第八話 神罰の残滓 中編
前中後編の中編になります。
晩秋メレディス王国周辺は北から風が吹き、冬が近いことを知らせるそうだ。
「その風のことを巨人のクシャミっていうんだ」
おならじゃないからまだマシだよねと、ロークは笑って話す。ノームは北に集落があり、ローク家族は南に降りてきた一族なのだという。
アーケル=ヴァルナ王国周辺で地脈の流れの影響で家族とはぐれ、
影響の少ないヴルスガルド王国まで避難していたそうだ。
「それで目立つ場所に家を作ったんだね」
「そうなんだ。そしたら丘でダンジョンコアを見つけたんだ」
差し出した手にはダンジョンコアが怪しく輝いていた。
「まあ、おれも十になったし、この機会に独り立ちも良いかなと、家に置手紙して旅に出たんだ」
地脈の乱れもあれから何ヵ月も経ったし、収まってると思って出発したそうだ。
「すこしはマシになってた?」
「ぜーんぜん、変わんないよ。サイゾーのおかげでここまで進めてる」
「原因は多分……分かる」
「「えっ、分かるの」」
「多分だよ多分。二つの国が消えて、メレディス王国は一部が瓦礫になったのは知ってるよね?」
初耳だと俺とビビは首を横に振った。ロークは知らないんだと驚いていた。
「神罰が降ったそうなんだけど、その影響だと思う。……あの日のことは、あまり語られないんだ」
「神罰って、どういうこと?」
「神罰の過剰な神威によって、地脈が暴れちゃったんだと思う。大地の神ガイア様の気配もないし……」
神の力か……。
もしかして……。
「その余剰の神威を減らせばいいんじゃない?」
「どうするの?」
「そんなのどうすんだよ」
ロークってこの話し方が素だと思う。最近遠慮のない話し方だ。
「俺とビビにはこれがある」
小瓶に入ったムーンドロップを取り出した。小瓶を左右に振るとチャポチャポと音を鳴らし青白く輝く。
「なんだそれ?」
「ムーンドロップだね」
「そう、ムーンドロップ。これを神威に振りかけて採取してみよう」
そんなこと出来るはずないって言うロークと、レインボニールに思いついたビビの反応は真逆で、ビビがレインボニールの説明をロークに始めた。
「まさか、レインボニールを採取して保存してるなんて、信じられねえ」
「で、これがムーンリフレイン。これに保存しとこう」
魔道具の箱を見せ、ロークには四個の箱を手渡した。ビビは三個の箱があると言っている。
「箱が七個か、足りるかな?」
「神威は地脈に分散して流れ、六ヶ所の断裂があったから、そこが神威溜まりだろう」
大地との親和性の高いロークが言うには、どうも大陸中央方面に神威は吸い寄せられているみたいだ。
仮にダンジョン街の稼働にエネルギーが必要とするならば、余剰分の神威が流れて行っても不思議ではないか……。
むしろ俺ならば、ダンジョン街にそういう役割も持たせるだろうな。国が消えるほどの力が働くってとんでもない力だからな。
「よし、今日はもう寝て、明朝から神威採取作戦を始める」
「「了解」」
「「おはよう」」
朝に弱いのは俺だけのようで、二人とも朝食を済ませ、情報収集をしているようだ。
パンを片手にスープを飲んでいると、ビビとロークがやってきた。
ロークが興奮気味に「コイツすげえコイツすげえ」と、ビビのコミュ力をべた褒めした。
「コイツはただの食いしん坊じゃねえ、あんな強面のおっさんから飯もらえるんだぜ。心も強ええ!」
朝の情報収集場面を俺は見たことがないが、ビビには何か才能があるのだろう。
「なにか分かったのか?」
「まず、神罰が下りたのが七ヵ月ほど前で。王城の他に、魔法研究所に、貴族の屋敷が瓦礫になった。住民はいきなり雷の音がして、気付けばあの状態だったそう」
なるほど、人外の力が働いたのは間違いないな。
「それでね、二月ほど経ってから落雷の原因というか、予想ができたんだって。どうやら、消滅した国と手を組んで何かしていたらしい」
