十話 赤い岩山の街 前編
今話から第二章開始になります。よろしくお願いします。
遠くにうっすらと巨大な岩山の影が見える。その岩山の中に神殿があり、天辺には街があると言う。
その場所こそがダンジョン街。
戦いを、自由を、仲間を、夢を、各々想いは違っても目指す場所は同じ……そんな者たちが最後に寝泊まりする場所に俺たちは辿り着いた。
何度もやってきた未来視なのに、今日は何かが違う気がする。
そんな空気を感じ取ったビビとロークも、息をのんでいる。
そして広場の片隅で俺が声を上げる。
「じゃあ、始めるぞ」
「金の目」
「きーんのめ」
「金の目」
「きーんのめ」
「「仕事しろ!」」
『ポコン』
そう言ってお互いの頭を軽く小突く。目の奥がじんわり熱を帯び、視界の端に薄い金の線が揺れる。
それは光でも影でもなく、未来の輪郭だけが滲むような不思議なものだ。
何か重要なことの前には『金の目』をよくするようになった俺たちは、ダンジョン街を目前にした今夜『金の目』を行っていた。
「「……」」
「どうだ、何か見えたか?」
低い声で問われる。
今までに数度しか見たことのない、ロークの真剣な顔が俺たちに問い掛ける。
「ロークがダンジョンオーナーになってた」
「そうだな、俺とビビはロークと共にそのダンジョンを攻略してたな」
「おー、おれのダンジョンなんだった? いやっ! 聞かない! 言うなよ!!」
一人で忙しい男だな……。俺の視界から金の線が消え、現実の夜の暗さが戻った。
「まあ、そのうち分かるんだし、色々想像して楽しんでおくと良い」
「相変わらず達観してるっていうか、じじいだな」
ロークの豪快な笑い声が、夜空に吸い込まれて消えていった。
――そんなロークの高笑いに埋もれていたが、ビビが「誰だろあのこ」と呟いていた気がした。
「ガイア様! どうか大地の民のおれに良いダンジョンを!」
「ビビにクリームのダンジョンを!」
未来の輪郭は薄れ、胸の奥に残った微かなざわめきはなりを潜めた。
一抹の不安を覚えつつも、明日はついにダンジョン街に到着する。
***
俺たちが足を踏み入れたのは、赤茶色の砂煙の巻き上がる整えられた道と、乾いた風と匂いの地。
地面は固く踏み固められ、ロープによって区画整理された土地だ。
工事の音、砂の匂い、そこはまだ街というには烏滸がましいものだ。
「……想像していた雰囲気はまるで無いな」
視線を上げると巨大な赤茶けた岩山がそこにはあった。まるで巨大なテーブルのような天板には、建物の影が無数に見えている。
「あれがダンジョン街か。道沿いのこの辺りは開発中か」
「それにしても工事ばかりで、屋台通りみたいなのもないな」
「そだねえ。西から来たからかな?」
それはあるかも知れないと歩みを進める。
砂煙の向こうでは作業員たちが声を上げ、木材や石材を運んでいる。コアが指し示すのはまだ先だ。
この地にいるのは作業員の他に、子供たちと兵士のような人たちだ。
子供も多いと聞いていたが、種族関係なく皆でダンジョンへ向かうようだ。
子供たちも武器を持ち、俺たちを追い抜いていく。
今まで見たことのない光景だ。
「新入りか、仲間に入りたいなら入れてやっても良いぜ?」
ダンジョン街に向かい歩いていると、突然声を掛けられた。少し高い声の主は黒髪の人族の子で、盾持ちの剣士だ。意志の強そうな目をしている。
「仲間?」
「そうだ、ダンジョン攻略のノウハウを共有して仲間を守るんだ」
そんな組織まで出来てきてるんだな。だけど、初日からどこかに所属するとかもな……。
「ドロップは半分が仲間の取り分だから、うちは他所よりも得だぜ」
(半分も持ってかれるのに得なのか……?)
