第三話 幕間 ―導の灯 しるべのともしび―
風が吹いた。
あれほど往来のあった街道も、いつしか旧街道と呼ばれるようになった。
かつては旅人が行き交い、子供たちが駆け回り、夜になれば灯を頼りに家路へと戻っていった道。
そんな当たり前の景色が、今はもう風の音に攫われて消えていく。
そのすべてを照らす灯が、我の役目であり、我の存在意義だった。
だが、時代は移ろう。
新しい街道が整備され、人々はそちらへ流れた。
この道は忘れさられ、灯篭は朽ち、我は……弱り、薄れ、やがて消えようとしていた。
そんな我を救ったのは、二つの小さな光だった。
七色の光が我の身を満たしたとき、久しく感じなかった温度が胸に戻ってきた。
あれほどの神威を惜しげもなく差し出す者がいるとは、思いもしなかった。
力は戻った。灯は再び灯った。
だが、我は守るべき人々を失っていた。
この地に住んでいた者たちは、皆、もういない。
新しい街道の方へ移り住み、古い道はただの忘れられた道となった。
灯篭の周りに散らばるゴミは、人がここをもう道として見ていない証だ。
我はそれを責める気にはなれない。人は生きるために、より良い道を選ぶ。それは自然なことだ。
それでも、胸の奥が少しだけ痛んだ。
我は灯の神だ。人が歩む道を照らすために存在する。だが、もうこの道を歩む者はいない。
ふと、かつての記憶がよみがえる。
夜更けに帰る旅人の足音。
灯の下で語られた小さな恋の話。
雨の日に、灯篭の前で泣いていた子供。
幼子を背負い、涙ながらに医者へと走る母親。
それらすべてが、我が確かに“此処に在った”という証だった。
ならば、誰もいなくなったこの地に留まる理由もないのだろう。
我は灯篭にそっと触れた。かつての温もりはもうない。だが、二つの小さな光が残していった神威が、微かに揺れていた。
『……ありがとう。君たちの光は、確かに私を救った。』
声に出しても、誰に届くわけでもない。
それでも言わずにはいられなかった。
我は外套のフードを深くかぶり、ランタンを掲げる。
星の欠片が揺れ、青白い光が道を照らした。
もう、この道を守る必要はない。
だが、灯を求める者は世界のどこかに必ずいる。
我は歩き出す。
かつて守った地を背に、後ろ髪を引かれる思いを胸にしまい込みながら。
灯は、止まらない。導く者がいる限り、どこへでも行く。
そして……。いつかまた、あの二つの光と交わる日が来るのなら。
その時こそ言えなかった言葉を送ろう。
『君たちの歩みは、世界を照らしていると』
そう呟き、我は静かに旧街道を後にした。
以前のようにすっかり灯が戻ったランタンを掲げて。
最後まで読んでいただきありがとうございます。まだ三話なのに書ききった思いでいます。
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