詳しいことは実際のところ分からないけど、碌でも無い企みをしていたんだろう。
「って、ロークの話の裏付けが取れたってことか」
「そだね」
「実際にムーンドロップで採取出来るのかやってみようか」
朝食を済ませ、宿を引き払い、サイゾーを召喚し、最初の神威溜まりへ向かった。
「ちょっと引き返さないといけないけど、まずは国境のところだね」
左の籠に乗ったロークが「あそこには苦い思い出しかない」とぼやいた。
西行きの人は少ないかと思ったが、ダンジョン街帰りの人たちがいるので東西どちらも往来はある。
「ミミそこだよ!」
ロークの示した場所でサイゾーから降り、地脈が一番乱れている場所へロークが誘導する。
そこは確かに髭が反応を示す。レインボニールの採取の時のようだ。
「二人とも、一応銀の鋏とムーンリフレインの準備をしてくれ」
「「了解!」」
「それじゃあ、掛けるぞ!」
ムーンドロップの瓶を傾け地表に一瓶分振り掛けた。
三人で身構えて待つが何も起こらない。
「何もなんな………くない! くるぞ」
「くるね」
やはり土属性には感じるものがあるらしい。
「大きな力が直ぐそこに」
「きたっ」
地表に現れたのはまるで、蔦植物でポコンとメロンの様な果実が実った。
「ムーンリフレインに入るのか微妙な大きさだな」
「柔らかいから押し込んだらいけそ」
「力技かよ!」
そう言ってロークがムーンリフレインを持ち、ビビが蔦を切り押し込んだ。
むぎゅっと神威は四角く収まった。
「「「やった!」」」
この調子であと五カ所の神威溜まりを回り採取しよう。実を採取された蔦は、萎れて枯れて消えてしまった。
二カ所目に向うために来た道を戻る。が、時間的に昨日泊まった宿に行った方がいいか……。
「昨日の宿に戻るか、二カ所目に行くかどうする? 二カ所目に向かうと野宿になる」
「二カ所目行こう」
「二カ所目だな」
「分かった、少し速度を上げるぞ」
二カ所目もロークの誘導で、直ぐに場所は特定出来た。採取も二回目なので早かった。
三カ所目に向っている途中で日が暮れてきたので、野宿場所を探す。
「地脈の乱れも無いしそこの広場でいいぞ」
二カ所目からも、それほど離れていないため地脈は乱れていないようだ。
テントを張り、火をおこし灯にする。
「今日はおれの荷物から飯を出すよ」
「「おー、楽しみ」」
先ずは焚火にケトルをかけてお湯を沸かしてー、とかやることを口に出してロークはテキパキとすすめていく。簡単なものだからー、と三十分ほどで完成した。
「よしっ、食べようぜ」
「「いただきます」」
食事の挨拶は、何度かの同席時に好きにすれば良いということになったので、俺とビビだけだ。
「ノームは基本芋だ!」
ハッハッハっと可愛い顔で豪快に笑うロークは、芋料理の説明を始める。
「ビビ、その丸いやつ食ってみろ」
「なんか、カリッとしてるのにモチっとしてる。美味しい」
ロークは首肯して「そうだろ」とご満悦だ。
「ミミはそいつだな、カップに入れたスープだ。熱いから気を付けろ」
俺は一匙掬いフーフーと冷まし口に運んだ。
「チーズのスープにもちもちしたのが美味い」
「チーズのニョッキだ」
焚火の近くに置いて温めたパンを手渡された。
「芋のパンだ。芋とベーコン炒めて、パン生地で包んで焼いてる」
「「うまい」」
俺たちは三種の芋料理を堪能し眠りに就いた。就寝時の防犯は、ロークが土の精霊にお願いできるので安全だそうだ。これも地脈が安定したからだ。
***
テント外の楽しそうな話し声に目覚める。朝から元気だな……。
「「おはようミミ」」
「おはよう」
何故か焚火周りに年配の女性が三人おり、二人が楽しそうに話している。そして何故か俺に朝食を渡してきた。
「どうぞ、温かいうちに召し上がれ」
ニコリと微笑まれ「ありがとう」と受け取った。
「ミミが寝てから焚火にあたらせてあげたの」
「昨日は寒かったしな」
「そうなの、助かったわ。ありがとねえ」
