不発弾①
篠村孝太郎は全てを自供した。
「南洲一族の縄墨に従い、不道には死を以て償わせなければならない。南洲守弘、いや、古城守弘を我々の手で葬るのだ――と言い張ったのは隆也さんでした。ですが、全てを計画し、裏で糸を引いていたのは健文さんだったと思います。
隆也さんは南洲一族の縄墨を盾に、一族の結束を訴え、守弘さんの殺害を強要しました。私は・・・私は嫌だったのです。だって、守弘さんは私の義理の弟です。家内が悲しむ顔は見たくなかった。ですが、この誘いを断れば、私が一族の裏切り者となってしまいます。
正直、隆也さんを恨みました。守弘さんが則天さんを事故に見せかけて殺したなど、信じられませんでした。守弘さんは、とてもそんなことが出来るような人ではなかったからです。ですが、ですが・・・私には選択の余地などありませんでした」
取調室で篠村はがっくりと首を折ると、そう言って崩れ落ちた。篠村の自供が始まった。
「健文さんは『守弘さんに関する情報を全て教えて欲しい。彼に関して知っていることは、漏らさず教えてください。大丈夫。心配には及びません。私が絶対にバレない計画を練り上げてみせます』と自信満々に言いました。
そこで、守弘さんに関して、私が知っている全てを教えました。ええ、斎藤淳史のこともです。彼が会社を辞めてからも、私だけは連絡を取り合っていることを伝えました。私が彼と守弘さんを繋ぐ最後に残されたパイプだったのです。
健文さんが会いたいと言うので、斎藤と連絡を取りました。二人は会って話をしたはずです。はい。私は同席していません」
やはり、篠村が石川と斎藤の橋渡しを勤めたのだ。斎藤から話を聞き、防犯システムに仕掛けられたバックドアのことを知った石川は守弘殺害計画を練り上げた。
石川は斎藤に報酬を支払うことを約束し、隠れ家を提供することも約束したようだ。隠れ家の手配は篠村に頼み、篠村の妻の浅子に知られることになる。
「決行の日は則天さんの四十九日に決まりました。もともと家内はあまり法事に出たがっていませんでした。それでも義理の妹です。四十九日となれば、出席すると言い出しかねません。家内がいるとまずい。何と言って法事に出させないか、悩みました。
守弘さんを殺害するのは、全てが終わった後、土曜日の夜だと決まっていましたので、最悪、家内だけでも先に帰らせようと思っていました。前日になって、娘が熱を出してくれたので、家内は法事に出ないことになりました。助かりました」
篠村にとっては、守弘殺害より頭の痛い出来事だったようだ。
そして、事件当夜、法事を終え、参列者が帰宅の途につき、一族の人間は、リビングに集まった。リビングにいたのは、石川健文、南洲隆也、篠村孝太郎、渡会益男、渡会和美の五人だった。
「ああ~疲れたと守弘さんがソファーに腰を掛け、和美さんがコーヒーでも煎れましょうと立ち上がりました。隆也さんは、『わしはビールの方が良い』と声をかけ、和美さんがリビングを出て行きました。そして、守弘さんが油断した隙をついて、背後に回った健文さんと隆也さんの二人が守弘さんに襲い掛かりました。二人は守弘さんの首にロープを二重、三重に巻き付けると、左右に分かれて、思いっきりロープを引っ張りました。驚いたのは益男さんの行動でした。彼は一族の人間でもないのに、この殺人計画に乗り気だったようで、暴れる守弘さんの体を押さえ付けていました。
血は繋がっていないとは言え、守弘さんは私の義理の弟です。守弘さんを殺すのに手を貸すことなんてできませんでした。私は部屋の隅で震えながら、一部始終を見守っていただけです。
健文さんと隆也さんが左右からロープを引っ張ります。益男さんが守弘さんの体を押さえ付けます。随分、長く感じましたが、数分のことだったと思います。電池の切れたロボットの玩具のように、守弘さんは急にぱったりと動かなくなりました。
