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ダンジョン街のミミとビビ ~世界はダンジョン産で満たされる~  作者: 石火
第一章:境界線の向こう

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第一話 旅立ち

本編始まりました! よろしくお願いします。

 白み始めた空の下、村の出入り口に小さな影が二つ。少しだけ大きいのが俺で、小さいのがビビだ。いつも少しぼーっとしているビビだが、自分の興味のある事には強かだ。


 今日の出発を決めた後、二人の目に映っている地図を口頭で伝え合い、ほぼ同じ場所ではないかという結論になった。まあ、近い方がお互い助け合えて良いなと二人で喜んだ。


「おはよう、ミミ」

「おはよう、ビビ」


 そう挨拶を交わすと、どちらともなく歩き始めた。街道沿いを歩く予定だが、あくまでも予定であって結局は矢印次第だ。矢印は北東を指している。俺たちの現在地が大陸南西部なので、中央部へ向かって矢印は指している。


 大陸中央部はかつて大きな国があったが、今は国も無く荒れ果てた大地があるだけだ。そのため使う人の少ない街道は道も荒れている。それでも近隣国に輸送をするためか馬車は通るようで、道幅だけは十分にあった。


「ねえ、ミミ。村でダンジョンコアを見つけたのって僕たちだけかな?」

「どうだろうな……今後見つける者もいるかもな」

「そうだよねえ。まあ、僕とミミは幸運の『金の目』持ちだから、ダンジョンコアもすぐに見つかったんだと思うんだけど」


 金の目をしたケットシーは幸運を運ぶと長く伝えられている。俺の右目と、ビビの左目。朝日に照らされたビビの横顔を覗くと、唯一金色に輝くその左目が、宝石のようにキラリと光を反射した。


「総じてケットシーは幸運だと思うが、ビビは特に幸運に恵まれているように感じるな」

「よく言うよ、その言葉はそのまま返すよ」


 そう言ってビビはパシンパシンと尻尾で俺の尻を叩いた。


「ふむ……金目同士での運の話は不毛だな」


 ビビは「そうだね」と苦笑し、ケットシーダンスの弾む心のステップを踏む。このステップを踏むと周囲のケットシーは疲労が軽減されるのだ。

 この道は何処まで行くのかとメロディーをつけながら口ずさむと、ビビが即興で合わせてくる。ケットシーは歌も踊りも好きな種族だ。

 軽快な歌に合わせて足取り軽く、気付けばかなり距離を稼いでいた。遥か遠く小さく見えていた霊峰が、山頂に掛かる雪を確認できるほどになった。


「霊峰の白竜様は本当にいるの?」

「そりゃあ居るさ。『月が満つる時、白き竜は白銀を纏いて空へ羽ばたく』って、ビビの好きなアストラ大陸神話集にも載ってるだろ」


 ビビはうんうんと頷き、俺を指差して言った。


「だけど、目撃者が全くいない!」


 俺はビシッと指された手を払い除けた。


「白竜様は空気に溶けるんじゃないかと俺は思うんだよね」


 ビビはハッとした顔になった。


「アストラ大陸神話集に、巨体がスーッと掻き消えたって一文があったかも!」


 そうだろうそうだろうと俺は大きく頷いた。


「もしかしたら、俺たちのすぐ横を歩いてるかもよ」

「うわあ、夢がある! いないと思うよりもずっと良いね!」


 すると、俺たちの横を突風が駆け抜け、『息災でな』と重厚な声が聞こえた気がした。俺とビビは顔を見合わせると「「白竜様だ!」」と喜びの声を上げた。白竜様を称える歌を即興で作ると、歩みはまるで飛んでいるように滑らかに進んだ。矢印は尚も北東を指している。


 俺たちは「常夏村」へと到着した。俺たちの暮らした村は常夏ではなく四季があり、季節ごとに違った顔を見せていた。そんな村から少し北に来ただけなのになぜ常夏なのかとビビと顔を見合わせたが、看板には確かにそう書かれている。


