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南洲一族の縄墨  作者: 西季幽司
「縄墨」の章
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宝の山②

 二人は町田にある篠村家を目指した。

 篠村家は町田市郊外の集合住宅内にあった。祓川は篠村家の所在地まで調べていた。入口の管理棟で警察手帳を見せて来訪目的を告げると、管理人が「篠村家は三棟の6Cですよ」と教えてくれた。

 指定された駐車場に車を停め、三棟へと歩いて行った。

 昼間とあって住宅内を行き交う人間は買い物袋を下げた主婦ばかりだ。昼間から住宅地をうろついている得体の知れない男たちを、住人は奇異な眼差しで見ながらすれ違って行った。

 篠村浅子は篠村幸太郎の妻であると共に、殺害された守弘の姉に当たる。南洲家の関係者で、守弘の死を最も嘆いている人物であろうことは、容易に想像できた。祓川が「一番、弱いところ」と言うのも頷けた。

 篠村幸太郎、浅子夫婦には幸一と美鈴という名の子供がいる。武蔵野署の刑事が事情聴取を行っており、それによれば、長女の美鈴が夏風邪を引いて熱を出してしまったので、看病のため、則天の四十九日の法要を欠席したと言う。事件と無関係であると思われ、その後、浅子からはろくに事情聴取が行われていなかった。

 美鈴の夏風邪は癒えたようで、元気に登校している。孝太郎は仕事だし、二人の子供が学校に行っていない昼間は浅子一人のはずだ。

 突然、刑事を迎えて、明らかに浅子は動揺していた。「家に訪ねて来ても何も話すことはない」というオーラを漂わせながら、二人を迎えた。

 実際、二人を応接間に招き入れると、お茶を出す為に直ぐに席を外し、なかなか戻って来なかった。やっとお茶を煎れて戻って来たかと思うと、「私は事件の日、宗家にはおりませんでした。何も知りません」と硬い表情で宣言すると、後は下を向いて押し黙ってしまった。

 祓川の攻撃が始まる。

「奥さん、弟さんは何故、殺されたのだと思います?」

「さあ、存じません。私は何も知りません」

「弟さんが殺害されているのですよ――⁉ 知らぬ存ぜぬで、それで良いのですか? 南洲則天さんの事故死に弟さんが関与していて、それを恨んだ人間の犯行ではないかという話があることをご存じですか?」

「守弘は人を殺すような人間ではありません。則天さんは事故死です」

「ご両親はご健在なのでしょうか?」

「ええ、千葉に実家があって、そこで元気にしています。一昨日、実家に顔を出して来ました。今度の件では、母がとても気落ちしていて見ていて辛い程でした」

 浅子は母親の様子を思い出したのだろう。「失礼します」と席を立つと、食卓の上に置かれたバッグからハンカチを取り出してそっと目頭を押さえた。

「弟さんは、どういう方だったのですか?」

「あの子は学生時代からコンピューターに詳しくて、所謂、オタクと言うんですか? そういう人達とはちょっと違うように思うのですが、パソコンでゲームを作って遊んだりしていました。大学を卒業すると、仲間と一緒に会社を立ち上げて、私にはよく分かりませんが、大手ゲーム会社の下請けみたいな仕事を始めました」

「会社の経営は厳しい状態にあったようですね。借金もあったようです」

 武蔵野署の捜査によると、コジョーは数千万円の借金を抱えていた。だが、篠村によれば、「今の仕事の納品が終われば、まとまった金が入ります。大丈夫です」と言うことだったが、楽でなかったことは確かだ。

「会社のことは何も知りません」

「則天さんが亡くなれば、弟さんが南洲家の遺産を相続することになる。違いますか? 弟さんは金に困っていた。南洲家は痩せても枯れても歴史ある旧家だ。山林や田畑を売れば、結構な金になるのではありませんか?」

「弟がお金の為に則天さんを殺害したとおっしゃるのですか――⁉ あんな畑や山なんて、二束三文でしか売れません!」浅子が目を吊り上げる。

「ほ、ほう~誰がそう言っていました? それがね。そうでもないんです」

「どういうことです?」浅子が怪訝な顔をする。

「石川山って言うんですか? 南洲家と所縁の深い山。あそこにインジウムという希少な鉱物が埋まっている可能性が高いそうです。レアメタルって聞いたことありますか? そのひとつだそうです。随分、貴重なもののようですよ。採掘が始まれば、あの山の所有者は大金持ちになるでしょうね~そう言えば、石川さん、いや、南洲家当主を相続して南洲玄宗さんになったのでしたね。玄宗さん、他には何も要らないけど、石川山だけは相続したいと言っているみたいですね。弟さんが生きていれば、あの山は弟さんのものでしたのに」平素、無口な祓川が、ここぞとばかりによくしゃべる。

「・・・」浅子の顔から見る見る血の気が引いて行った。明らかに動揺している。

「さて、誰が弟さんを殺したのでしょうか?」

「し、知りません。ただ・・・」言いたいことがあるようだが、躊躇している。

「ただ、何でしょう?」

 浅子は意を決した表情で、「則天さんは浮気をしていました。それも、相手は石川健文さんです」と早口で言った。

「なるほど~なるほど~聡美さん、いえ、則天さんと石川は不倫関係にあったのですか⁉」

「はい」と浅子は短く頷いた。

「それは・・・二人が不倫関係にあったことを示す証拠のようなものがあるのでしょうか?」

「いいえ、そんなものはございません。聡美さんの表情や話し方、それに二人の様子を見ていれば分かります」

 女の感というやつだ。これがなかなか侮れないのであるのだが、刑事の感同様、証拠能力はない。浅子もそのことが分かっているようで、「守弘は二人のことで、悩んでおりました」と付け加えた。

 被害者の証言があったとなると、信憑性が高まる。

「なるほど~なるほど~南洲守弘さんは奥さんの不倫に気がついていて、悩んでいた。そして、相手が石川健文であることを知っていたと言うのですね?」

「いえ、ただ、あの子は聡美さんが不倫をしているんじゃないかと疑っていただけです。そして、そのことで悩んでいたのだと思います。最近、暗い顔でぼんやりしていることが多かったものですから。わたくし、聡美さんの相手は健文さんだったと思っています。親族で集まる時、二人はわざと余所余所しく振る舞っていましたが、視線が、その、相手の姿を常に追っているのです。聡美さんが健文さんを見つめていることが多かったですね」

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