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【完結】聞かなかったのは、どちらだったのか  作者: くぎのりクロボ


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第二十一話 もう一度熱は宿るだろうかーーエミリア視点ーー

アレクとエミリアの関係は、やきもちを焼くことさえ許されなかった。


だから諦めたのだ。


自分の感情を、察してもらうことを。


表へ出し損ねた恋心は、心の奥底へ沈殿し、冷えて固まってしまった。


領地復興のために、大貴族の令嬢をエスコートしている彼を疑うのは、きっと間違っている。


そう思う。


それなのに。


エミリアの耳へ入ってくる二人の噂は、あまりにも仲睦まじかった。


お互いの事情さえ許せば、婚約していたかもしれない――そんな風にまで言われている。


その真偽を両親へ尋ねたところで、即座に否定されるだろう。


だけど、とエミリアは思う。


イヴリンの婚約者は、三月末に帰国しているらしい。


それなのに、なぜ今もアレクがエスコートを続けているのか。


最初は、婚約者の帰国自体が嘘なのかとも思った。


だけど、イヴリンの婚約者は、その優秀さでかなり名の知られた人物らしい。


所属する海外技術研修団も、エリート集団として注目を集めている。


そのため、彼らの帰国は大々的に報じられており、少し調べただけで事実だと分かった。


約四年前の学術発表会で見た、二人の仲睦まじそうな姿が脳裏をよぎる。


あの頃から交流を重ねていたのなら、今ではきっと、気心の知れた間柄なのだろう。


だけど、イヴリンと結ばれるということは、ターナー家を継ぐということだ。


もし二人が本当に惹かれ合っていたとしても、アレクはホイヤット家の跡取りで、それは許されない。


だから。


近いうちに訪れる別れを、一日でも先延ばしにしようとしているのだろうか。


「エミリア、大丈夫?」


シャノンが、心配そうにこちらを見つめていた。


「大丈夫よ、きっと」


エミリアは微笑んで答える。


自分を心配してくれる人がいる。


そして、その人へ向ける笑顔には、取り繕いなど必要ない。


シャノンとのかけがえのない友情が、エミリアの心を支えてくれていた。


かつて、自分の心を癒してくれた人を、今は信じきれない。


その事実が、清廉でありたいと願うエミリア自身の理想を裏切っていた。


だけど。


そんな自分も、受け入れなければならない。


アレクがようやく、自分の変化へ気づいた今なら。


凍りついた心も、少しだけ溶けるかもしれない。


それはきっと、先へ進むために必要なことなのだ。



◇◇◇


次の日、アレクから手紙が届いた。


『リアムから指摘を受けて、婚約してからの自分の言動が、配慮に欠け、誤解を与えていたかもしれないと気づいた。


自分の不甲斐なさに恥じ入るばかりだが、近いうちに会って話がしたい。


その時は、エミリアの話を聞かせてほしい。今、何を思っているのかを。


それがどんな感情であれ、受け止めると約束する。


今まで、不安にさせていたと思う。


会った時に改めて謝罪させてほしいが、まずは文面にて。


本当にすまなかった。』


そういう内容だった。


やはり昨日、何かしら感じ取ってくれたらしい。


こういう時に限って、エミリアの方に予定が入っている。


平日は授業があり、放課後も寮の門限が早く、ゆっくり会うことはできない。


次の休みは、馬術部の新入部員歓迎会として遠乗りへ出かける予定だ。


さらにその次の休日には、ガーデンランチへの参加が控えている。


毎年五月末の週末、ワイマール伯爵家で開催されるガーデンランチには、これまで何度か母と一緒に参加したことがあった。


今回は、公式デビューの予行演習として、初めて一人で参加する。


知っている人も多く、比較的アットホームな雰囲気の催しだ。


だから、気負いも少ないだろうと両親が勧めてくれたのだ。


それに、終了時間も比較的早い。


社交シーズンが終われば、アレクはホイヤット領へ戻らなければならないことを考えると、この日に会うのが一番よさそうだった。


エミリアは返事の手紙に、五月末の休日はガーデンランチへ参加すること、その後なら時間を取れることを書いた。


すると、すぐに「それで大丈夫だ」と返事が来た。


そうして、会の終了後にリンバー家で会うことが決まった。


詳しい時間まで決まると、エミリアは自分が浮き立っていることに気づいた。


まだ、何かを話し合ったわけではない。


だけどアレクは、エミリアの変化を感じ取り、きちんと向き合って話をしようとしてくれた。


聞けば、イヴリンとの関係についても、きっと誠実に答えてくれるだろう。


それを聞いた時。


凍らせてしまったこの想いに、もう一度熱は宿るだろうか。


その熱を、アレクは受け止めてくれるだろうか。


そうなればいい。


エミリアは、自分の胸が期待で膨らむのを止められなかった。


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