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南洲一族の縄墨  作者: 西季幽司
「縄墨」の章
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不発弾②

 二人は一旦、青梅署に戻り、日が暮れてから、青梅署の刑事の車で石川村の途中まで送ってもらった。青梅街道から川沿いの道に入り、石川村へ向かう分かれ道で車を降りた。そこからは徒歩だ。二、三キロ、あるだろう。

「ダメだ。灯りは点けるな」と祓川が言うので、月明かりを頼りに田舎道をとぼとぼと歩いた。暗くて足元がよく見えない。宮川は一度、足を踏み外して田圃の中にひっくり返った。幸い、刈り入れの終わった田圃だ。肘を擦りむいただけだった。

 二人が向かっているのは、石川の実家だった。

「動くとしたら今晩だ。やつの尻尾を捕まえるぞ!」

 祓川は石川が実家に隠した南洲隆也の遺体を、今晩中に移動させると見ていた。その決定的瞬間を押さえるつもりだった。

 その為には見張られていることを悟られてはならない。実家の近くに見慣れる車が停まっていれば、疑うに決まっている。だからこうして、灯りも持たずに夜道を歩いているのだ。

 暗闇の中、祓川はすたすたと歩いて行く。(この人はフクロウか――⁉)と思わずにはいられなかった。

 石川の実家は石川村の外れといえる場所にある。村で最も奥まった場所だ。山際が押し寄せて来ている為、僅かに開けた門前に猫の額程度の畑があるだけだ。三方を山に囲まれた不毛の地といえた。石川家の村での地位の低さを表しているようだ。

 灯りも無しに闇夜を歩くのだ。どうしても歩みが遅くなる。一時間近く歩き続けたはずだ。薄く汗をかき始めた頃、「見えたぞ」と祓川が言った。だが、宮川には暗闇しか見えなかった。

「あそこだ」と指差すのだが、祓川が何処を指差してさしているのか分からなかった。

「灯りがついているようだ」と言うので、やっと石川家の場所が分かった。周囲に板塀が張り巡らされている。板塀の隙間から微かに灯りが漏れていた。

 誰かいる。祓川の感が的中した。石川が実家に戻って来ている。

 二人は足音を忍ばせながら石川家に近づいた。

 庭木の枝に懐中電灯を吊るして、石川はスコップで地面を掘っていた。身だしなみの良い石川がシャツ一枚になって、大粒の汗を浮かべながらスコップを振るっていた。足元には既に黒々とした穴が広がっていた。結構な時間、ここで作業をしていたことを物語っていた。

 祓川と宮川が近づいて来ていることに、まるで気がついていなかった。

 どうやら南洲隆也の遺体は庭に埋められているようだ。遺体を掘り起し、今晩中にどこか別の場所に移動させようとしているのだ。

 決定的な瞬間といえた。

 自分の実家なら、誰かが勝手に掘り起こすことなどない。誰も住んでいなくても、勝手に売り払ったりできない。遺体を埋めるのに最適な場所だった。だが、家宅捜索が行われると、庭に埋めた遺体を見つけられてしまうかもしれない。

 遺体を移動させるなら、今晩中だ。

 石川は焦っていた。遺体を埋めた場所をはっきりと覚えていない様子だった。カンとスコップが鳴った。何か固いものに当たった。土に埋もれていてよく分からないが、金属のようだ。

 何だろうと思ったのか、石川はスコップの先で、カンカンと二、三度、強く叩いた。

 と、次の瞬間、「どおおおおお―――ん!」と物凄い音がした。地面が震えた。目もくらむ閃光が、辺りを昼間のように照らした。

 石川の姿はあっという間に閃光に飲み込まれた。

 土砂を巻き上げながら、猛烈な風が吹きつけて来た。石川家に忍び寄っていた祓川と宮川は、強力な力で引っ張られるかのように、後ろ向きに吹っ飛んだ。そして、稲刈りの終わった田圃にゴロゴロと転がった。

(何だ――⁉ 何だ――⁉ 何がおきたんだ――⁉)宮川は意識を失った。


 まる一日、入院させられた。

 石川健文は実家の庭に埋めてあった南洲隆也の遺体を掘り起こそうとして、不発弾を掘り起こしてしまったようだった。

 運悪く、石川の振るったスコップが不発弾に命中した。不発弾は爆発し、石川は粉微塵になって吹き飛んだ。爆死だ。肉片となった石川の遺体に混じって、爆心地の地中から、別人のものと思われる遺体の一部が発見された。

 地中に埋まっていたことにより、遺体の一部は爆発の影響を免れていた。

 検死の結果、遺体のDNAが南洲隆也のものと一致した。遺体の損傷が激しかった為、死因の特定は困難であったが、庭に埋められていた以上、他殺と考えられた。

 石川健文に殺害されたのだ。

 石川家の近くまで忍び寄っていた祓川と宮川の二人は爆風に巻き込まれたが、擦り傷と打撲を負っただけだった。

 それでも、大事を取って一日、入院させられた。

 退院後は、斎藤、篠村、渡会夫婦の取り調べを抱える武蔵野署は人出が足りなくなり、宮川は祓川の相棒の任を解かれた。

 今は武蔵野署で斎藤の取り調べの書記を勤めている。

 石川健文が不発弾で爆死し、しかも、実家の庭から南洲隆也の遺体の一部が見つかったことは、篠村や渡会夫婦にとって、かなりショッキングな出来事だったようだ。

「隆也さんは生きていて、何処かに身を隠しているのだと思っていました。実際、健文さんがそんなことを言っていましたし・・・」と言って、篠村は顔をしかめた。

 どうだろう。篠村は南洲隆也が死んでいたことが分かっていたのではないだろうか。

「石川山にレアメタルが眠っているなんて、健文さんは一言も言わなかった」

 渡会和美はそのことの方がショックだったようで、「騙された。あの人に騙されていた。私たちは、あの人に利用されていただけなのです。何も知らなかったのです」と無罪を出張した。

 和美はともかく、夫の益男が南洲守弘の殺害に手を貸したことは間違いないようだ。篠村も渡会夫婦も、石川からかなりの金銭を受け取る約束になっていた。石川はサラリーマンを辞めたばかりだった。その金の出元がどこなのか、考えなかったのだろうか。

 一週間後、鈴木から「青梅署に行って祓川さんに会ってこい。こちらの捜査状況を伝えて、南洲聡美さんの転落事故について、何か進展がないか尋ねて来い」と言われた。

 祓川とは退院以来、顔を会わせていない。世話になった祓川に、きちんと礼を伝えてこいということだろう。

 宮川は青梅署に向かった。

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