32-幕間2 博麗隊、その後
凍てつく闇夜を溶かすかのように赤髪の女が街道を征く。
彼女が一歩踏み出すだけで外の賑わいは熱を失い、燃え盛る髪が揺らめくだけで酔いどれ達は酔いを醒ます。この世の全てを恨むがごとく赤く燃え滾る眼光で周囲を威圧し、彼女の前にまっすぐな道を作らせた。
赤髪の女は鼻が曲がるようなボロ切れを身に纏い、汚れひとつない不気味な刀を堂々と腰に差している。道行く人の注目を集めながら、しかし誰もが見て見ぬふりする。物好きな連中が餌にしそうな珍しい人物にもかかわらず、危険を感じてスマートフォンすら向けられない。
そんな危険人物に対して度胸試しか目立ちたいのか、派手な服を着たチンピラが進路上に立ち塞がった。
「おい姉ちゃん! くっせえんだよ!」
近くで見ると、身なりから想像できないほど赤髪の女はべっぴんで、えげつない悪臭を除けばチンピラの好みにピッタリと当てはまる女だった。
ただし今の彼女は非常に機嫌が悪いようだ。気に入った女は一晩で手に入れる主義のチンピラにとって、これほど手強い相手はいないだろう。
「だからなんなんだい」
「お、おう。だから、えーと」
続く言葉が見つからずチンピラが惚けている。そうしているうちに女が横を通り抜けた。
「おい! ちょっと待てよ!」
女を逃すまいと振り返り、肩に手を触れる寸前だった。
赤髪の女が素早く動く。一瞬のうちに身を屈め、回転しながら腰の帯から刀を外し、加速した鞘をチンピラの首元で寸止めした。
チンピラの目には赤髪の女が消えたように映ったのだろう。肩を掴む動作は空を切り、前のめりになったところでひんやりとした鞘が首筋に触れた。
首筋に触れた冷たい鞘を、チンピラは真剣の刃と錯覚して腰を抜かした。唇を青白くして言葉を失い、ペタペタと首を触っては、血がついていないか指を眺めている。
一部始終を知りながらも赤髪の女のアクションシーンを見逃した見物人は数多い。その場に居合わせた者として一種の使命感を覚えたのか、次こそは見逃すまいとスマートフォンを構え始めた。だが時すでに遅し。地べたにへたり込んだチンピラが画面に映されただけだった。
赤髪の女は戦意喪失したチンピラを一瞥もしない。バス停へ向かい、丁度到着したばかりの格安バスに乗り込んだ。バスが見えなくなった後、静まり返った街道では白けた時間を取り戻すように賑わいが加熱した。
「ご乗車ありがどうごじゃいます」
運転手は悪びれる様子もなく鼻をつまみながら最悪な乗客を見送る。他の乗客が全席の窓を全開にすると逃げるようにバスが発進した。
目的地はバスを降りてすぐ先にある。バス停の標識に書いてあるものと同じ名称の看板が道場の門に掲げられていた。
これから会う人の顔を思い出すうちに顰めっ面だった赤髪の女・佐々木サキの表情が少し和らいでいた。
ここへは置いてきた荷物を取りに来ただけだ。なのにどうしてか、さきほどからサキはこの場所に実家のような安心感を覚えていた。たった一泊お世話になっただけで家の間取りすら知らないのに、心が落ち着くのはなぜだろう。
考え込んでいると思い出し怒りがぶり返す。白田ヤヨイの顔が浮かぶ。家の人たちを不安にさせたくないサキは楽しい記憶を頭に浮かべ、心が安らぐ感覚を大事にしながらインターホンを押した。
『ピンポーン』
戦友の家とはいえ接点が少ない。それに加えてモンスターになってから会えない期間も長く、相手がサキの顔を忘れていてもしょうがない。なんなら置いてきたままの荷物が捨てられていてもおかしくない。
しかし相手の反応はサキの予想を遥かに超えてきた。
ガチャ。ビュン!