「ねえ、なんか暖かいね」

「植生も変だ。俺も本でしか見たことのない南国の植物が生えてる」

「……暑いね」


 常夏村は中心部へ行くにしたがって、日差しが強くより暖かくなっていく気がした。日が傾きかけているというのに不思議なものだ。


「ミミ、宿屋さんの看板があるよ」

「本当だな、部屋が空いているか訊いてみよう」


 南国風の造りなのか、高床に大きな窓のある建物に入る。こんなにあけっぴろげで盗難の不安はあるが、野宿よりはマシだろう。


「いらっしゃいませ~」


 宿屋の受付の女性は人族らしく、人当たりの良さそうな笑顔で出迎えてくれた。


「二人で一泊したいんだが、部屋は空いてるかな?」

「空いてますよ。五泊でも十泊でもしてくださいね」


 受付の女性は「宿屋ギャグです」と微笑みながら部屋の案内をしてくれた。二階にある二人部屋、朝食付きで一人大銅貨五枚だ。夕食やお酒が飲みたければ併設の食堂でどうぞとのことだ。

 部屋は中々広くて掃除も行き届いているようだ。カーテンは無く、簾のような物が掛かっている。椅子やテーブルも籐のような太い蔓植物を編んで作られている。


「部屋も南国っぽいな」

「うん。ビビは結構好きかも」

「悪くは無いな。……鼻はムズムズするか?」

「しないよ。問題なし」


 ビビには予知のような危険察知の能力がある。危険な場所や人などに反応し、鼻がムズムズとして教えてくれるのだ。


「念のためだ、目もやっておこう」


 俺がそう言うと、ベッドシーツと戯れようとしていたビビが名残惜しそうにこっちに来た。二人向かい合って準備完了だ。


「金の目」

「きーんのめ」

「金の目」

「きーんのめ」


「「仕事しろ!」」

『ポコン』


 そう言ってお互いの頭を軽く小突く。


「「……」」

「何もないな」

「何もないね」


「……大丈夫そうだよ、ごはん行こー」

「貴重品は持って行くようにな」


 了解とビビは良い返事を返し、俺たちは部屋を出て階下へ降りた。夕刻になり食堂は盛況で、人々が集まり楽しそうにしていた。俺たちは窓際の席に座り、おまかせ定食を注文した。


「うわー! 可愛いケットシーがいる」


 少々高い女性の声が後ろから聞こえた。久し振りに見るなーと、その女性は俺の横に勝手に座ると「こっちの子も可愛いね」とビビに小さく手を振る。ビビはニコリとして「ありー」と返している。問題なさそうだな。どうやら、良い神様のようだ。


 強制相席となったその女性は、肌の露出の多い衣装を纏った女神だった。神様かどうかはケットシーにはすぐに分かる。体全体から神威が滲み出ているからだ。衣装を見るに南国の神なのだろう、全体に赤と橙の神威を纏っている。


「神様が居るから暖かいんだね。ビビは暖かいの大好き」

「そうか、暖かいのが好きか」


 そう言って神は目を細め、ビビの頭を優しく撫でると「邪魔をしたな」と席を離れた。


「お待たせしました。トロピカル定食二つね。お代は波の泡(なみのあぶく)様に頂いています」

「なんか悪いね」

「泡様はケットシーがお好きなんです。久し振りに現れたケットシーに、本当にお喜びでしたよ」


 店員は微笑み「スープ熱いから気を付けて」と言って給仕に戻った。タダより高いものはないと言うが、奢られようが拒否しようが神のすることに抗いようはない。女神の寵愛を受けているケットシーに、わざわざ手を出す野暮な神もいないだろう。


 出されたトロピカル定食は、ワンプレートにサラダからメインの鶏肉まで盛り沢山なものだった。


「……スパイシー、美味しいねミミ」

「美味いが、俺たちには少し量が多いな……」

「こうなると思ってたから、ケースを持ってきたよ」


 ビビが猫の額(ねこのひたい)と呼ばれる空間収納から、木製のお重を取り出した。

「洗って返すよ」

「いつでも良いよ」


 頷き、半分ほど残した定食をお重に詰めて収納する。空間収納は大っぴらに使うものではないが、完全に隠し通せるものでもないしケットシーには標準装備だ。だからこそ俺たちは「猫の額ほどの収納力だ」と謙遜して呼んでいるのだ。実際、なぜかダンジョンコアだけは収納できないという制限もあるしな。


