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南洲一族の縄墨  作者: 西季幽司
「奸計」の章
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誰が鍵を開けたのか?②

「入り口のインターホンでボタンを押して、鍵を開けてもらったそうです。予め、会社に着いたら、インターホンで一〇一番を押して、連絡してくれと守弘から言われていたそうです。言われた通りに会社を訪ねてみると、社長室で南洲社長が死んでいたと言う訳です。椅子に腰かけ死んでいました。首についた策条痕から、一目で死んでいることが分かったそうです。南洲社長が死んでいるのを見て、『やつが死んだとなると、真っ先に疑われるのは俺だ』と思い、行方をくらましたと言っています。会社を逃げ出してからは、漫画喫茶を転々と泊まり歩いていたそうです」

「待て、待て、ちょっと待て。変だぞ。遠藤は会社に南洲守弘を訪ねた時、入り口のインターホンで一〇一番を押して、鍵を開けてもらったと言ったな? なら、遠藤が訪ねた時、南洲守弘は生きていたことになる。でなきゃあ、一体、誰が鍵を開けたんだ? 遠藤がインターホンを押してから社長室に入るまでのわずかな時間に南洲守弘が殺害されたことになるぞ。しかも、遠藤が犯人ではないとすると、その時、犯人はまだ社内にいたことになる」

「ああ~確かにそうですね」

「ああ~じゃないだろう。武蔵野署では誰もそのことに気がついていないのか?」

「すいません。遠藤の証言を聞いてから、直ぐに出て来たので、一課の皆さんの意見を聞いてきませんでした。ですが、遠藤は『会社を訪ねたのは日曜日の夜だったと思う』と証言しています。ご存じの通り、事件当夜、土曜日の夜に南洲社長を訪ねる遠藤の様子が防犯カメラの映像に残っていました。日曜日の夜ではありません。捜査本部では、やつの証言は眉唾だと考えているようです。やはり怪しいのは遠藤だというのが、捜査本部の一致した見解だと思います」

「遠藤は日曜日の夜に会社を訪ねたと証言しているのか・・・」

「はい。罪を逃れる為に偽証をしているのではないでしょうか?」

「ふうむ・・・」と呻きながら、祓川が立ち上がった。

 祓川が歩き出す。慌てて後を追いながら、祓川の背中に声をかけた。「何処に行くんですか?」

「南洲家だ。石川隆文に遠藤の聴取結果をぶつけてみる」

 宮川の運転で南洲家へと向かった。

 防犯カメラの映像が石川のアリバイを証明し、遠藤の証言を否定している。だが、祓川は石川を犯人として追い続けるようだ。

 車中、助手席の祓川に携帯電話が鳴った。

「ああ、うん。メグちゃん。どうしたの?・・・そう。偉いでちゅねえ~」祓川が一オクターブ高い猫なで声で話し始めた。

 奥さんではない。娘さんからの電話のようだ。

 愛想を何処かに置き忘れて来たような祓川が、赤ちゃん言葉で喋っている。宮川は笑いをかみ殺すのに必死だった。

 宮川を気にしてか、祓川は声を潜めて、ぼそぼそと会話を続けた。声が高いので、会話の内容が朧気だが理解できた。祓川に言われたことが出来たことが嬉しくて、娘さんが電話をかけてきたようだ。

「お父さん、お仕事だから、じゃあね~メグちゃん~」と言って電話を切ると、「いいか、余計なことは聞くんじゃないぞ!」と祓川がまた釘を差してきた。

 宮川は「はい!」と元気良く答えた。祓川が嫌な顔をした。

 祓川のことだ。事前に確認してあったのだろうが、石川は南洲本家にいた。駐車場には何時ものスポーツ・カーが駐車してあった。石川の愛車だ。「やあ、刑事さん。またお会いしましたね~こう毎日、顔を合わせていると、なんだか他人のような気がしませんね」と石川が愛想笑いを浮かべながら二人を出迎えた。

 祓川は顔を会わすなり、「親近感を抱いて頂かなくて結構です。しかし、他人のあなたが、毎日、ここにいますね?」と強烈なフックをお見舞いした。

「嫌だなあ~刑事さん。まるで僕が勝手に居座っているみたいに言わないで下さいよ」と石川が答えると、すかさず「違うのですか?」と切り込んだ。

「ちゃんと篠村さんや和美さんの了解を得て、ここにいるのです。南洲家九代目当主としてのお勤めがありますからね。まあ、玄関先で立ち話も何ですので、奥へどうぞ」

 何時もの応接間に案内された。前回と同じ位置に腰を掛ける。「お茶でも入れて来ましょう。紅茶しかなかったので、買っておきました」という石川を「結構です。お気遣いなく」と祓川が引き留めた。

「石川さん、いや南洲玄宗さんでしたね。確か、ご両親は既に亡くなられており、こちらに実家がおありなのではありませんでしたか?」

「ええ、こちらに実家があります。でもまあ、ちょいと不便な場所にあって、往復するのが面倒なもので、こちらに寝泊まりしています。やっぱり本家は村で一番、良い場所にありますからね。何かと便利です」と石川がぬけぬけと言う。我が物顔だ。

 祓川は話題を変えて、ズバリと切り込む。「二週間前、あなた、会社の近くのレストランで遠藤康臣と会っていたそうですね?」

「私が――⁉ 康臣と会っていた?」祓川の攻撃を予想していなかったようだ。宮川には、石川が心から驚いているように見えた。

「前の会社で同期だった中田さん、ご存じですよね? 彼が、二週間前、あなたと遠藤康臣が会社の近くのレストランで会っていたのを目撃しているのです」

 祓川が言うと、石川は「ちっ!」と舌打ちをした。「ああ~そう言えば、康臣と会ったような気がします。最近、色々なことが一度にあったものですから、すっかり忘れていました。そうそう、会社の近所のレストランで康臣と会いました」

「遠藤康臣と会って、どんな話をしたのですか?」

「それは・・・ああ、そうだ。康臣は守弘さんが則天さんを殺したのではないかと疑っていました。守弘さんが、事故に見せかけて則天さんを殺したんだ――と、そう言っていましたよ。うん。そうだ。『あの野郎、殺してやる!』と康臣は、もの凄い剣幕でしたね。僕はね、『確証も無しに守弘さんを疑ってはダメだ』と彼を諫めました」

「なるほど~なるほど~遠藤康臣は南洲社長が則天さんを殺害したと思い込んでいて、『殺してやる!』と言っていた訳ですね。そんな重要な情報を、あなた、黙っていたのですか?」

「ひどいな~刑事さん。最初にお会いした時から、犯人は康臣じゃないかって、僕は言いましたよね。それから、動機は則天さんの事故じゃないかとも言いました」

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