最後の対決③
祓川は話を続けた。「隆也さんが自ら復讐することにこだわったのですか? 一族の長老になるには、リーダーシップが必要ですからね。それとも、あなたかな? 自らの手で裁きを下すことに拘ったのは・・・ああ、そうか。守弘さんだって馬鹿じゃない。彼は則天さんが自分を殺そうとしたので、逆に彼女を殺してしまっていた。則天さんの信奉者である遠藤と会うなど、危険極まりないですからね。十分、注意していたでしょう。遠藤と会うはずがない。だから、遠藤を暗殺者として使うことが出来なかった。
遠藤とは音信不通でしたから、計画が練りあがってから、遠藤が逃げ込んで来たので、犯人として仕立て上げた――それだけなのでしょうかね?」
「そんなこと、私に聞かれても――」
「日曜日の夜、やってきた遠藤を会社に入れたのは、斎藤でした。当然、事前に篠村さんから頼まれていたからです。遠藤の連絡先を知っていたのは、あなたです。あなたが遠藤に連絡した。守弘さんが、則天さんの事故の件で会いたがっていると。日曜日の夜、九時に会社で待っていると。言われた通り、会社にやって来た遠藤は守弘さんの遺体を発見した。そして、このままでは自分が守弘さんを殺害したと疑われてしまうと、そのことに気がつき、慌てて姿を消した。あなたに騙されたとも知らずにね」
「刑事さん。やったのは遠藤ですよ」あきらめの悪い男だ。
「南洲守弘さんの殺害について、ざっと以上のような状況でしょう。ですが、事件はこれで、終わりじゃない!」
突然、祓川が言い出した言葉に、宮川も驚いた様子だった。これ以上、何があるのだろうと思ったのだろう。
石川は渋い顔をして押し黙ったままだ。もはや言い訳すらしない。何かある。
「あなた、南洲隆也さんを殺害しましたね? あの夜、守弘さんの遺体を会社に運び込んだ後、あなた方二人はここに戻って来た。そして、隙を見て隆也さんを殺害した。事件後に誰も隆也さんの姿を見たものがいないのです。彼はここ以外では生きて行けない人間です。何処かに行ったとは思えない。もう殺されている――と考えて、間違いないでしょう。そして、殺したのはあなただ。
あなたにとって、南洲隆也さんは生きていてもらっては困る存在だ。次期南洲家の当主として、相応しいのは彼の方だ。彼が当主になると言い出したら、あなたに正当性はない。南洲隆也さんが次期当主になってしまうと、宝の山、あの石川山はあなたのものにはならない。あなたは是が非でも南洲隆也さんを殺さなければならなかった。
いや、むしろ、この事件は南洲隆也さんを殺害する為に仕組まれたものだったのかもしれません。則天さんの事故死の責任を守弘さんに押し付け、南洲家の縄墨を盾に一族の人間に復讐を迫る。南洲家を背負っているつもりの隆也さんなら、一も二もなく、あなたの計画に乗ってくる。守弘さんを亡き者にした後で、邪魔者の隆也さんを排除する。あなたにとって一石二鳥の計画だった。そして、最後の最後には、守弘さん殺害の罪を全て隆也さんに被ってもらう為のスケープゴートでもありました。隆也さんの殺害は、あなたにとって、一石二鳥どころか一石三鳥の価値があった。
さて、そうなると、隆也さんの遺体はどうしたのでしょうね? 隆也さんの家にはありませんでした。ここ、南洲本家? 違うでしょう。ここは人の出入りが多すぎる。じゃあ、何処? きっと、そう遠くない場所にありますよ。この辺りで人の出入りが少ないところでしょうね。
遠藤康臣の実家? 可能性があります。彼の祖父母は既になく、実家は空き家になっているようですからね? でも、どうでしょう? 康臣や彼の母、利奈が何時、帰ってきて、遺体を発見するか分からない。
他には? ああ、そう、そう。あなたの実家がありました。ご両親は既になく、実家はあなたのものですが、あなたは実家には戻ろうとせずに、ずっとこちらで暮らしている。実家にいたくない訳でもあるようだ」今日の祓川はよくしゃべる。
「馬鹿らしい」石川が声を絞り出した。また、「馬鹿らしい」だ。
祓川の言う通り、石川は南洲隆也を殺害し、遺体を実家に隠しているのだろうか。石川の余裕のない態度を見て、宮川は祓川の推理が正しいような気がした。
「終わりですか?」と石川が尋ねる。
祓川が「ええ」と頷くと、「刑事さん。ひとつ、教えてあげましょう」と石川が笑顔を顔に張り付けながら言った。「康臣はね。聡美、いや、則天のために人を殺したりなんてしませんよ。だって、あいつ、心の奥底では聡美のことを恨んでいたのですから。あいつは聡美の犬なんかじゃない。聡美に玩具にされ、辛い少年時代を過ごしたんだ。恨みこそあれ、忠誠心など欠片もなかったでしょう。聡美が死んだと聞いても、(ああ、そうか)としか思わなかったはずです。遠藤という男は、一族の人間から蛇蝎のごとく嫌われていました。あいつも一族の人間のことを、心底、嫌っていたはずです。そんなあいつですから、南洲家の縄墨など、屁とも思わなかったでしょう。康臣が慕っていたのは、聡美と和美の母親、香澄さんだけだったのですからね」
「それは自白と考えてよろしいでしょうか?」
祓川の言葉に、石川はさも可笑しそうに手を打って笑いながら、「まさか! はは。康臣のことを刑事さんに教えてあげただけです。私は守弘さんを殺していないし、隆也さんも殺していません。全ては刑事さんの憶測に過ぎません。私が犯人だと言うのなら、証拠を持って来てください」と言った。
「そうします。斎藤淳史の身柄は確保しました。彼に防犯システムの細工を頼んだのは、篠村さんだと分かっています。早晩、篠村さんの取り調べが行われるでしょう」
石川がくっと口元を結ぶ。篠村から連絡があったのだろう。斎藤が捕まったことは、既に知っていたようだ。
「明日には、あなたの実家の家宅捜索を行う為の捜査令状が取れるでしょう。そしたら、正式にあなたの実家を捜索させてもらいます。何が出て来るのか楽しみだ。また明日、お会いしましょう」
「もう結構です」二人は南洲家を追い出された。
「もう一歩でしたね」と宮川が残念そうに言うと、祓川が口の端を僅かに上げて言った。「舞台は整った。後は、役者が演じてくれるのを待つだけだ」
どうやら笑ったようだ。携帯で妻子と話しをする時以外、祓川の笑顔など見たことが無った。宮川は背筋に「ぞぞ」と寒気が走るのを感じた。




