小学校時代
小学校5年のとき、知世は美優と一緒のクラスになった。
活発な知世とおとなしい美優とでは住む世界が違うような気がしたが、ある事件で知世は美優に一目置くようになった。
学校に着いたら、知世の上靴がない。泣きながら探していると、あとから来た美優が一緒に探してくれた。ただ、靴箱を間違えて入れていたそれだけのことだったが、美優への感謝の気持ちは揺らぐことはなかった。
おとなしい美優は人づきあいが苦手なようで、いつも昼休みになるとふらっと図書館に行って、本を読んでいるようだった。
知世はそんな自分がある美優のことがまぶしかった。女子も高学年になるとグループができて、自分が居心地がいいように、グループの人間と行動するものだが、美優はどこのグループに所属するわけでなく、グループに所属しない一匹狼として、ちょっとした中傷のネタにはなっていたが、それに動ずることもなく、小学校を卒業した。
美優の近くには美優を心配する双子の兄、ちょっとお調子者の優弥の存在があったが、そのころは知世の気にも止まらなかった。
知世は美優が学校を風邪で休んだときに、たまたまプリントをご近所さんということで持って行くことになって、それから、美優の母親がおとなしく家に閉じこもりがちな美優を心配して、遊びに来てくれと言われるようになった。密かに信頼を置いている美優を思う知世にとっては、願ったりかなったりだった。
おとなしい美優と何をして遊べばいいかもわからなかったが、ピアノの音につられて、美優の家に行くと、美優がギロックの「雨の日のふんすい」を弾いていた。
手の動きが小学1年で練習嫌いでやめた自分とはかけ離れているので、美優に敬愛の念を抱いた自分がいた。
それからは、美優が本を読んで過ごしたいときも、ピアノを弾いてくれ、聞かせてくれとお願いして、美優は快く知世の願いをかなえてくれた。
ほとんど優弥はクラスの男子と遊んでいたので、会うことはなかった。




