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ダンジョン街のミミとビビ ~世界はダンジョン産で満たされる~  作者: 石火
第一章:境界線の向こう

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第三話 虹の実

 清廉な朝の空気の中、急ぐでもなくケットシーダンスで強化もせずトテトテと談笑しながら町門を抜け、二人で街道を北東に向かって歩く。


 リッチ王との戦いから数日経ち、小さい町に近い街道沿いに露店や行商人が様々な旅のお供を売っていた。店主たちに聞くと、どうやらダンジョン街まではまだ馬車で三月ほど掛かる距離だそうで、ダンジョン街帰りの店主は驚きでしばらく放心していたそうだ。


「だがな、放心してたのは一緒に行った商人全員だ!」


 そう言って「ガハハハハハ」と大笑いしている。ふと見ると他の店の店主たちも「ガハハハ」と客と笑っているということは客との掴みのネタなんだろう。きっとダンジョンのおかげで少しは人々に笑顔が戻ってきているのだろう。


「笑顔は良いこと」

 ビビはそう言ってさらなる情報を収集している。そんな時後ろの店から「コア持ちはコアを狙われないようにする必要はない」とか話しているのが聞えた。


「ん?」と思い聞き耳を立てると、コアは拾って半日も経てば拾い主をオーナーとして認定するそうだ。オーナーになるともう誰もコアには手出しができないそうだ。たとえ腕を切り落として持ってるコアを奪おうとしても、オーナー以外にコアは触れないらしい。

 腕を切り落とすとかヤバイワードが出たけど……。


 この話はここからが後ろの店主の見せ場なんだろう、声が大きくなり身振り手振りが激しくなった。子供からコアを奪おうとした大人は、子供の腕を斬り落そうと剣を振り上げたところで雷に打たれ動かなくなったそうだ。剣が偶然避雷針になっただけじゃないのか?と、考えるのは俺だけじゃないようで話は続いた。


 どうやらその子供は、コアが奪われそうになると雷の助けが入ると何度も経験していたようで、「こわいな。コアが奪われなくて良かった」なんて言いながら、慣れた手つきで雷に打たれた男の身ぐるみ剥いで立ち去ったそうだ。

 なるほど、悪党をやっつけながら旅費も賄えるとその子供は思い実践しているのだろうか。


「強かだな……」

 そう独り言つと、ダンジョン産ではない果物を買い込んでいるビビが目に入った。



「ピンクのリンゴはこの辺りの名産でな、小ぶりだが蜜が入ってて甘くて美味いんだぞ」

「じゃあ、全部買う!」

「全部!? い、良いのかい?」

 店主は驚いている。そりゃそうだろ、見えるだけで大きな木箱二つにピンクのリンゴが詰まっているのだから。


「買占めは迷惑?」

「いや、そんな事はない! いまはリンゴ収穫の最盛期で全部売れるのは正直嬉しい」


 それなら良かったとビビは笑顔で対応し、普通の収納カバンなら一つで精一杯だろうに、二箱一気に飲み込んだ猫の額(ねこのひたい)を見て、店主はまた驚きで口をパクパクさせていた。

「じゃあね」とビビは店主に手を振り次の店へと向かった。


 俺は俺で、錬金術の素材や空のスクロール、あるいは何かが書き込まれた古びた紙などを物色していく。

聞けば、ダンジョン産のアイテムはまだ流通量が少なく、かなりの高値で取引されているらしい。物資用の転送装置がダンジョン街と各国首都を結んでいるそうだが、仲買人や教会の思惑が絡み合い、価格が落ち着くにはまだ時間がかかりそうだ。子供たちに啓示があったように神々の意向を蔑ろにする訳にはいかないと、各国上層部は今のところあまり理不尽な振る舞いはしていないようだ。


 大陸の西と東では国の様相はまったく違うようだし、閉ざされた辺境で暮らしてきた俺たちには分からないことが沢山あるのだろう。

「……!?」雑多に置かれた商品の中に、包み紙として無造作に扱われているくしゃくしゃの依頼書が目に留まった。

手に取り、指先でシワを伸ばすと、そこには挿絵と『価格は応相談』という破格の条件を予感させる文字。

「ふむ……」

顎に手をやると、いつの間にか隣に来ていたビビが、その紙を横から覗き込んだ。


「ダメ」

「……そうだな」


 俺はその紙を元の場所へ戻しその場を後にした。その紙に書かれていたのはレインボニールという不思議な実で、虹の根元に生るという物だ。物語や神話などで語られる物である。

 ある物語では、収穫しても10分で消えてしまったとか、運良く手に入れ食すことが出来ればスキルが手に入るとか。七色に輝くその実は神の力 -神威-にあふれているというものだ。


 そんな実在するかどうかも解らない幻の果実を募集して、「はい、持ってます!」なんて名乗り出たら最後、入手方法や真贋など面倒くさいことにしかならないだろう。生きて帰れるかさえ分からない。


