第九話 記憶の欠片
「第一章:境界線の向こう」のエピローグになります。
朝靄の中、俺は目覚める。
いつものように二人を探すが、いつもと違い二人はスヤスヤと気持ち良さそうに眠っている。
「ふむ、いつもと違うんだな」
靄の中、石畳の道を進むと、いつの間にか道を見下ろすこととなった。
その瞬間、胸の奥がひどく疼いた。
なんとは言わず矛盾を感じる。
「あっ、夢か……」
知らない景色のはずなのに、懐かしさとも痛みともつかない感情が溢れてくる。
いつの間にか握っていた夜色のコアが微かに脈打った。前方から吹き抜ける風は冷たく、俺の体を吹き抜けていった。妙に冷たく感じた。
その瞬間、何かが弾けた。
暗闇の中に輝く、一本の道があることに今更ながら気づく。
金色の細く柔らかな光を編んだような、幾重にも撚り合わさった細く長い道。
かつての俺が誰かと歩いた、どこまでも行けると思った道。
その道は空の裂け目にも、海の底に眠る海底都市にも、神々が眠る場所にさえ続いていた。
俺と君は、ただ一緒に歩いているだけで幸せだった。
けれど君は絶望したんだね。
そして俺も遅れて絶望した。
その瞬間、道は閉ざされた。君は俺を置いて先に進み、俺はそこから動けなくなった。
どれだけの時間が経ったのだろう、俺は君の行かなかった道を行くしかなかった。
そして気付いたんだ、俺が置いて行かれたんじゃない、ただ俺が君について行けなくなっただけだと。
俺は進むしかないんだね。この道を一人きりで。
光が消える。
途切れた道の残光だけが、瞼の裏に焼き付いていた。
「ミミ? どうしたの、ダンジョン街はすぐそこだよ」
ビビが心配そうに俺の顔を覗き込む。
その金の瞳が、胸の奥の疼きを呼び覚ます。
「……いや。なんでもない」
そう答えながら、俺は確信していた。この地は、かつての俺が“いた気がする”場所だ。
ケットシーとして生まれて三年。朧げに頭を覆っていた記憶の靄が、少しだけ晴れた気がした。
風がまた吹いた。
今度は冷たくない。まるで「ようこそ」と歓迎してくれているように感じた。
胸が少し温かくなった。
道の向こうに、ダンジョン街の輪郭がぼんやりと浮かんでいる。
石造りの家々が朝靄にとけ、遠くで鳥の声が聞こえる。
初めて見るはずの景色なのに、胸の奥がじんわりと温かくなる。
「ミミ、行こう」
ビビが尻尾を左右に揺らし微笑む。
光の道はもう見えない。
けれど、その残光はまだ胸の奥で確かな熱をもって揺れていた。
俺は大きく息を吸い、前を見る。
今の俺には、仲間たちがいる。
きっと、また歩き出せるのだろう。
この仲間たちと共に。
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では、次話で!




