最後の対決①
武蔵野署で斎藤の取り調べが行われた。斎藤の取り調べは鈴木が担当した。
「俺は金で雇われて、頼まれたことをやっただけだ」と斎藤は自供を始めていた。
コジョーの社員、伊納が調べ当てた通り、会社の防犯システムにはバックドアが仕掛けられており、外部からハッキングすることができた。
「会社のシステムを外部からハッキングしていたのだな?」
「そんな刑事さん。ハッキングだなんて大袈裟な」と斎藤は手を振りながら答えた。
「違うのか?」
「まあ、その通りだけどね。時々だよ。会社に忍び込んでいた」と斎藤は証言している。「何か、盗もうとか、そんなんじゃない。そんなつもりは無かった。ただ、何と言うか、懐かしかったんだ。それに、逃げ回ることに疲れていた。誰もいない会社にいって、ぼうっと時間を潰すことが、よくあった。後で侵入記録は全部、消去しておいた」と言い、「バックドアを仕掛けた理由は、自宅や出張先からでも、仕事が出来るようにしておきたかったからだ。外部から会社のサーバーにアクセスできるように、自分専用のバックドアを仕掛けておいたのさ。そうやって寝ている時以外、一日中、仕事をしていた。そして、そのことは誰にも言わなかった。古城と喧嘩別れしてから、バックドアを使って会社のサーバーに攻撃を仕掛けることもできたんだ。でも、やらなかった・・・」と言って斎藤は目を伏せた。古城は守弘の旧姓だ。
その理由を「古城は憎かったけど、会社に恨みはない。一緒に働いた仲間たちから仕事を奪うなんてできなかった」と言った。
「事件の話を聞きましょうか?」
「ああ、守弘の死体が会社に運び込まれた日のことだな」
斎藤は防犯システムにハッキングして、防犯カメラの映像などデータを書き換えたことを素直に認めた。
「日曜日の夜の映像を土曜日の夜に持って行ったら、社長室の灯りの問題が発生してしまった。焦ったよ。最初、気づかずに、日曜日の夜の映像を二時間程度、土曜日の夜の映像に上書きしただけだった。作業が終わってから、映像を早送りして確かめると、誰もいないのに、社長室の灯りが消えてしまったんだ。こりゃあ、ダメだと思って、結局、日曜日の朝まで映像を上書きする羽目になってしまった。日曜日の夕方から夜にかけてもそうだ。全く、苦労したね」と斎藤は言う。
伊納が推察した通りの方法で、防犯カメラの映像を書き換えていた。
「でもまあ、俺だから出来たことだ。何故、映像を書き換えたことが分かったんだ?」と斎藤が不思議そうな顔をするので、日曜日の朝、出社した社員がいて、飲み干したコーヒーの紙コップを机の上に置いていったことを話した。
「あちゃ~そんな細かいところまで見なかったな。見逃した」
更に、伊納が防犯データのタイムスタンプを調べてファイルが上書きされていることに気がついたことを教えると、「ほう~伊納君かあ~彼、優秀だからね。彼はね、僕が面接して採用を決めたんだ」と嬉しそうな顔をした。
「さて、斎藤さん。あなた、金で雇われて防犯システムにハッキングをしたとおっしゃいましたね。誰に雇われたのですか?」
鈴木が斬り込むと、「ああ、篠村さん。篠村幸太郎さんだ」と斎藤はあっさり依頼者の名前を漏らした。
「篠村さん? コジョーの企画部の篠村さんが、あなたに自分の会社の防犯システムにハッキングするよう頼んだと言うのですか? それ、変じゃないですか?」
「そう言われても、篠村さんから頼まれたんだから仕方ないだろう!」斎藤が口を尖らせる。「もともとね――」と斎藤は会社を辞めてからも、篠村とだけは連絡を取り合っていたことを明かした。
守弘と喧嘩別れしてしまったが、何時か分かりあえる日が来ると信じていた。二人で、「悪かったな」と仲直りする日の為に、仲介役として、篠村とのパイプだけは確保しておいた――と言う。
「彼は古城の義理の兄ですしね。温厚な人なので、間に立ってもらうにはうってつけの人だと思った。篠村さん、会社を辞めてからも連絡をくれて、色々、心配してくれた。だから、ずっと連絡を取り合っていた。詐欺罪で警察に追われている間も、彼は俺のことを黙っていてくれた。だから、信用していた。その篠村さんから、『報酬を弾むし、当面、隠れ家を提供する。だから手伝ってくれ』と言われたら、断ることなんて出来ないさ」
「だから犯罪の片棒を担いだのか?」
「それは後になって知った。本当だ。日曜日の夜の映像を土曜日の夜の映像に見せかけること。それに日曜日の夜の古城の出入場記録を土曜日夜に移動させること。日曜日の九時過ぎに尋ねてきたやつの記録を土曜日に移動させ、やつが尋ねてきたらドアの鍵を開けてやること。頼まれたのは、それだけだ。だが、日曜日の夜の実際の映像を見て驚いたよ」
「な、何が映っていたんだ?」
「二人の男が、何か変なものを社長室に運び込んでいた。真っ暗だったので、二人の男が誰だったのか、何を運び込んでいたのか分からなかった。だけど、後でニュースを見て気がついた。あれ、守弘の死体を運び込んでいたんだな」
死後、守弘の遺体が社長室に運び込まれた。
斎藤は非常灯しか灯っていない暗闇の中、二人の男が会社に何か大きなものを運び込んでいる様子が、かろうじて確認できたと言う。二人の男は守弘の社員カードを使って、会社の鍵を開けていた。そして、二人で死体を社長室に運び込んだのだ。
社長室に灯りが灯るのは、二人が死体を運び込んでからだ。
その後、二人は会社を出て行き、暫くして遠藤康臣が守弘を訪ねて来た。入口のインターホンで来訪を告げる。防犯システムにハッキングしていた斎藤が鍵を開けてやった。
遠藤は社長室に足を運び、守弘の遺体を発見した。(自分が疑われるに決まっている!)と思った遠藤は逃走し、身を隠した。
ざっとそういう経緯だ。
「その二人、南洲氏の遺体を運び込んだのは、どんなやつだったんだ?」
「どんなやつって~真っ暗だったから、分からないよ。まあ、説明するより、見た方が早い」
「見た方が早い? 遺体を運び込む映像があるのか⁉」
「あるよ」と斎藤は平然と言い放った。「危険な橋を渡らされたんだ。保険がないと、我が身が危ないからな。書き換え前の防犯カメラの映像を保険として残してある」と言う。
「ど、何処にあるんだ?」
「何処にもなにも、会社のサーバーに保管してあるよ」
斎藤はバックドアを使ってコジョーの防犯システムにハッキングしてデータを書き換えた上に、元データをサーバー内に秘密のフォルダを作って保管しておいたと言うのだ。
「俺のパソコンを持って来てくれたら、直ぐに見せてやるよ」とアパートで押収されたパソコンを要求した。
流石に、斎藤にパソコンを操作させると、何をしでかすか分からない。ウイルスでも仕掛けられては一大事だ。サーバー内のデータを破壊され、証拠隠滅を図る可能性や、証拠を書き換えてしまう可能性があった。
サーバー内にあるという秘密のフォルダの場所を聞き出し、サイバー対策犯罪課に任せることになった。
斎藤からの事情聴取を終えた武蔵野署では篠村幸太郎の逮捕状を請求した。「さあて、次は篠村だ!」と鈴木たちは篠村の身柄を確保すべく、勇躍、町田に向かった。