「ミミは何個持ってる?」

「うーん、三個だったかな?」

「ビビは二個」


 へへへとビビは照れている。ビビがなぜ照れているかといえば、レインボニールを俺よりも持ってないからだろう。俺よりも多く持っていたはずなのに残りは少ない、それが少し恥ずかしくなったのだろう。生まれてから一緒にいるのだからビビの考えなど手に取るように分かる。


 レインボニールは存在するし、甘くて美味しいのは確かだ。スキルも偶に授かるが確率は一割程度だろう。故郷では何個も採取して猫の額にも入れている。


 採取方法は虹を見付けたら直ぐに根元に行き、錬金術で作ったムーンドロップを振りかけ、銀の鋏で採取する。そのままだと消えてしまうので、六面が鏡で出来た箱の魔道具ムーン・リフレインで保存する。これでレインボニールは手に入るが、神の力が宿っているのか何なのか、力を取り込み過ぎないようにちょっとずつ食べないといけない。これは俺の実体験の研究結果である。


「そろそろ出発するぞ。買い残しはないか?」

「ないー」

「じゃあ、速度アップのダンスを頼む」

「おっけー、ケットシーステップ」


 そんな軽い返事で始まるケットシーステップで、俺たちは疲れ知らずで速度アップになる。一歩踏み出すごとにスピードがのっていき、草原を吹き抜ける春一番ほどの速度になった。

 まだ新しい街道だからか人はまばらでダンスの恩恵がフルで享受出来ている。


 俺たちは順調に歩みを進め、ビビもご機嫌に即興曲を歌っている。内容的には「この道は何処に続いているんだろう」って内容だ。

 俺は合いの手を入れる「希望の地、光の地」と入れると「右にー行こうー」ビビはそう歌って旧街道らしい少し細い道へ入っていく。



 そのまま旧街道を進むとビビは歌を止め歩みも止め、そこには道案内の古い灯篭が打ち捨てられていた。少し開けたそこには灯篭以外にもゴミが捨てられていた。新しい街道が出来たため人通りの減った旧街道は人目が届かず、ゴミが捨てやすいのだろう。


導の灯の神しるべのともしびのかみさま!」

 ビビはそう言って石灯篭に走り寄った。村の名前らしき文字は消えかけ、消えそうなほど弱い灯が揺らめいていた。ここまで弱く薄くなった灯が見える者は限られるだろう。ビビは直感と鑑定が合わさり、其処にあるものを見つけたのだろう。


「ビビ、導の灯の神さまで間違いないんだな」

 ビビはそうだと大きく首肯した。


「ならこれを使うと良い」

 猫の額からムーンリフレインを取り出した、もちろん中にはレインボニールが入っている。俺の手からムーンリフレインを受け取り石灯篭に置き箱を開ける。すると開け放たれた箱から眩い七光が溢れた。


 その眩しさに目を瞑っていたが、光が収まったのを瞼越しに感じ目を開けた。


 すると石灯篭の上に小さな人らしきフード付きの外套を纏い、顔は影になって見えないが優しい気配だけが伝わってくる。手にはランタンを持ち、ランタンの中には炎ではなく星の欠片なのだろうか、青白い光が流れ星のように光っていた。


「ボクのもあげるね!」

 そう言うが早いか、その手に握られたムーンリフレインは開けられ、またもや視界は真っ白になった。ビビにはムーンリフレインを開けるときは、一言言うようにと何度言っても忘れるようだ。


「ほら、導の灯の神様も困っていらっしゃる」


 導の神様は何とも言えないという顔で俺を見ていた。そしてビビが「ごめんなさい!」と頭を下げた。


「よいよい、頭を上げてくれ。われの名はヴェイア、道を照らすものだ。このまま消え去ると思っていたのだが……」


 男とも女ともつかないその声は、怒りでも悲しみでもなく流れる川の水面のような声だった。


「よもやレインボニールを保存している者が居るとはな……。あんな貴重な物をどうなるかも分からんのに、躊躇なく開放するとは……」

「まだ二個あるよ!もう一個あげるね!」


 ビビは猫の額からムーンリフレインを取り出し、導の灯の神様に押し付けた。開け方のレクチャーまでしているのにはびっくりだ。

 ビビの思惑はきっと、俺とビビのレインボニールの所持数を同じにしたいだけだと思う。そこに深い意味や考えはないだろう。


「よし! 元気いっぱいになったね!」

「ふむ。それでは私たちは、先を急ぎますね」


 神様は三つ目のレインボニールを持ったままなので、使われる前に退避したい。その思いが前面に出過ぎていたのか、「ああ、世話を掛けたな」と心なしかしょんぼりしているようだ。


「「さようなら」」と二人で手を振り、ケットシーステップで俺たちは走り出した。


 どれほど走っただろうか、旧街道は新街道と交わり新街道を進む。もう導の灯の神様はいない。


「ふぅー、危なかった。短時間にレインボニール三連発は耐えられない」

「だよねー、二連発でもきついのにねー」

「「三回だと虹になっちゃうよ」」


 アハハハと二人で笑いながら、街道を北東へ向かって進んだ。


 石灯篭のあった場所は、後に迷い人が道を見つける『光の地』として語られ、有名となった。

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