 ごちそうさまと言って部屋に戻り、濡れ布巾で身を清める。


「ビビだめだ。床で爪は研ぐなよ」

「ムズムズするよ」

「これを使え」


 俺が少し小さい爪とぎ板を出してやると、ビビは「さすがミミ!」と喜んでガリガリと始めた。

 首肯で答えながら、波の泡様のことが頭を過った。その時、不思議と指先に触れたのは、大きな宝石の付いた「破邪の守り」だった。

 神に破邪が必要なのだろうかと疑問に思ったが、俺の鼻(直感)がこれを渡せと言っている気がした。


「ビビ、これに守りの念を込めてくれないか」

「いいよー」


 ビビに渡すと、彼は「ぬぬぬ」と気合を入れて念を込めた。

「これ、ミミが作ったお守りだよね。いくらでも念が吸い込まれていくよ、すごいね」


 そう言えば、核にしたのは旅立ちの前に見つけた大きな宝石だったな。明日の旅立ちの時に渡すとしよう。


「じゃあ、寝ようか。おやすみ」

「おやすみー」


 夜明けと共に、けたたましく鳴くコンゲンの鳴き声で目が覚めた。この村にもコンゲン(食用にもなる鳥)がいるのだなと妙な親近感が湧く。

 窓から外を見ると、白み始めた空は今日も良い天気だと教えてくれる。ゆっくりと流れる雲に「風も無く穏やかな日だ」と呟き、隣のベッドで眠るビビを起こす。


「おはよう、ビビ」

「……おはよう、ミミ」


 収納からカップを二つ取り出し、蜂蜜入りのホットミルクを注ぐ。飲み頃の温度になるのを待つ間、モソモソとビビがテーブルについた。


「予定を確認しておくぞ。まずは破邪のお守りを波の泡様にお渡しする。その後は北東に進もう」

「了解。それにしても神の啓示から半年は経ってるから、コアを拾った人はもう多いのかな?」

「どうだろうな。俺たちの国は体が小さい者が多かったからそれ程飢えなかったが、他所は違ったんだろう」


 為政者が奪うことを選び、負の連鎖が弱者に皺寄せを呼ぶ。そんな外の世界を想像して腕を組む。

「なるほど」と頷いていたビビが、カッと目を見開いて言った。


「飲み頃!」

「うむ」


 人々の目がダンジョンに向き、争うよりも利があると判断すれば、少しはマシな世界になるだろうか。……辺境育ちの俺たちには世界のことなんて解らないがな。


「ごちそうさま。今朝も美味しかった」


 ペロリと口の周りを舐めたビビのブーツの結び目を直してやり、忘れ物がないのを確認して階下へ降りる。食堂では昨日受け付けてくれた女性が待っていた。


「おはようございます。朝食のスープとパンができてますよ」

「ありがとうございます。あ、波の泡様はどちらにいらっしゃいますか?」

「朝は大体、河原で水面を眺めていらっしゃいますよ」


 運ばれてきたスープとパンを平らげ、ビビは笑顔を振りまいて追加のパンまで貰っている。さすが村で「微笑み王子」と言われただけはある。


「行こうか、ビビ」

「了解!」


 河原に降りると、波の泡様はすぐに俺たちに気づいてくれた。


「おはようございます、泡様」

「何々どうしたの。お別れの挨拶に来てくれたのかなー」

「はい。俺たちは北東へ向かいます。それと、これをお渡ししたくて」


 俺が「破邪のお守り」を差し出すと、彼女は目を見開いて絶句した。


「も、貰っても良いのか……?」


 その震える声に、やはりこれが必要だったのだと確信する。


「どうされるかは、波の泡様次第です」

「ビビは自由でいたいタイプ」

「そ、そうか。自由で、いて良いのか……」


 お守りを受け取った波の泡様は、神様であるはずなのに、俺たちに深く頭を下げた。


「俺たちはこれで失礼します」

「……かたじけない」


 背後から微かに聞こえたその声には、熱い湿り気が含まれているような気がした。

第一話まで読んでいただき、ありがとうございます!

いよいよミミとビビの旅が本格的に始まりました。


これから二人がどんな場所に行き、どんなお宝を見つけていくのか、一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。


もし「続きが気になる!」「トテトテ歩く二人を応援したい」と思っていただけましたら、ブックマークや評価、感想などをいただけると執筆の原動力になります。


次回もよろしくお願いします!

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