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南洲一族の縄墨  作者: 西季幽司
「縄墨」の章
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不発弾③

 祓川は席にいた。「祓川さん!お久しぶりです」と満面の笑顔で挨拶すると、「何をしにきた?」とつれない返事だった。

「はい。こちらの捜査状況をお伝えして、南洲則天さんの転落事故について、進展があったかどうか尋ねて来いと指示されて来ました」

「南洲則天の転落事故については、則天、守弘、石川と関係者が全員、死亡している。状況から見て、則天が守弘を殺害する為に別荘に誘ったようだが、犯行に及ぶ寸前、守弘に悟られ、逆にベランダから突き落とされたと見て間違いないだろう。だが、証拠はない」

「そうですよね~」宮川が祓川に会う為の口実に過ぎない。事故に進展がないことは分かっていた。

「まあ、そこに座れ」と宮川を隣の開いた席に座らせると、「そちらの捜査状況を聞こうか」と祓川が言う。宮川は、斎藤、篠村、渡会夫婦から聴取した内容を残らず話した。

 祓川は最後まで黙って宮川の報告を聞いていた。

 そして、「分かった。うん。上出来だ」と満足そうに頷いた。短い間だったが、祓川は若い宮川を一人前の刑事に育てようと、教育していたのかもしれない。

「祓川さん。ひとつ良いですか?」

「何だ?」

「祓川さんは、最初から石川健文のことを疑っていましたよね? 何故です? 石川が、南洲守弘さんが社長室で絞殺されたことを知っていたからですか? でも、それは遺体の第一発見者だった篠村と知り合いだったことが分かった時点で、石川を疑う理由にはならなかったと思います」

 それに答えて祓川が言う。「確かに、警察が公表していないのに、石川は南洲守弘が社長室で絞殺されたことを知っていた。犯人でなければ知り得ないことだ。怪しいと思った。その後、遺体の第一発見者の篠村と知り合いだということが分かり、その疑いは晴れたように思った。だがな、もうひとつ、変だと思ったことがあった。あいつが言ったことではなく、動作だ。

 南洲守弘が絞め殺されたと言った時、一瞬だがやつは妙な動作をした。あいつ、両手でロープを引っ張る動作をしたのだ。普通、人を絞め殺す動作を演じて見せる際、お前ならどうする?」

 祓川の質問に、「そうですねえ~」と考えた後、宮川は両手のひらを上に向け拳を握って、左右に広げる動作をしてみせた。

「そうだ。普通はそうだ。今、お前がやった動作でなければ、両手のひらを下に向けて、左右に広げる動作になるだろう。

 まあ、両手を交差させる奴もいるかもしれないが、大体、そんな動作だ。だが、石川は違った。あいつ、綱引きのように左右の手のひらを上と下に向けて拳をつくり、引っ張る動作をしたのだ。

 そんな動作をするやつがいるか――⁉ 変だ。やつは南洲守弘がどうやって殺害されたのか、正確に知っていた。だから、無意識にそれが出てしまったのだ。だからこそ、石川の仕業だと確信することが出来た」

 一瞬の動作だった。宮川は一緒にいたが、石川の動作に気がついていなかった。事情聴取の間、祓川は石川の一挙手一投足を観察していたのだ。

「ロープの長さを覚えているか?」

「はい。長いロープでしたね」

「そうだ!」と祓川が大声を上げたので、宮川はびくりと体を震わせた。「やつの動作を見ていたので、あのロープを見た時、南洲氏がどうやって殺害されたのか分かった。やつらは南洲氏の首にロープを巻くと、運動会の綱引きの要領で左右から引っ張って殺害したのだ。中国にはそういう処刑法があると聞く。中国かぶれのあいつらだ。その処刑法を知っていたのだろう。だから、うっかり、あんな動作をしてしまったのだ」

「ははあ~」と感心するしかない。

「ああ、それに石川和正について調べてみた。南洲家は石川和正の次男、康勝の子孫だと言っていたが、康勝は大坂夏の陣で死亡している。そのことは石川健文も言っていたが、康勝に子供がいたという記録はない。石川家は信州の安曇に領地を持っていて、徳川幕府に改易されてから、康勝は長兄の康長と共に豊後の佐伯にいた。仮に子供がいたとしたら、信州が豊後にいたはずだ。康勝の子が奥多摩に流れて来て、定住したとは思えない。眉唾だな」

「石川和正の子孫ではなかった訳ですか」

 祓川はあらゆることを調べていた。

「石川という姓だったので、勝手に石川和正の子孫を詐称したのだろう。ああ、もうひとつ。鷲尾さんから連絡があった。石川山の調査が終わったそうだ。生憎、インジウムの埋蔵量は期待したほどではなかったそうだ」

「そうなのですか!」

「商業ベースには乗りそうもないという話だった。石川山は宝の山ではなかったと言うことだ。鷲尾教授も不思議がっていた。石川が持ち込んだ鉱石は間違いなく本物だった。何故、あの鉱石にだけ、あれだけ多量のインジウムが含まれていたのだろう?――とな」

「オカルティックな考えかもしれませんが、石川は隆也さんを自らの手で殺してしまった。隆也さんは南洲一族の人間です。宝の山の存在を隠していたりして、一族の人間に嘘をついてもいました。幾重にも『南洲家の縄墨』を犯していたことになります。

 一族の人間でもない石川が、一族の者を騙し、殺害した。石川は南洲家の縄墨にある『不道には死を以て償うべし』という掟に従って、南洲一族の先祖の霊により、不発弾で爆死させられてしまったのかもしれませんね。

 守弘さんもそうです。則天さんを事故に見せかけて殺してしまった。だから、インジウムの鉱石を石川に与えて、守弘さんを殺害させた。南洲一族の先祖の霊が、石川と守弘さんを操って、南洲一族の名誉を、縄墨を守った――そんな気がします」

「くだらん!」と一喝されるかと思ったが、祓川は何も言わなかった。

 祓川は腕組みしたままだった。宮川には祓川が微かに頷いたように見えた。


 数か月後、宮川は風の噂に、祓川が青梅署から異動になったことを聞いた。


                                            了

 犬神家を目指した作品。一族のどろどろとした怨念を描こうとしたが、割と簡単に犯人が分かってしまう為、あれやこれやとテンコ盛りにし過ぎた。返って特徴の無い作品になってしまったようだ。

 書いている時は思わなかったが、どうやら、狭い村社会で育った人間が、村社会の特権を手に入れようと犯罪に手を染める――という設定が個人的にお好みのようだ。

 武田鉄矢さんが主演した映画で「刑事物語」という作品がある。主人公の片山元はハンガーをヌンチャクのように使い、事件を解決する度に異動させられ、日本全国の警察署をたらい回しになっている。

 実際には、地方公務員である警察官が都道府県の枠を超えて異動することはないらしい。そこで、本作の主人公、祓川は優秀な刑事だが、性格に難があって、事件を解決する度に異動させられ、所轄をたらい回しになっているという設定にした。

 祓川を主人公とした作品は三部作となっており、他に二作ある。

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