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南洲一族の縄墨  作者: 西季幽司
「奸計」の章
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世の常、人の常③

「金・・・ですか・・・」

「金だな。あの男を動かしているのは、金と見栄だよ」

「祓川さんは石川に対して厳しいですね」

「厳しい? 分かってないな。これは俺なりのプロファイリングだ。事件関係者を観察し、プロファイリングする。そうすることで、浮かび上がって来る犯人像と合致する人物を探し当てる。そうやって犯人を特定するのだ」

 プロファイリングと言うが、祓川の直感に過ぎない。

「あの~すいません。広江課長に言われて来ました」と一人の若者が、おずおずと会話に割り込んできた。「中田と言います」と若者が名乗った。

 研究開発部で石川と一緒に働いていた同期だと言う。痩せていて鉛筆のように細い。狐顔で、出っ歯ではないが大きな口がせり出して見える。

「石川健文さんと仲が良かったのですか?」

「ええ、まあ。大学で同じ研究室で、同期入社でしたから。仲が良い――と言うより、長い付き合いと言った方が正しいかもしれません」

 腐れ縁だと言いたげだ。

「大学で同じ研究室だったと言うことは、鷲尾ゼミで一緒だったということですね?」

「おやっ――⁉ 刑事さん、我が鷲尾ゼミをご存じですか?」中田が嬉しそうに言う。

 祓川は「先ほど、広江さんから伺ったばかりです」と冷たく突き放す。「石川さんは、どういった人ですか?」

「石川ですか? 見ての通りです。明るくて、男前で、誰からも好かれるやつです」

「誰からも好かれる人物には見えませんでしたけど」

「はは」と中田は軽く微笑んだ後で、「まあ、そうですね。誰からも好かれるというのは、言い過ぎだったかもしれません。彼ね。大学に入学してから、直ぐにお父さんを亡くしていて、ああ見えて結構、苦労をして大学を卒業したんです。そうじゃなかったら、あいつのことです。芸能界とか、そういった派手な世界を目指していたと思いますよ」

「なるほど~なるほど~苦学生なのですね?」

「学生時代はバイトばかりしていました。学費に家賃、生活費まで、全てアルバイトで稼いでいました。実家のお母さんの生活費まで、稼いでいたんじゃないかな? ああ見えて、苦労人なんです。まあ、お母さんも、彼が就職して直ぐに亡くなりましたけど」

「ところで中田さん。遠藤康臣という人物をご存じありませんか? ちょっと古い写真ですが」そう言って、祓川は携帯電話に保存しておいた遠藤の顔写真を見せた。

「遠藤康臣?」と顔写真を見た中田は、「ああ~この人。ええ、知っています。名前は初めて知りましたけど、会ったことがあります」と答えた。

「ほう~会ったことがあるのですね。何時、何処で会ったのですか?」

「会ったというより、見ただけですけど。怖い顔でしたから、忘れられません。ヤクザみたいだなあ~と思ったので、覚えていました。この人を見たのは・・・ええっと・・・そんなに前じゃありませんよ。二週間くらい前ですかねえ・・・石川と一緒にいるところを見ました」

「石川健文と一緒にいたのですか⁉」祓川が大声を出したものだから、「は、はい!」と中田は椅子から飛び上がった。

「何処で見たのですか?」

「ああ、それが――」と中田は会社近くにある一軒のレストランの名前を教えてくれた。「会社を辞めたと言っても、彼、この近くに住んでいますし、行きつけの店は変わりませんからね。会社を辞めた後も、そのレストランでちょくちょく顔を見ました」

「ああ、話の腰を折って、すいません。石川健文は奥多摩に住んでいるようですが」

「奥多摩⁉ そうなんですか? 彼、近所のアパートに今でもいるものだと思っていました」

「そうですか。すいません。で、石川健文が男と会っていた時の話を続けて下さい」

「はい。二週間くらい前だったと思いますが、行きつけの居酒屋にいました。彼、もてますから、女性と一緒なのは珍しくありませんが、この時は珍しく、相手は男でした。しかも、連れの顔を見て、随分、人相の悪いやつと一緒にいるなあ~と思いました」

「どんな話をしていたのでしょうか?」

「さあ? 額を寄せて、ひそひそと話をしていましたので話の内容までは分かりません。随分、込み入った話をしていたようでした。まあ、彼が会社を辞めてからは、近所で会っても、こちらから声をかけることがなくなりました。彼のことです。次の仕事が決まったり、何か良いことでもあったりしたら、彼の方から声をかけて来るでしょうからね」

「なるほど~なるほど~とにかく、彼は遠藤康臣と一緒にいた訳ですね。ところで、先ほど、女性と一緒なのは珍しくなかったとおっしゃいましたが、石川健文はよく女性と一緒にいたのですか?」

「ええ、まあ。彼、独身ですから、毎回、違う女性と会っていても、とやかく言われる筋合いはないのでしょうけど、何度か女性と一緒なのを見ました。彼、もてますからねえ~一度なんか、会社の子と一緒でした。『そんなんじゃない。相談に乗っていただけだ』って言っていましたけどね。訳ありの女性を連れていたこともありました。それを冷やかしたら、『そんなんじゃない。親戚だ』と言い訳していました」

「訳ありの女性? どういう女性ですか?」

「へへ。僕、見ちゃったんです。女性の左手の薬指に結婚指輪があったのを。どうです? 訳ありの女性でしょう? 人目を忍ぶ関係だったのかもしれません」

「石川健文は不倫をしていたということでしょうか?」

「分かりません。先ほども言った通り、彼、親戚だと否定していましたから」

「何時頃ですか?」

「さあ~何時でしたっけ・・・ひと月くらい前だったと思います」

 ふと思いついて、祓川は「この女性ですか?」と携帯電話に保存してあった写真を見せた。石川に頼んで和美から取り寄せてもらった南洲則天の写真だった。

「ああ~ええ、この女性だったような気がします。うん、間違いない」と中田が答えた。

 石川が密会していた女性は南洲則天だった。そして、二週間前には、遠藤康臣とも会っていた。石川と則天はどんな関係だったのか。遠藤と会っていたことを、何故、黙っていたのか。宮川も石川に対する容疑を深めた。

「どうもありがとうございます」中田からの事情聴取を終えてから、石川が住んでいるというアパートに回ってみた。

 独身男性が好みそうな、出入りが自由なアパートだった。大家に確認を取ったところ、入居者の名前は石川健文のままだった。

 石川が遠藤と会っていたという居酒屋にも行ってみた。店員は石川のことを覚えていたが、遠藤の顔は覚えていなかった。

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