扉が開くと獲物に食らいつくような勢いで少女が飛びついてきた。サキは呆気に取られて避けられず無抵抗で受け入れるしかなかった。
サキにしがみついた少女は「おかえり」の言葉を繰り返しながら、映画『エイリアン』のフェイスハガーが如くサキの顔面をむさぼる。サキが混乱して何もできずにいると、少女の背後から呆れ顔の母親が出てきた。
「ナギ! はしたない! ごめんなさいね。あらどちら様?」
「チュッ、チュッ、おかえり、チュッ」
注意を受けてもサキから離れる気配がない。徐々に漂い始めた悪臭に堪えながら、母親のモモコはナギの両脇に手を引っ掛けて無理矢理引き剥がした。
その頃にはもうサキの顔から怒りはとっくに消え失せ、代わりに唾液まみれで嬉しいような悲しいような何とも言えない表情に変化していた。
「あらやだ。もしかして、サキちゃん? 話には聞いてたけどずいぶん容姿が変わったわねぇ」
どうやらナギはモンスター化の極意についてモモコに明かしていたらしい。秘密にするようケーから釘を刺されたにもかかわらずあっさりと秘密を漏らしてしまうとは、怖いもの知らずがここまでいくと逆におっかない。
「ご無沙汰してます。えっと……」
「私たちのこと忘れちゃったのぉ? ショックぅ〜」
「え! じゃあサキ姉、ウチのことも!?」
「ナギちゃんとモモコさん。ちゃんと覚えてますよ。そうじゃなくて……えっと…」
「さあそんなことより早く中に入って。お風呂に入ってきなさい。あなたものすごく臭うわよ?」
「あ、いえ! ここには荷物を取りに来ただけで、貰ったらすぐに帰ります!」
「ダメよ。帰すにしてもちゃんとした格好にさせないと家の評判が落ちるの。いいからさっさとお風呂入っちゃいなさい」
「ウチが背中流してあげる!」
怪物になる道を選んだことで人の社会から解放されると思っていた。怪物になればサキ自身の心が人との関わりを拒めるように変化してくれると期待していた。だけどその考えは間違っていた。
ここまでする義理もないだろうに、この親子は何の躊躇もなくサキを受け入れた。ダンジョンが敵視される時代での怪物化は人類に対する裏切り行為と同義なのに、この家は歯牙にもかけない対応で迎え入れてくれる。
悪いと思いながらも、サキは清水家に甘えたい気持ちに偏っていた。姿をどこまで変えても人としての本質は変わらなかった。怪物になるというのも、人と関わりたくないというのも、構ってもらいたい気持ちの裏返しだったわけだ。結局のところ、サキは人の優しさから離れられなかった。
「お世話になります……」
「サキ姉はここに住むって約束したでしょ! だからおかえり! おかえりの後はただいま!」
「でも……」
「いいのよ。ここはもうサキちゃんの家なんだから、入っておいで」
エルフの村で調達したボロボロの革靴がズルズルと玄関に引きずられていく。このまま頼ってしまっていいのかと自問自答しながらも心はすでに拠り所を求めていた。
「ただいま」
驚くほどするりと出た言葉だった。
「その服も靴も全部捨てていいかしら」
「あ、はい」
ナギが手伝ったのもあって体の隅々まで洗い流し、しぶとい血の汚れもすっかり落とすことができた。
ダンジョンでは滅多に身体を洗えず、入浴できる機会はケーが気まぐれで風呂を作った時か魔王軍から宿を奪還したときくらいだった。しかも宿の浴室にある石鹸は動物油脂のもので風呂の後はひどく臭ったものだ。その点、ここにはボディソープ・シャンプー・トリートメント・洗顔剤など様々な洗浄剤が勢揃い。石鹸では取れない汚れもこれらを使えば万事解決。
現代の道具に有り難みを感じつつ長時間の格闘の末、二人は風呂から上がってきた。
脱衣所にはサキの忘れ物から引き出された懐かしい服が1セット用意されていた。久しぶりの下着に股を通し、文化人に戻れたことを素直に喜んだ。しかし喜びは続かない。別れの時が近づいている。
引っ越しの口約束をナギたちは覚えてくれていたが、サキはその話題を掘り返さずにここを立ち去るつもりでいた。
これからは指定モンスターとして国家のために働く日々が始まるだろう。その活躍が世に知れ渡れば稀有な力を持つサキ自身が敵に狙われる可能性が出てくる。住処に危険が及ぶことだってあるかもしれない。サキはそれを恐れていた。
「アタイの荷物は今どこにあるんだ?」
「荷物? 荷物ならサキ姉の部屋に置いたままにしてるよ」
道場を運営し、バス停まで作られる清水家の敷地は当然のように広い。清水家の生活空間は門下生用の寮とは分けられており、サキが宿泊した部屋も共同浴場から遠く離れている。
それほど広大な屋敷の部屋の場所なんて一度泊まったくらいでは覚えられない。ましてや期間が数ヶ月以上空いている。サキは屋敷の間取りを完全に忘れていた。
自然な流れでナギが先頭を行き、サキは何も言わずに後ろを歩く。
