防犯システム①
日曜日に会社に来た人間がいた。
細野という男で、友人と吉祥寺で待ち合わせをした。早く着いたので、会社で時間を潰した。週末にペストコントロールがあることは知っていたが、少しの間なら大丈夫だろうと思ったと言う。
宮川は祓川から「南洲社長が会いたいと言っていることを、遠藤は誰からどうやって聞いたのか調べろ」と「日曜日に出社した人間がいないか調べて事件当夜の防犯カメラの映像を確認させ、データに細工がないか確認させろ」と指示を受けた。
その内のひとつ、日曜日に出社した人間が早速、見つかった。宮川から相談を受けた鈴木が仲間の刑事に頼んで、探してもらったのだ。細野に事件当夜の防犯カメラの映像を見せて、変わったところがないか、確認してもらう必要があった。
もうひとつ、遠藤が誰から守弘が会社で待っていることを伝え聞いたのか、確認しなければならない。それも、先輩刑事が遠藤に確認を取ってくれた。
石川がアパートに匿っていたことを認めたと伝え聞いた遠藤はほっとしたように言った。「おお、そうか。あいつに迷惑を掛けてはいけないと思って黙っていたんだ。あいつが俺を匿っていたことを認めたのなら、もう話しても良いな。そうだよ。俺はあいつのアパートに匿ってもらっていた。逃げ場がなくなって、他に頼ることができるやつがいなかったからな。あいつと仲が良かった訳ではないが、親戚だ。もしかしてと思って連絡を取ると、丁度、話があって、俺を探していたと言うことだった。事情を話したら、匿ってくれると言う。俺も南洲一族の端くれだ。一族の者は俺のような人間でも、見捨てたりはしないのさ。だから、俺も、やつのことは黙っていた。
守弘からどうやって連絡があったのかって? ああ、そうか。まだ言っていなかったな。簡単だ。石川と連絡を取る方法を決めてあったんだ。あいつのアパートには固定電話がある。用事がある時は、それを使ってあいつに電話を掛ければ良い。
やつが俺に用事がある時は、アパートに電話を掛けて来て、『携帯に連絡をくれ』と留守電を残す。それを聞いたら、アパートの電話で、あいつの携帯電話に電話を掛ける。それだけだ。
石川から、守弘が則天の事故のことで俺に話があると聞いた。夜の九時に会社に来てくれと言うので、正直、行きたくはなかったんだがな。ほら、俺を探しているやつがいたからね。見つかると面倒だ。だが、俺も一族の人間だ。一族の人間の頼みなら仕方がない。そこで、守弘を尋ねて行った。そしたら、やつが死んでいたって訳さ。間違いない。あれは日曜日の夜だった。土曜日に、あの会社になんて行っていない!」
遠藤は石川から南洲守弘が会って話をしたがっていると聞いたと言う。祓川の見立て通りだ。石川が守弘殺害に関与していた疑いが深まった。
「南洲さんを会社に尋ねた時、既に死んでいたと言うのなら、一体、誰が会社の入口の鍵を開けたんだ⁉」と尋ねると、「俺が知るか! 番号を押して、『遠藤だ』って名乗ったら、鍵が開いた。それだけだ」と遠藤は答えた。
死人に鍵を開けることなど出来ない。そのことを指摘すると、「だから知らないって言っているだろう! 俺に分かるか‼ とにかく、俺が行った時には、やつは死んでいた。それだけだ。やつの死体を見た時、(やばい! このままだと俺が疑われる。俺が守弘を殺したと思われるに決まっている)と思った。だから、逃げた。あの時、部屋の何処かに誰かがいたのかもしれない。ほれ、見ろ! 俺の想像通りだ。お前たち、俺の仕業だと決めつけているじゃないか。やったのは俺じゃない。いい加減、解放してくれ」と遠藤は哀願口調で言った。
「勝手なことを言うな! 私がやりましたって自首して来ておいて、今更、俺がやったんじゃない。解放しろだと。ふざけるな‼ 警察はお前の避難所じゃねえ!」刑事の怒鳴り声が取調室に響き渡った。
宮川は鈴木と共にコジョーを訪ね、細野に事件当夜の防犯カメラの映像を見てもらった。
細野は二十代、学生気分が抜けないようで、赤茶けた髪にピアスが目立つが、目鼻に口も小さな地味な顔をしている。顔が目立たないので、髪を染めてピアスをしているのだろう。
「うちも暇じゃないんですけどね」と篠村に嫌な顔をされた。
守弘を失い、会社は存亡危急の秋を迎えていると言う。篠村が社長代行を務めていた。
「この映像に何処か変なところはありませんか?」と細野に尋ねると、「変なところですかあ~」と間の抜けた返事をしながら、それでも食い入るように事件当夜の防犯カメラの映像を確認してくれた。
真っ黒な人影が映像を過り、社長室に灯りがついた。守弘が会社にやって来た。社長室の灯りが、ほのかに職場を照らしている。細野の机は防犯カメラの映像の端に半分だけ映っている。
遠藤がやって来て、社長室を訪ね、走り出てくるところまで映像を確認した。その後は延々と動きのない映像が続くだけだ。
そして翌日、日曜日の朝の映像を確認した。
八時五十六分に、細野が会社に出社して来た。特に仕事があった訳ではない。友人との待ち合わせまで、時間つぶしに訪れただけだ。コンビニで買った紙コップに入ったコーヒーを片手にやって来て、席に着くと、パソコンの電源を入れた。
コーヒーを飲みながら、パソコンを操作していたが、やがて、待ち合わせの時間が迫っていることに気がついたようで、唐突に立ち上がると会社を出て行った。
九時十八分だった。後は延々と動きの無い画像が続いた。
「あっ! ありました。変なとこ」細野が叫んだ。
宮川が身をかがめて細野に顔を寄せて画像を見た。「ど、何処ですか⁉ 何かおかしな点がありましたか?」
「ここです。刑事さん、ここを見て下さい」
「何処です?」
「ここ、画面の端っこです。ほら、ここが僕の机。机の上がかろうじて映っているでしょう? 机の上を見て下さい」
画像の隅、細野が指さす先に机の上が半分、かろうじて映っている。「机の上に紙コップがあるでしょう。コンビニで買ったコーヒーです」