全てが終わってから、守弘さんの死体を健文さんの車のトランクに運びました。大丈夫。全ては明日だ。明日、全て片付く――健文さんはそう言いました。
私が知っているのは、それだけです。後は月曜日の朝、普段通り出社し、社長室で冷たくなった守弘さんの死体を発見するのが私の役目でした。正直、もう二度と、守弘さんの死体は見たくありませんでした。月曜日の朝が来るのが嫌で、嫌で、日曜日はため息ばかりついていました」
篠村の供述の後、渡会益男、和美夫妻からの取り調べが始まっていた。
益男は「守弘さんの体を押さえ付けたのは、篠村さんです。僕は一族の人間ではありませんから。部屋の隅で震えていました」と篠村の証言を否定している。
首を絞めたのは石川と隆也だと、殺害の状況は概ね篠村の供述通りだった。
篠村も渡会夫婦も、南洲一族の縄墨――を殺害の動機だと答えているが、時代錯誤な掟が殺人の動機であったとは考えにくい。
犯行が成功し、石川健文が無事、南洲家の当主となった暁には、それ相応の報酬を支払うことを約束していた形跡があった。
――その為には、隆也さんに生きていてもらっては困る。
と石川が考えていたであろうことは間違いない。
則天亡き後、南洲隆也は南洲家第九代目当主になることに前向きだった。
「わし以外、他に誰がいる⁉」と隆也は法事の席で言い放った。それを石川は苦笑いを浮かべながら聞いていた。
隆也を縁側に呼び出し、篠村は「若い健文さんに当主の座を継いでもらってはどうでしょうか?」と説得を試みた。すると、隆也は「健文?あいつはダメだ」と答えた。
「何故です? 健文さんだと若すぎるからですか? でも、則天さんだって若かった。それに、健文さんなら南洲本家と元石川の両方の血を引いています。南洲家当主として相応しいのではありませんか?」
篠村が言うと、隆也は吐き捨てるように言った。「南洲本家と元石川の両方の血を引いている――⁉ お前は何も知らんのだ! あいつの体には、南洲家の血なんぞ一滴も流れておらん‼」
「えっ! どういう意味です? 健文さんは一族の人間ではないと言うことですか?」
「そうだ。あいつは不義の子じゃ!」
石川健文の母親、亜理紗が浮気をして出来た子が健文だと言うのだ。健文の父、博文は都内に働きに出て、社内結婚をした。亜理紗は一族の人間ではない。その亜理紗が何処の誰とも分からない男の子供を妊娠し、生まれたのが健文だと隆也は言うのだ。
「そ、そんな!」篠村は驚いた。
「ふん。この事実を知っておるのも、もう、わしだけになってしまった。丁度、良い機会だから、お前に話しておく。とにかく、わしの眼が黒い内は、健文なんぞを南洲家の当主になんか、させるか!」隆也が息巻いた。
「健文さんは、そのことを知っているのでしょうか?」
「あいつが知っているかどうかまでは知らん!」隆也は吐き捨てた。
結局、篠村は石川に出生の秘密を確認することができなかった。だが、石川は知っていたのではないかと篠村は言う。だから、南洲家の当主になる為に、ことを急いでいたように思う――篠村はそう言った。
石川山が宝の山であったことも知らなかった。「えっ! あの山が宝の山⁉ インジウム? レアメタルの一種なのですか? へえ~そりゃあ、凄い。あの山は則天さんが所有する山でしたから、当然、法的には夫であった守弘君のものと言うことになりますよね? 守弘君が亡くなった今、たった一人の肉親である浅子のものになったと言うことですよね? 刑事さん、違いますか?」
篠村は興奮した。石川は石川山にレアメタルが眠っていることを、一族の人間には教えていなかった。南洲家の当主となって、鉱山を独占するつもりだったのだ。だから、気前よく、一族の人間に守弘殺害の報酬を支払うことを約束していたのだ。




