第十一話:突撃
「…やっぱりダメだったか」
電話に出て、言葉を待つ。
『ごめんなさい…無理だった』
「そうだろうと思ったよ。後は任せろ。
凝り固まったその意識に、メスを入れる」
電話をこっちから切って、制服に着替える。時間を確認し、俺の信用できる知り合いに連絡。
そして、手帳に書かれた内容の確認、考えを整理して、徹底的に、相手の悪かったところと、こちらの正当性の主張、手順をしっかりと復習し、学校から七瀬の家までの距離を走って来たと思わせるために”わざと”汗を掻く。
よし、時間だ。
匂いを抑えるスプレーを手に持ち、インターホンを押す。
ぴーん。ポーン。
不快にならないように、1回だけ、ゆっくりと。
後は、俺の演技力に掛かっている。
『……はい』
「はぁ…、はぁ…、花芽…、世一です。
ふぅ…、七瀬の友人です」
『今は学校に居る筈だろう。
何しに来た?』
「七瀬が学校をお休みするなど、異常です。
何かあったと思うのが普通です。
しかも電話が掛かってきました。
これは明らかに危険信号です。
中に入れてください。
場合によっては、けいさーー」
『……入りたまえ』
よし。ここまではいい感じだ。
「お邪魔します」
この家には初めて入るが、大凡予想通りだ。使われていないであろう放置された家具達に、生活感のない綺麗なキッチン。
殺風景なただの家。
七瀬の父の死角で、スマホの録音を開始する。
「七瀬はどこですか?」
「部屋にいる。風邪なんだから当たり前だろう」
「分かりやすい嘘ですね。
人が嘘を付くとき、様々な癖がありますが…、あなたのは仕事にも支障を来すレベルだと思いますよ?
風邪なんだから、と言った時右眉が動きました。
それに私は見崎七瀬から、電話が掛かってきてるんですよ?
風邪じゃないことは理解してます。
愚策ですね」
「なんなんだ!!君は!
何が言いたい!!」
怒るのはよくない。図星を突かれていると言っているようなものだ。
「怒鳴るんですね?
何か、やましいことがあると…。
仮にもまだ子供の相手に、図星を突かれて怒鳴る…、これは脅迫や、名誉毀損と、訴えられても文句を言われかねない、愚かな行為です。
冷静になったほうがいいです。
客観的に見て貴方が悪いのは明白です」
言い合いになるのはこれで最後にしたい。
指摘する必要が出てくる。
もっと冷静に話し合いに。
これ以上醜態を晒されれば、やり難くなる。相手のレベルに合わせて、七瀬を確実に自由にさせたい。
「…君は、何がしたいんだ?」
「七瀬が何を望み、何をしたがっているのかは、分かっているつもりです。
そして、現在の七瀬の状況を、私は完全に理解しているつもりです」
「……」
「いいですか?
貴方方がしている行為、七瀬を放置する行為というのは育児放棄と言われても仕方ありません。
確かにそれで何とかなってたかもしれません。
ですがお世辞にも七瀬は社交性がいいとは言えません。
確実に放置が原因です」
焦るな。焦ったら、間違えたら話し合いじゃなくて言い合いになる。
「ネットで子供、家、放置で調べてみてください。
こんな感じで出てきます。
保護責任者遺棄(刑法218条)は、高齢者、幼年者、身体障害者、病者など保護を要する者を保護する責任がある者が、相手を遺棄(置き去り等)したり、生存に必要な保護をしなかったりする「犯罪」だと。
へぇ。って思いました。
それでとある知り合いに連絡を取りました、ホントにそんなことをしている者がいた場合、一応、裁判に掛けることが可能だそうです」
「そんな話を鵜呑みにすると思うのか!」
この言葉に怒ってはならない。
…冷静に…、考えるんだ…。
「貴方達はそこまでのことをしてきたんです。七瀬がいまどうやって生活してるか分かりますか?
知りませんよね。
私は一人暮らしをしています。
男子の家に一人で居続けてるんです。
健全じゃありません。
貴方達は半居候の状況を生み出してしまったんです。
しかもそれを“気にして”すらいない。
今は整合性云々よりも、もっと確認すべきーー」
「もういい!……………もういい…。
分かっている…。仕事が忙しい、というのは君からすればただの言い訳だし、私も…、そう思う…。分かっているんだよ…」
ちょっと危なかったな…。