「俺たち来たばかりなんだ。今回はやめておくよ」
「そうか。仲間になりたくなったら、この辺りでジャッカルズって言えば分かるからな」
ジャッカルズ……漁り屋か、悪い大人に搾取されてないと良いが。
まあ、健康状態も良さそうだったし、なにより三人が仲良さそうなのが何よりだ。
辺りを見回すと、彼らのように数人のグループで行動している子供たちがいるようだ。
大きくカーブしながら二階へ誘う大階段を、ジャッカルズは上がって行った。
近づくほどに岩山の存在感が増していく。
表面は光沢があるようで滑らかで、ところどころに長年雨に削られたのか、縦に溝が走っている。
こんな巨大な物、自然の造形だろうが、どこか神の手を感じるものだ。
「……でけえな」
ロークが思わず呟く。
その声は大地の民による、この光景の畏れがあるのかもしれない。
「あそこから上るようだな」
「そうだね」
「よし上がろうぜ」
スロープもあるが馬車が頻繁に通っているため、階段で上ることにした。高さは民家四・五軒分、段数は百もないだろう。
俺たちはケットシーステップで、階段を苦も無く駆けあがる。
ビビのバフ効果は絶大だ。
風は強く砂が頬をかすめる。
しかし、そんな砂は階段を少し上がれば感じない、地表近くだけのようだ。
上がれば上がるほど、先ほどまでの地上の雑多な匂いとは逆に空気は澄み、砂ではなく岩と緑と水の匂いが近づいてくる。
「ミミ、ローク見て! 建設中の街が端まで見えるよ!」
「すげえ! 上から見ると違って見えるんだな」
「あのロープの仕切りが、いかに大事かが上から見ると良く分かるな」
二人が「「本当だ」」と頷いている。皆が主張しあって自分勝手にすると、こうはならないだろう。
そういう面では教会の功績は大きいのだろうな。
「街もすごーい」
ビビの声に岩山の頂上側を見る。
こちらはロープではなく、しっかりと区分けされた街になっていた。
楕円形の頂上は、中央に行くほど低くなるすり鉢状だ。
「区画は沢山あるが、封印されている場所が多いな。入り口が閉ざされている」
「封印は分かり易いな。看板に赤い字で大きく×と書いてるな」
「まあ、僕たちも起動させてないからね」
「同じように様子見してる奴らもいるのかもな」
そこまで聡明な子供が、どれほどいるだろう。
それでも稼働しているのは二十以上ありそうだ。
「これ区画のすべてが貰えるのか?」
「そうなんじゃないか? 区画自体に入れなくなってるってことは、建物も不随物だろう」
低い石垣で区切られた敷地内には、いくつかの建物がある。
「僕はお店とかいっぱいある区画が良いな」
「なら広い区画が貰えると良いな」
仕切られた区画の大きさに比例して、建物の数や大きさが決まっているようだ。
「おれは丘が欲しいが、さすがに丘はねえな」
「東西の端が岩山の端で丘みたいになってる」
俺は西端を指さした。そこは斜面になった三区画で、広さはあるが普通の人には住みにくそうだ。
「良い感じの斜面じゃねえか。掘っても良いんだろうな」
この地下が空洞じゃない限り、掘っても良さそうだが……。
「東もこうなら六ケ所が斜面だろうな」
「ロークまたあの丘の家に住むの?」
「あぁ、できるなら住みてえな」
「いいないいな! 憧れる」
ケットシーは広い場所よりも狭い場所を好むから、ノームであるロークも似た気質なのかもしれない。
「丘は冬温かくて夏涼しくて最高なんだぞ」
「僕の部屋も造ってよ」
「みんなの部屋造ってやるよ」
まだ斜面の区画が貰えた訳じゃないのに――そう思ったが、口には出さなかった。
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では、次話で!




