誰が鍵を開けたのか?③
「そうでしたか?」祓川は白々しく惚けてみせた。
「言いましたよ。ひどいな~刑事さん、覚えていないのですか?」
「あなた、ここ何年も遠藤康臣とは会っていないと言っていませんでしたか?」
「えっ――⁉ そうでしたっけ? 僕、そんなこと、言いましたか?」
「どうやら、覚えていないのはお互い様のようですね」
祓川の術中にはまっているようだ。
「はは。刑事さん、康臣と会ったことを黙っていたのはすいません。本当に忘れていたのです。あいつ、仲間内で揉め事を起こしたみたいで、誰かに追われているみたいでした。俺のことは誰にも言わないでくれと言うので黙っていただけです。刑事さんに嘘をつく気はありませんでした」
「実はね。玄宗さん。遠藤康臣が警察に自首して来たのです」
虚を突かれたようだった。石川は遠藤が自首したことを知らなかったようだ。
「ほ、ほう~自首ですか。あいつにそんなしおらしいところがあったのですね。自ら罪を認めましたか? 守弘さんを殺害したことを」
精一杯の虚勢に聞こえなくもない。
「現在、捜査中です。ところで、あなた、横浜のアパートに遠藤康臣を匿っていましたね?」祓川が鎌をかけた。
「はは。流石は刑事さん。何でもお見通しだ。ええ、ヤクザ仲間は頼れない。頼りになるのは昔の知り合いだけだ――と康臣が言うので、仕方なく匿いました。正直、係わり合いになりたくなかったのですけどね。ですが、南洲宗家を継ごうかというような人間が、一族の人間を見捨てることなんて出来ませんからね。南洲家の縄墨に反してしまいます。だから、あいつを匿ったのです」
やはり遠藤康臣を匿っていたのは石川だった。祓川に手柄をさらわれた形になってしまったが、最初にそう考えたのは宮川だった。
「遠藤康臣は南洲氏より連絡を受けて、会社に会いに行ったと証言しています。やつは携帯電話の電源を切っていました。南洲氏はやつがあなたのアパートに潜伏していることを知らなったはずだ。南洲氏が会いたいと言っていることを遠藤に伝えたのは、あなたですか?」
「いいえ、違います。知りませんよ、そんなこと。行くところが無いと言うので、アパートを貸しただけで、あいつと一緒に暮らしていた訳ではありませんからね。やつにアパートを貸してから、僕は実家に戻っていました」
「じゃあ、南洲氏はどうやって遠藤と連絡を取ったのでしょうね?」
「さあ、知りません。守弘さん、遠藤の携帯電話に留守電を残しておいたのではありませんか? 携帯電話の電源を入れて、それを聞いて、また電源を切った。そんなところでしょう」
「遠藤は事件のあった土曜日ではなく、日曜日に会社を訪ねたと言っているのですが?」
「だから、刑事さん。僕は何も知りませんよ。アパートにいなかったので、あいつが何時、守弘さんを訪ねたのかなんて分かりません。あいつのことです。きっと適当なことを言っているのでしょう。あいつですよ。守弘さんを殺したのは」
遠藤を匿っていたことは認めたが、後は知らぬ存ぜぬだ。
「隠していることはそれだけですか?」
「隠していること? そんな刑事さん、人聞きの悪い。人を犯罪者みたいに言わないでください。まるで私が容疑者みたいじゃないですか」という石川の批難を無視して、祓川は言った。「会社の近くのレストランで会っていたのは遠藤だけじゃないですよね? あなた、亡くなった南洲則天さんともレストランで密会していましたよね?」
「け、け、け、刑事さん。そんな、密会だなんて・・・ひどいなあ~まるで、人目を忍んで会っていたみたいな言い方だ。それも中田の情報ですか? あいつ、則天さんとは会ったことがないはずだ」明らかに狼狽している。
「顔写真を見せて確認してもらいました。あなたから送ってもらったやつです」
「あ、ああ・・・」と直ぐに理解した様子で、「ええ、確かに彼女と会ったことは間違いありません。でもね、刑事さん。別にやましいことなんて、何もありませんよ。彼女が横浜に買い物に来て、久しぶりに会いたいと言われて、近くのレストランで会ってお茶を飲んだだけです。ええ。それだけです。親戚なのですから、それくらい、普通のことでしょう」
「ええ、まあ。会っていたからと言って、それが問題な訳ではありません。あなたが下手に隠し立てするから、疑ってしまうだけだ」祓川の言う通りだ。最初から、認めていれば、疑いは持たなかった。
こうなると、二人の間で何かあったのではないかと疑ってしまう。
「いずれにしろ、彼女とお茶を飲んで、世間話をして別れました。親戚の一人としてね」
機嫌を損ねてしまったようで、「さあ、刑事さん。今日はこれくらいで良いですか? こちらも暇じゃない。こう見えて忙しいのです」と南洲家を追い立てられてしまった。
二人は青梅署に戻ることにした。
車に乗り込むと、祓川が言った。「南洲社長が会いたいと言っていることを誰からどうやって聞いたのか、それを遠藤に確認しておいてくれ」
「はい」と宮川が頷く。
石川が犯人だとすると、遠藤を罠にはめた可能性が高い。だが、あくまで石川が犯人だと仮定しての話だ。遠藤が犯人だとすると、その辺はさして重要なことではない。思い切って、宮川は尋ねてみた。「祓川さん。石川が犯人だと思っているのですか?」
「ふん。前にも言った通り、可能性を潰しておきたいだけだ」
「防犯カメラの映像がある以上、石川にはアリバイがあります。日曜日に南洲社長を訪ねたと言うのは、遠藤が嘘を言っているのではないでしょうか?」
「だから、それを確かめたいのだ。防犯カメラの映像なんて、所詮はデジタル・データだ。いくらでも細工ができるはずだ。武蔵野署の連中に、その辺、きっちり調べさせろ。そうすれば、遠藤が嘘を言っているのかどうか分かる」
簡単に言うが、宮川は刑事課で最年少だ。周りの先輩たちに指示など出来ない。
「はあ・・・」と浮かない返事をすると、「日曜日に会社に出て来た人間がいないか調べろ。もし休出してきたやつがいたら、そいつに事件当夜の映像を見せて、おかしなところがないか確認させろ。細工があれば、分かるかもしれん」と宮川にも出来そうな具体的な指示をくれた。
これなら宮川にも出来そうだ。「分かりました。やってみます!」と宮川は張り切った。




