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ダンジョン街のミミとビビ ~世界はダンジョン産で満たされる~  作者: 石火
第一章:境界線の向こう

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第一話 幕間 波の泡 ーなみのあぶくー

波の泡から視点になります。

 南方から連れてこられて、もうどれ程の年月が流れたのだろう。此処は故郷とは違い四季が巡り、それぞれの季節が彩りを見せる佳き土地であった。しかし、「常夏ならば収穫が増える」と信じる者たちの独善が、この地の正義となってしまった。


 我もまた若く、名が持つ真の力を理解していなかった。心を許したが故の過ちであったが、人と神との間に横たわる溝は、埋まるどころか次々に湧き出してきた。仕舞いには、真名によって土地に縛り付けられてしまったのだ。愛した者はとっくに黄泉へと旅立ち、我だけが取り残された。


 辺境であったが故に、我の術でこの地を隠すことは容易かった。だが、隔絶された地に変化はない。この地の民は今も我を大事にしてくれているが、そろそろ……潮時かもしれんな。


 変化は緩やかに、だが確実に。民には息災であって欲しいものだ。


 己で消えようと思いながら、どこかで踏ん切りがつかぬまま日々は流れた。しかし、真の変化は思いがけない姿でやって来た。とびきり愛らしい、二人の「風」だ。一人は三毛の毛並みが美しい子。もう一人は、幼さの残る薄いグレーの可愛い子だ。


 常ならば、日がな一日故郷の海を想い、川面を眺めているのだが……この日は不思議と心が動き、我の方から二人に会いに行ってしまった。胸が躍るなど、一体いつ以来だろうか。


 直に見る彼らは、なんと愛おしいことか。それと同時に、やはりこの地が閉じたままなのは良くないと、改めて感じさせられた。彼らに背を押されたような心地であった。


 明くる日、ケットシーの二人が出立の挨拶に来てくれた。それがどれほど嬉しかったか。

 それは、彼方で見知った温かさを感じる。



 二人が村を出たら、我もまた消えてしまおうと、そう覚悟を決める。消えるのは怖いが、これ以上、時の止まった檻にいることは耐えられぬ。


 二人は北東へ向かうという。「元気でな」と声をかけようとした瞬間、小さな手から何かが差し出された。

 それは、見事な宝石であった。精緻な破邪の力が宿り、更にはそれを包み込むような温かな守護の力が付与されている。我は戸惑い、問うてしまった。「これを貰っても良いのか」と。

 貢物など、これまで幾度となく捧げられてきた。だが、これほど純粋に「我のため」を思って差し出されたものは初めてだった。


 この守りがあれば、我を縛る呪縛を解くことができる。呪い(まじない)を払い、再び歩き出せる。我の驚きを見透かしたように、あの子――ビビが言った。


「ビビは自由でいたいタイプ」


 自由……。

 そんな、自分には二度と訪れぬと思っていた言葉を、あの子はあまりに無造作に、風のように放った。


 ……喉の奥が震えた。

 幾年月も忘れていた「泣く」という人の振る舞いを、我は今、必死に堪えている。

 自然と頭が垂れ、目の奥が熱くなってしまった。このままでは……醜態を晒すことになる。なんとか絞り出した「かたじけない」という言葉が、今の我の精一杯であった。


 勘の鋭いケットシーの二人は、我の揺らぎを察したのか、その場を早々に辞して出立してしまった。

 もっと、もっと感謝の言葉を伝えたかった。だが、荒れ狂う波のように感情が揺れ動く今、それは叶わぬ。


 二人の気配が村から完全に消えた時、我はその場に泣き崩れた。

 悲しみではない、永き冬が終わるような、温かな涙であった。


『二人の未来に光あれ』


 神の言葉で紡がれたその言霊は風に乗り、遠く離れた二人の背をそっと押した。

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