俺が寝てからそんなことがあったのかと、驚いたが問題ないな。スープとパンを頂こう。
年配の女性たちと別れ、俺たちはサイゾーで東へ向かう。
三カ所目、四カ所目と順調にこなしていく。その日は夕方に宿をとれた。
食事はダンジョン産の食材が色々使われているそうだ。ロークが「芋芋」うるさい。
今日も二人は情報収集していたそうだ。俺は気付かなかったが、どうやらロークの家族のことも聞いていたようだ。ロークに信用もついたしビビと相談しよう。
出発前に、ビビに金の目でロークの家族を探そうと提案した。ロークは二人とも金の目だなと、いたって普通だ。幸運の金の目なんて、村でしか有名じゃないのかもしれない。
「じゃあ、始めるぞ」
「金の目」
「きーんのめ」
「金の目」
「きーんのめ」
「「仕事しろ!」」
『ポコン』
そう言ってお互いの頭を軽く小突く。
「「……」」
「両親姉は一緒にいるね」
「問題は何もなさそうだけど、ロークのこと心配してる」
突然始まった俺たちの行動に、ロークはポカンとしている。
が、俺たちの脳裏には確りと。両親と姉の三人の姿が浮かんでいる。俺には心配だの気持ちが流れ込んできていた。
「え……っと、そんなこと分かるのか?」
「必ず当たる訳ではないが、ノームが三人見えたのは確かだ」
「そうか、信じるよ」
ここまで一緒に行動してきた積み重ねがあるからな。とロークは決め顔で言った。
「出会えるよ」
「そうだな、ありがとう」
「じゃあ、あと二カ所頑張ろう」
「「おー」」
五ヶ所目はここか……ここは明らかに今までの四カ所とは違うな。
「ダンジョン街に引き寄せられてるからか、神威の量が多そうだ」
「やばい匂いがプンプンしてるぜ」
「髭がピクピクしてる」
いくら危険な雰囲気を感じ取っても、俺たちがやれることに違いはない。
俺はムーンドロップの蓋を開け、ビビは銀の鋏を持ち、ロークはムーンリフレインの箱を構えた。
「いくぞっ」
「こいっ」
「おぅ」
短いやり取りにそれぞれの緊張を感じながら、ムーンドロップを地面へ振り掛ける。
「ミミ、足りない」
いつになく真剣なビビの声音に、俺はもう一本ムーンドロップの蓋を開け振り掛けた。
「「くるっ」」
地中から大きな力の塊が押し上がってくるくるようだ。
力の塊は蔦の葉と共に現れた。
「実がでかいぞ!」
「ミミ、僕の箱も使って!」
俺の持ってた箱は、全部ロークに渡してあったのでビビから受け取る。
「どうすんだよ、こんなでかいの入らねえよ!」
「ビビが入るように切る!」
そう言ったビビの右目は光っている。
ビビは蔓から実を切り離し、実をギュウっと握ると鋏をナイフのようにして切り分け、素早く箱に押し込んだ。
切り分けた時の光の奔流は、レインボニールをも凌ぐものだった。
ロークの手は震えている、俺も鼓動が激しく脈打っている。
「ビビ口から心臓出ちゃうとこだった!」
「「分かる!」」
そう言って、三人とも地面にへたり込んだ。
「残り一カ所だけど、箱があと一個しかない」
どうするか、作ることは出来るがそれは材料があればの話だ。
「あと一カ所だからもう良いんじゃない? 今回みたいに収納できるとは限らないし、出来なかったら……どうなるか分からない」
「でもさ、あと一カ所だけなんだったら何とかならないか?」
ここまで五ヶ所の神威を採取してきて、地脈の流れが正常に戻って行く姿を、間近に見てきたロークはやり遂げたいみたいだ。
「だけど、箱がない」
「あるよ! あと二個ある!」
「ないよ」
「あるよ! レインボニールは十分で消滅するんだよ。箱を開けて十分待てば、中身のない箱になるよ」
「たしかに」
そうだ、ビビの言う通りだ。しかし、レインボニールは神威の塊と違って、スキルも手に入る可能性も秘めているうえに美味しい。
なんて俺が熟考してる間にビビは、レインボニールの入った箱を取り出し開けた。
