防犯システム③
宮川にも分かってきた。「ああ、そうか。土曜日の夜は、本当は真っ暗だった訳ですね。だから、画像を書き換える必要があった」
「そうだ。南洲守弘氏は日曜日の夜に会社で殺害された。そして、その後に遠藤がやってきたのだ!」
「遠藤はやはり無実だったのですね!」
出入場記録にも細工をした跡が見つかった。出入場記録によると、遠藤がコジョーを訪れた日時は土曜日の夜、二十一時十八分だが、「この記録のタイムスタンプは日曜日です。この記録が生成されたのは日曜日だと言うことです」と伊納は言った。
日曜日に遠藤が会社にやってきた記録は、土曜日の夜のものとして書き換えられていたのだ。
「防犯システムの記録は改ざんされていたようだ。犯行は日曜日に行われた。それを土曜日のものとして偽装して、犯人はアリバイを作ったはずだ。宮川、この情報を一刻も早く、祓川さんに伝えてやれ」
宮川は鈴木の言葉を受けて、青梅署に向かった。
防犯システムのからくりについて、祓川に報告を行うと、「違う!」と一喝された。
「えっ!どこが違うのでしょうか?」
祓川の机の横で、また立ったまま報告させられていた。祓川は椅子に座ったまま、険しい表情で宮川の報告を聞いていた。
「南洲守弘は日曜日の夜に会社で殺害されたのではない。それだと、死亡推定時刻と合わなくなってしまう」
南洲守弘の死亡推定時刻は土曜日の夜、八時から十時の間であることが検死の結果、分かっている。
「そうでした。死亡推定時刻のことを、すっかり忘れていました。と言うことはどういうことでしょう?」
「遺体をわざわざ会社に運んだのだ」
「遺体を運んだ?」
「防犯システムの画像データを書き換えて、会社で殺されたと見せかける為だ。遠藤に罪をなすり付けるつもりだったのだろう。で、誰の仕業だ? 防犯システムのデータを書き換えたのは?」
「あ、はい。それについては、伊納君が現在、調査中です。ですが、多分、特定することは難しいだろうと言うことでした。ただ、防犯システムにバックドアを仕掛けておいて、外部からデータを書き換えるなんて、余程、会社のシステムに精通している人間でなければ出来ません。そんなことが出来るのは、システム全体を構築した斎藤淳史という、かつての共同経営者くらいだと言うのが伊納君の見解です」
「なるほど~なるほど~その斎藤という人物が鍵になりそうだな。武蔵野署のやつらは、当然、斎藤の行方を追っているんだろうな?」
「はい。ですが、詐欺罪で手配されながら、二年も逃げ回っているようなやつです。そう簡単に見つからないでしょう」
「ふん。ちゃんと探しているのか? いいか。事件に係わっているとなると、石川がその斎藤と連絡を取ったことになる。石川でさえ見つけられるものが、何故、警察で見つけられない? 守弘の会社に斎藤と繋がりのある人物がいると言うことだ。そして、そいつは石川にも繋がっている。そう考えれば、それが誰なのか、自ずと答えが出てくる」
石川が遠藤を陥れた張本人であることは明白だ。後は守弘殺害にどう関与しているかだ。
「あっ! なるほど~なるほど~」とつい祓川の口癖が出てしまった。
宮川にもその人物の顔が思い浮かんでいた。篠村だ。コジョーにいて、石川と親しい人物と言えば、篠村しかいない。「今の話、鈴木さんに伝えて構いませんか?」と尋ねると、「良いも悪いも無い。必要な情報は共用すべきだ。さっさと連絡して篠村を問い詰めさせろ!」と祓川はそっけなかった。
宮川が鈴木に電話を掛けようとすると、「待て。もうひとつ、分かったことがある。捜査本部に、それも一緒に伝えてくれ」と祓川は言う。
祓川の手柄を奪うようなことはしたくない。「祓川さんの口から伝えた方が、良いんじゃないですか?」と尋ねると、「いいから伝えろ」と答えた。
「事件当夜のNシステムを調べてみた。あの夜、南洲守弘は南洲家から吉祥寺にある会社に向かったと考えられている。石川たちはそう証言しているからな。だが、やつらの言う通り、土曜日の夜に会社に向かったのなら、Nシステムに守弘の車が映っているはずだ」
祓川の言う通りだ。
自動車ナンバー自動読取装置、通称、Nシステムは全国の主要道路に設置され、走行する自動車のナンバープレートを自動的に読み取るシステムのことだ。犯罪捜査に利用されており、手配車両と走行する車のナンバーを自動的に照会することで、即座に手配車両を発見することができる。
事件当夜、南洲守弘が都内に向かっていることが確認できれば、遠藤の証言は崩れることになる。宮川がいなくても、祓川は捜査を進めている。祓川の足手まといになっていなければと願いばかりだ。
「それで、どうでした?」
「ない」と単刀直入だ。
「なかったのですか――⁉ じゃあ、一体、誰が南洲社長の車を吉祥寺のアパートまで運転して行ったのでしょうか?」
守弘が吉祥寺に借りていたアパートの駐車場には、愛用のセダン車が停めてあった。
「これを見ろ」と祓川はNシステムが撮影した守弘の車のナンバープレートを撮影した写真を置いた。
守弘愛用のセダン車が映っている。そして、運転席には見知らぬ男の顔があった。顔が細く、鼻の高い整った顔立ちだが、妙に若作りだ。若い頃はなかなかの男振りだったことだろう。実年齢は結構、行っているはずだ。良い老け方をしているとは言い難かった。
写真が撮影された日時を見ると、日曜日の夜、十七時四十二分だった。事件があった土曜日ではない。翌日の夜の画像だ。
「誰です? この人」
「それを確かめに、南洲家に行くぞ」そう言った時には、祓川はもう立ち上がっていた。
のしのしと大股で歩き出す。「あっ! 僕が運転します」と宮川は慌てて後を追った。




