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太閤の黄金  作者: 真魚
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第四章 プロクラドールの密使 三

 二日後の総会議は正餐を兼ねて開かれた。アダムスとエド・セーリスはシー・アドヴェンチャー号で暹羅へ発っているため、参加者はコックスとコッピンデール、ウィッカムとイートン、ネルソンとオスッターウィックだ。ハドソン少年もついでに食事をさせるために卓の隅っこに三脚椅子を与えられている。


 この日の正餐の献立はいつになく豪勢だった。

 メインは焼きたてのローストポークで、胡椒入りのグレイビーまでかかっている。このまま平戸に残りたいと切望しているホジアンダー号の料理番ジョン・コッカーの力作である。


 議題はまずこの料理番の残留問題から始まって木材の買い入れ問題に移った。

 大破したシー・アドヴェンチャー号の修理に加えてホジアンダー号の補強にも大分ストックを使ってしまたっため、EIC商館は、南東モンスーンのシーズンが到来する初夏までに、かなりの量の船材を補充する必要に駆られていた。そんな折も折、藩主の肥前守が、今後はお抱え大工の杉左衛門からしか木材を買ってはいけないと命じてきたのだ。


「しかし、肥前様(フィゼン・サム)は去年もその命令を出していましたよね?」と、ウィッカム。

「そうだったね。あの時はどう解決したのだっけ」

「肥前様ご自身がすぐに大阪へ呼ばれちまったのですよ」と、イートン。

「ああ、そうだった。それっきり何となくうやむやになっちまったんだった」

豊後様(ボンゴ・サム)も行っちまって、残ったのが主殿様(トノモン・サム)だけでしたからねえ」と、ネルソンが溜息をつく。「あの若い王子様は狩猟と珍しい動物にしか興味がないんですよ」

「今年はもうその王は大阪に呼ばれていないのかい?」と、コッピンデールが訊ねる。

「いや、呼ばれているよ。今年は大坂じゃないが、いずれにしてももうじき宮廷へ向かうはずだ」

「それなら時間が解決するんじゃないか?」



 前年には五月から大阪夏の陣があって日本中が大層混乱していたことはイギリス人たちの念頭にはあまりなかったため、木材問題の解決は時の御手に委ねられた。


 次いでウィッカムが恒例のように主張する自分の年俸の増額問題が、これも恒例のように却下された後で、コックスがふと思い出したように言った。

「そういえば、できれば早く決めてしまいたいのだが」

「なんだいキャプテン・コックス」

「ミスター・セーリスの代わりに対馬に誰か送りたいんだ。あの島は中国と近いから、情報収集の意味で重要なんだよ」

 コックスがワインを舐めながらちらりとネルソンを見た。コッピンデールはオスターウウィックを見る。

 ああ成程とイートンは思った。キャプテン格の商人二人の意見が割れているのだ。


 能力なら当然オスターウィックだ。しかし、ネルソンも日本で三年間昼寝をしていた訳ではない。多少の人脈はある筈だ。意見を求められたらどちらを押すべきだろうか?

 そこまで考えたところでイートンははっとした。


 対馬は五島に近い。


 大坂からよりも遥かに近いのだ。


「――キャプテン・コックス」


 考える前に声が出ていた。

 一同の目が一斉に集まる。ネルソンが嬉しそうな顔をしていた。たぶん自分を推薦すると思っているのだろう。コックスが笑って促す。

「なんだいミスター・イートン」

「私を対馬へやってくれませんか?」

「君を?」

 コックスが呆れた声を出した。「そうしたら大阪をどうするんだ」

「ミスター・ウィッカムにお任せすれば」

「江戸と兼任で?」

「江戸に常駐の商人が必要ですかね?」

「しかし、大阪と江戸に一人ずつというのが三年前の会議で決まっているのだから――」

 コックスは困惑しているようだった。イートンは小さな嘘をつくことにした。

「実は、私は今大阪で少しばかり身の危険を感じているんですよ」

「身の危険? どういうことだい」

「旦那もご存知の通り、私はもともと秀頼様の陣営と近しい付き合いをしていましたが、イギリス人ですからね、大御所様の陣営にも火薬を売っていたのです。そのことで、敗戦後はあちこちから怨みを買っているようで」

「――ミスター・イートン、そういうことはもっと早くに打明けるんだ」コックスが鋭く叱った。「そういう事情なら勿論認めよう。君は対馬だ。次の四半期決算日(クォーター)までに精算を済ませて戻ってきなさい。ミスター・ウィッカム、大阪を頼めるかな?」

「喜んでお引き受けしますよ」

 ウィッカムはあっさりと頷いた。


 イートンはチェスの一手を巧みに進めたような爽快感を味わいながら甘い酒の最後の滴を干した。


 冷たい真鍮のグラスを唇から放してふと右手を見やると、ネルソンが水を掛けられた犬のような表情を浮かべていた。


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