第五話 幕間 神々の
この世は乱世、戦は戦を呼び、地は荒れ僅かながらの収穫物も奪われる。
飢えは人の心までも変えてしまい、親はどうやって子を高く売ろうかと頭を絞る。
敏い子は異変を感じ親元を離れ、村や町からさえも離れる。
そんな末期的な事が当たり前の光景になった時代に、突然子供たちだけに声が届いた。
『最後の慈悲である。ダンジョンコアを見つけ起動させよ。』
その日全ての子供たちに同じ文言が三度繰り返された。勘の良い者はすぐさま辺りを見回し変わった物はないかと探し始め、ある者は諦めの感情に支配され、走り去る子供をただ見ていた。
「さて、種まきは終わったぞ」
覗いていた天鏡から離れ、そう言ったのは星と運命の大神であり、神々の王であるアストレイアだ。
疲れ切ったその顔には影が差し、その瞳には、星々の光さえ揺らぐほどの疲労が滲んでいた。
……八百万の神々と人々を統べる王としての威厳は、もはや見る影もない。
「それでは我は眠りにつくとしよう。あとはおぬしらが心を入れ替えることを願っておる」
目覚めた時にどれ程の神が消えているのか……アストレイアは口には出さなかったが、この場にいる数十柱は同じように思っているだろう。
そして一柱の神が口を開いた。白銀の髪とその右目は、嘘も偽りも許さぬ真理の光を宿していた。知恵と真理の大神ウィスラ=ロアだ。
「アストレイア様は永い眠りにつかれた。これ程までにアストレイア様の神力を消耗させ、この世界アストラをも崩壊させるほどのダメージを与えたのは戦肯定派、否定派に中立派など全ての神の責任でありましょう」
ウィスラは光るその眼で神々をゆっくりと見渡した。
「アストレイア様のくれた時間は長くはない、しかしアストラを立て直すには十分な時間だ。個を捨て、皆で栄えあるアストラを目指そうではないか」
ウィスラは主に炎と鍛造の神イグナ=ヴァルと、その周りに侍る神達に特に言っているようで、それに対しイグナは反論をしようとしたが、豊穣と生命の神フローレンが先に口を開いた。
「戦が起こると武器や防具だけではなく、鍛冶や冶金・錬金に医療の進歩も凄いと言って、戦に関わる技術ばかりが進歩し、今やアストレイア様に縋るしかないところまでアストラを破壊した、あなた達の意見が聞きたいわ」
ぐむむむと言葉にならない声を出しイグナはフローレンを睨みつける。
「まあまあまあまあ。その話は何度もして、イグナも反省したのだからこの先を見てあげてよ」
死と再生の神である、モルス=ヴァイトが割って入った。モルスは死を司るが、同時に再生も司るため中立ではあるが、戦争による男子だけの大量死を最も強く嫌悪し戦神達を糾弾した神である。
「フローレンもモルスも、その話はダンジョンを造ることで決着はついたが、いざアストレイア様が眠りについた事で、蒸し返したくなるフローレンの気持ちも分かる。モルスにしても、絶えず起きる戦争による大量死で、世界が歪む事を懸念しているのも理解できる」
ウィスラはそう言って、戦神達に視線を移した。
「さっき反論しようとしたね。……そういう態度が反省していないと取られ兼ねないと何故分からない! こんな戦に狂った世で、戦神への信仰が偏ることに胡坐をかき、このアストラを破滅の淵へ追いやった重さを、まだ理解できぬか! アストラが消えるということはアストレイア様以外、全てのモノが消滅するのだぞ! 例外なく全てだ! 信仰があろうが、その信者自体が消滅するのだからな! いい加減に目を覚ませ!」
「分かっている……。反省もしている。戦を煽っておったのも事実じゃ、しかしそれが戦神なんじゃ……。だからこれからは、ダンジョンでの戦いを見守り、発展させていこうと思っとる!」
さっきまでと違い他戦神達も何度も首肯している。
ウィスラの詰めにイグナが反省し、他の戦神達の姿を見て他の神達は少し溜飲を下げることとなった。
(ああも詰められたくない)と幾柱の神が思ったことだろう。
戦の舞台はダンジョンに移る。錬金や生産も、舞台はダンジョン街が中心となって引っ張っていくことになる。――これできっとダンジョン計画は上手くいく。
「さて、次は戦争をしている者たちへの啓示だな。理解しない者たちには……消えてもらうしかないな」
「ダンジョン計画を邪魔するものは排除するもやむなし!」
「国であろうが、英雄であろうが、邪魔するものは全て消えてもらうが慎重にな?」
「ああ、分かっておる。何度か脅してそれでもだめならばじゃ」
神々はそれぞれの得意分野を生かし、派閥を作り、啓示と罰を下ろし始めた。アストラを救うために。
***
月影の女神ルナ=フェリシアは、諦観の眼差しで神達を見ていた。
小さくなってしまった神、その地を離れられない神、神域に来られぬ者も多い。すべての神がエゴを捨てること。それこそがアストラの為になるのだと、彼女は知っていた。
戦神の加護を持った者たちは、異世界から召喚した者たちを勇者として担ぎ上げ、駒として扱い、死ねばまた次を召喚すればいいという考えだった。
異世界召喚された命を、道具として扱う戦いは世界を滅ぼす綻びとなる。
そう判断したルナ=フェリシアは、召喚され傷ついた勇者たちの魂を月の光で包み、ケットシーとして再誕させた。
ケットシーは本来短命だったが、勇者の魂を受け入れるために寿命を大幅に延ばした。
最初から長命種に生まれ変わらせれば良いと思う者もいるだろう。
勇者たちは皆、ケットシーになりたがっていた。
殺伐とした世界で命を燃やし尽くした彼らにとって、小さく、温かく、穏やかな生は何よりの救いだった。
愛し子たちが望んだのは、かつて踏みにじられた穏やかな日常そのものだった。
そのささやかな願いを叶えるためなら、寿命の理を捻じ曲げることなど、大した手間ではない。
愛し子たちよ。どうか今世は楽しい生涯を、全うしてもらいたいと切に願う。
ルナ=フェリシアは静かに祈った。
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