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南洲一族の縄墨  作者: 西季幽司
「縄墨」の章
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保険②

 写真にはスポーツ・カーを運転する石川の顔がはっきりと映っていた。宮川も驚いた。写真がもう一枚、あるなんて知らなかった。そんなこと、祓川は一言も言っていなかった。

 何時も南洲家の玄関前に停めてある車だ。あの車が石川のものだと見当をつけ、守弘の車と一緒にNシステムを当たってみたのだ。

 宮川がいない時でも捜査を続けている。一体、何時、祓川は休んでいるのだろうか。

「ああ、ええ・・・そう、横浜にあるアパートに行きました。法事が終わったので、アパートに戻っただけですけど、それが何か?」

「横浜のアパートは遠藤康臣に隠れ家として貸し与えていましたよね? 日曜日だと、遠藤はあなたのアパートにいたはずです」

「別に、私のアパートですよ。何時戻ろうと、私の勝手です。康臣がいたからって、戻ってはいけないということはないでしょう」

 その通りなのだが、違和感が残る。

「遠藤康臣に話でもあったのですか?」

「別に――」と石川は言葉少なめだ。

「横浜のアパートに行かなったのではありませんか? 吉祥寺に向かったのでは?」

 吉祥寺には守弘の会社がある。

「いいえ」饒舌な石川がしゃべらなくなった。

 言葉尻を捉えられたくないのだ。

「そうそう。遠藤がようやく自供を始めましたよ。南洲守弘氏を殺害したのは、自分ではないと言っています」

「馬鹿な。あいつですよ」

「会社を訪ねたのは土曜日ではなく、日曜日だと言っています。そうそう、日曜日の夜、九時に会社で待っていると遠藤に伝えたのは、あなただそうですね?」

「私――⁉ 刑事さん。善良な市民の僕より、あんな犯罪者の言うことを信じるのですか?」

 石川が善良な市民かどうか、まだ分からない。

「遠藤がそう証言しているのです」

「知りませんよ。私はそんなこと、あいつに言ってなんかいない!」

 白を切り通すつもりのようだ。祓川は話題を変えた。「先日、南洲隆也氏のお宅にお邪魔した時、お留守でしたが、今はご在宅ですかね?」

「さあ~行ってみないと分かりませんね。暫く、会っていませんからね。自宅の場所はご存じですよね? 刑事さん。隆也さんの家に行って、確かめてみたらどうです? どうせ鍵は掛かっていませんから、留守のようなら、中でお待ちになって構いませんよ」

 何処か挑発的だ。

「分かりました。我々で、ご自宅を確認させてもらって構わないということですね」

「ええ、隆也さんも良い年だ。家でひっくり返っていると大変だ。しっかり見て来てください。刑事さんたちなら安心だ」

「今から行って、確かめてみます」祓川が挑発に乗った格好になった。

 結局、二人は追い出されるようにして南洲家を後にした。

 分家の南洲隆也家へ向かう。本家が所有する畑の一角が割譲され、隆也が所有する畑になっている。その畑の真ん中に隆也家がある。

 玄関で呼び鈴を鳴らしたが、反応がなかった。

「鍵は掛かっていない」と言っていたが、確かに玄関に鍵は掛かっていなかった。

 引き戸を開け、「南洲隆也さん。いますか~?」と奥に向かって叫んだが、返事はなかった。留守のようだ。

「お邪魔させてもらおう」祓川は三和土で靴を脱ぐと、座敷に上がり込んだ。

 石川から事前に承諾を得ているつもりなのだ。遠慮がない。

「ち、ちょっと祓川さん」宮川も仕方なく、靴を脱いで後を追った。

「南洲さん、南洲隆也さん、いませんか?」と言いながら、祓川はひとつひとつ部屋を見て回る。体のいい家宅捜索だ。前回、隆也家を訪ねた時は、石川がいたので、屋敷内を見て回ることが出来なかった。

 今回は遠慮なしだ。

「大丈夫ですか?」と言いながら、宮川もついて回った。

 段々、大胆になり、祓川は箪笥の引き出しを開けて、中を確かめ始めた。そんなところに、隆也がいるはずない。完全な家宅捜索だ。ちょっとやり過ぎなのではと宮川は加勢する気になれなかった。

 書斎らしき部屋に入った。畳の部屋だが、立派な机が据えられている。部屋に入った祓川は早速、机の引き出しを開けて調べ始めた。やがて、「うん――⁉」と声を上げた。

「おい、君。鑑識を呼んでくれ」祓川が言う。

 コンビを組まされて数日、経つ。祓川は宮川の名前を覚えていないかもしれない。

「何かありましたか?」

「これを見ろ」

 祓川が開けた引き出しの中に、ロープがどぐろを巻いていた。

「ロープですね」

「南洲守弘殺害の凶器は見つかっていない」

 南洲守弘は紐状の凶器で首を絞められたことにより死亡している。犯人が持ち去ったようで、遺体発見現場であるコジョーの社長室から凶器は見つかっていなかった。

「南洲社長殺害の凶器ですか――⁉」

 何故、南洲守弘殺害の凶器がこんなところにあるのか? 宮川には理解できなかった。守弘殺害の犯人は遠藤ではなく、石川でもなく、南洲隆也だと言うのか――⁉ そう、頭の中を疑問符が飛び回っていた。

「凶器の可能性がある。だから触るな! 鑑識を呼んで調べてもらう必要がある」

「分かりました」と返事をしたものの、宮川は武蔵野署の人間だ。青梅署の鑑識の連絡先など知らなかった。祓川に聞いても、「そんなもの、知るか!」と相手にされなかった。

 祓川は署内で浮いた存在なのだろう。

 仕方なく鈴木と連絡を取った。先ず、鈴木が武蔵野署の鑑識に伝え、武蔵野署の鑑識から青梅署の鑑識に依頼するという面倒な手続きを踏んで、ようよう青梅署の鑑識に伝わった。

 小半時、待たされた。そして、やって来た鑑識がロープを採取するのを見守った。

 結局、このロープから皮膚片が見つかり、被害者のDNAと照合を行ったところ一致した。南洲守弘殺害の凶器であることが特定されたのだ。

 事情を知っているはずの南洲隆也は行方不明だ。逃亡を図った可能性があった。重要参考人として南洲隆也が緊急手配された。

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