。
「蹄……。蹄鉄が必要か」
「バルドルさんとこ行こう」
そうだなと首肯で返し、鍛冶屋のバルドルの作業場へと二人とサイゾーで向かった。サイゾーに乗って行こうかと思ったが、落ちた時を考えると布やら革なりがあった方が良いだろう。
ケットシーは体が柔らかく身軽で少々の高さからの落下は平気だが、落ちるとなったら無意識に爪を立ててしまう可能性を考えたら準備はした方が良い。サイゾーに痛い思いをしてほしくないからね。
そんなことを考えていたら鍛冶屋に着いた。バルドルさーんと呼びながらビビはドアを開け中へ入っていった。槌の音が止み髭もじゃに太い首、太い腕、どっしりとしたドワーフがビビと一緒に出てきた。
「なんじゃこりゃー!?」
「サイゾーさんだよ」
あははとビビはバルドルさんに紹介し、ご機嫌だ。俺がサイゾーの首筋をポンポンと叩いたり撫でたりしているので、魔獣が出たとはならなかったのは良かった。
「突進紳士のサイゾーさん」
そう言ってサイゾーの首筋に抱き着き、頬擦りしている。バルドルさんは、おぉ、そうかと戸惑いがちに返事を返している。
「バルドルさん、サイゾーに蹄鉄を作って欲しいんですけど」
「なんじゃ、ミミの騎馬か。……ほう、こりゃあいい脚をしておるわい」
バルドルさんはサイゾーに近づくと、感心しながら蹄の様子をチェックし始めた。
「そうじゃな、装蹄代込みで四足、銀貨二枚といったところじゃな」
銀貨二枚。決して安くはないが、俺たちの足となるサイゾーの安全には代えられない。俺が頷くと、バルドルさんはニカッと笑った。
「分かりました。それでお願いします。……ちなみに、次の交換までどのくらい持ちますか?」
「わからん! 召喚獣なんて見るのも初めてじゃからな!」
そりゃそうか、普通の馬じゃないんだもんな。
「普通の馬なら、乗り方にもよるが大体一ヶ月前後じゃ。召喚獣なら呼び出す回数で変わりそうだが……。蹄鉄が摩耗してくるし、爪も伸びる。呼び出したときに、お前さんがしっかり見てやるこったな」
「はい、そうします」
三日後の予約を取り、俺たちは一度戻ることにした。だが、そこで異変が起きた。
サイゾーの姿が、陽炎のように揺らぎ始めたのだ。
「あ、サイゾーさんが透けてる!」
召喚から約一時間。どうやら召喚時間には制限があるらしい。スゥーと消えていくサイゾーを見送りながら、俺たちは顔を見合わせた。
「……。ちょっとずつ、検証していくしかなさそうだな。あとは、錬金術をもう少し頑張るか」
「そうだねぇ。あ、またお腹空いちゃった。まんじゅう、まだかなぁ」
ビビの食欲は制限時間なしのようだ。
俺は苦笑しながら、まずはこの『突進紳士』を乗りこなす計画を練り始めるのだった。
しかし突進紳士ってなんだ?
***
そんな二年前を思い出しているうちに魔石の鑑定も進んだようだ。あと少しのところでビビの手が止まった。
「ミミあったよ! しかも馬型! 楽しみー」
「おー、ツイてる! だけどまた馬型か、海峡を越えるとしたらペガサスとか天馬とかか?」
「馬型ならなんでも嬉しー」
「じゃあ、召喚するぞ」
俺は猫の額から針を取り出し、指を傷つけ「召喚」と唱え召喚魔石に血を付け魔石に触れた。
召喚魔石は輝きだし光が収まるとそこに現れたのは、
手のひらサイズの、ふわふわした極小の白馬だった。
「……ちっさ!!」
ビビが叫ぶ。スーパーミニチュアホースは、ちょこちょこと俺の足元を歩き回る。
「ミミ、これ……乗れないよね?」
「……無理だな」
「海峡、渡れないね?」
「……北回りだな」
「でも可愛い!!」
ビビはすでに抱き上げて頬ずりしていた。
こうして俺たちは、ヴルスガルド海峡を前に北へ迂回することを決めた。
結果的に海峡を飛び越えショートカットは出来なくなったが、可愛い仲間が増えたことを喜ぼうと思う。
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