「ちょ、さっきまで神威の」とまで言って俺は口を閉じた。言いたかったのは、「さっきまで神威のあった場所で、レインボニールの光までさせたらどうなるか分からない」だったが。
「どうにもならない見えてた」
「「先に言え!」」
大丈夫俺もロークとは上手くやっていけると思った瞬間だ。
こっそり『ビビの近くで開けてやれ』と言って、俺はレインボニールの入った箱をロークに渡した。
「ロークやめてよ! 虹になっちゃう!」
「えっ!? 虹になんのか?」
眩い光の中で怒ってるビビと、困惑しているロークを見て笑ったら、二人に反省させられた。
明日は六カ所目だ。今日はもう疲れたから、ここで休むとしよう。
***
朝食を済ませ今日の予定を確認する。
「いよいよ六カ所目、ムーンドロップは三個、ムーンリフレインも三個l、これだけあれば問題ないだろう」
「そうだな逆に余裕過ぎる可能性もある」
「そだね髭もムズムズしないし……一応金の目やっとく?」
「そうだな、念には念を入れておかないとな。神威の採取の成功の可否な」
「りょうかーい」とビビは元気に返事をし、準備完了と答えた。
「じゃあ、始めるぞ」
「金の目」
「きーんのめ」
「金の目」
「きーんのめ」
「「仕事しろ!」」
『ポコン』
そう言ってお互いの頭を軽く小突く。
「「……」」
「成功はする」
「そうだな、たしかに成功を喜んでた……」
「なんだよ歯切れ悪ぃな」
うーん、なんて説明をしたら良いんだろう。
「サイゾーが超サイゾーになるかも?」
「なに言ってんだ? どうなって超がつくってんだよ」
ロークの言うように、俺も良く解らないという事しか言えない。
「金の目って別に万能ではないんだと思う。そして親切でもないから、途中が無くて結果だけが知らされるんだ」
「ふむ、悪いことが起きるわけじゃないんだよな?」
「「たぶん」」
「じゃあ、良い! 分かんないことを言い争っても意味がない」
その通りだ。ただサイゾーがな……。
「じゃあ、さっさと行こうぜ。行けば分かる」
「なんか、かっこいい」
「そうだな、日に日に素が出てくるな」
うっせーと言いながら左の籠に収まるロークだった。
さて、ここが最終六カ所目の神威溜まりだ。
「昨日の神威溜まりと同等か少し強い力を感じるが、二人はどう思う?」
「そうだな、おれもそう感じるな」
「昨日の場所より力が強い」
少し強いくらいなら許容範囲だということで、採取することになった。
「準備は万端、忘れ物無し、いくぞ!」
「「おー」」
俺は二本のムーンドロップを地表に撒き、次に箱の準備だ。
ビビは銀の鋏を持ちスタンバイだ。
ロークは手に箱を持ち、足元にもう一つ準備している。
「きたぞ!」
「きたっ」
蔦が地表に現れ、実がポコンポコンポコンと三個現れた。箱も足りた!
一個、二個、と順調に採取していく。そして三個目。
「ダメだ入らない!」
「これを入れたら終わりなんだ!」
俺もギュウギュウと実を押すが、あと少しのところで蓋が閉まりきらない。
「くそーっ!入れよ!」
「あとちょっと!」
「まずいぞ膨張してきてる!」
「「「しまれー!!」」」
「ブルルル!」
突然俺たちの間から顔を出したサイゾーはパクっと一口、神威の実を齧った。その一口分で蓋は閉まり、蔦は萎み風に消えた。
神威の実を食べたサイゾーは全身が光だし収まったときには超サイゾーさんになってた。そうかこの場面が見えてたのか。
ビビとロークが顔をクシャクシャにして喜んでいる場面だ。
そしてサイゾーさんは一回り大きくなり、角が太くなり、金色に輝いている。
「どうしよ、気軽に呼び出せない見た目だ」
「超サイゾーさんだー!」
「呼び出せよー、サイゾーかっこいいよ」
ビビとロークにちやほやされ嬉しそうなサイゾーだった。
そうか、格好良いか……。
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では、次話で!