長く冷たい廊下を歩き、長い赤髪が冷え切ってしまった頃に見覚えのある部屋の並びが現れた。
サキが泊まったときには寮の利用者がおらず、一番手前の部屋をあてがわれていたことを思い出し、ドアを開錠してもらって中に入った。
明かりを点けるとびっくり。泊まったときは布団一枚しか無かった部屋だった。それがすぐにでも使えるくらい綺麗に掃除され、冷蔵庫やエアコンなど生活に不可欠な家具・家電が新調されていた。とても住みやすい部屋に改造したようだ。ここに暮らす人はきっと不自由しないだろう。
出て行くと決めたはずのサキの中に迷いが生まれた。
「これ、全部新品だろう。ずいぶん奮発したね。もしかしてアタイのために?」
「ううん。違うから安心して。今年から女性限定で部屋の貸し出しをするんだって。始めたばかりだけど4月からの入居者の申請が結構あって、もう埋まったみたい。あ、もうサキ姉の隣に住んでる人いるよ」
「そうだったのかい」
自分のために部屋を改造したと勘違いして若干恥ずかしくなったサキだが、逆にそのおかげで迷いが薄れた。
「お爺ちゃんに弟子入りしに来た人なんだ。入居者募集もその人の発案なんよね。募集した途端に門下生も増え出したし、みんな喜んでるよ」
「へぇー、すごいねぇ」
自分のいない間に清水家と関係を築いている人(おそらく女)に少し嫉妬しつつ、サキはダンジョン探索用の荷物をまとめる。泊まりに来た時はかなりの重量だったが、怪物化した今となっては嵩張る程度でしかない。
「え、サキ姉。荷物持ってどこ行くの? もう夜遅いんだから泊まってってよ」
「いいや、決断が鈍る前に立ち去ることにするよ。口座引き落としじゃないから向こうの家賃も滞納してるし、安心させてやんないとね」
「やだやだやだーー! せっかく帰ってきたんだから今日くらい泊まってってよー!!」
背負った荷物を引っ張り、部屋の前でナギが駄々をコネ始めた。
ナギを振り放そうと荷物を上下に揺らしても決して手を離そうとしない。宙に浮いてもナギの握力は緩まない。レベル上げの成果が現れている。
「サキ姉が居なくなってからずっと不安だったんだよう! みんな忙しいし! 新しい門下生はイヤらしい目で見てくるし! 一人にせんでー!」
ナギはナギで苦労してきた。母親のモモコはナギを家に置いてダンジョンに出張することが多く、日帰りと言いながらその日のうちに帰って来ないこともある。そんな中、賃貸経営という新しい事業を始めて父親もそちらにかかり切り、門下生が増えたことで祖父の負担も増え、それらの手伝いをするナギの心労は溜まるばかり。
忙しい日々の中で唯一の癒しはサキの帰還を祈り、新生活を妄想しながら予約部屋を掃除する時間だった。
だがそんな事情をサキは知らない。ただただナギのことを想って出て行くつもりでいる。荷物越しに見るナギの必死な表情のせいで再び迷いが生じるが、振り払う力は強まっていた。
「迷惑かけちゃうから、アタイは指定モンスターだから」
「やー! やー! やー!」
ガチャ。隣の部屋のドアノブが動いた。
「騒々しい。何事ますか」
女の声だ。噂の隣の入居者はどうやら在宅だったらしい。下手くそな敬語を操る女は絡み合うサキとナギを見て固まった。
それから次に固まったのはサキだった。全神経が警鐘を鳴らし、肉体の主人に一切動くなと告げている。
「ごめんねホロさん。うるさかった?」
「はいとても」
「あ! 紹介するね。この人がサキ姉だよ! ホロさんの先輩ね!」
「星神ホロという。よろしくしますサキ先輩」
星神ホロと名乗った女はメガネにジャージ姿のごく平凡な成人女性にしか見えない。
しかし鋭敏になったサキのシックスセンスが、星神ホロに逆らうのは危険と判断している。おそらくこいつは空飛ぶ白いドレスの獣人と同類だと。
サキはまだ動けない。自己紹介を経て、先に硬直を解いたホロが親しげに近づく。そしてサキの胸もとに手を乗せると凄まじい力で握りしめた。
「なんだこれは」
握りしめたホロの手にはわずかな空間があった。次第に空間が色づいていき、ぐったりとしたケーゾウが現れた。
「げっ! 蛇!? きっしょ! どこいたの!?」
「ケーゾウっ……」
「それは危険でした。これは名前ですか?」
咄嗟に出たサキの失言に気づき、ホロはサキの目の前でケーゾウをプラプラと揺らしながら尋問を始めた。
ケーゾウのことなど知らぬ存ぜぬを貫き通せばサキに逃げ道はあっただろう。しかしそんな考えが浮かぶ前に焦りから名前を漏らしてしまった。
能力が遥か高みにありながらも、飼い主に忠実に従うケーゾウはサキにとって切り札的存在。それをいとも簡単に捻り潰してしまったホロの問いかけ。それは拷問に値するほど厳しくサキを傷つけた。
「そ、そうだ。それはアタイのペットだから手を放してほしい」
「えっ! これサキ姉のペットなん!? 今までどこに……」
「これはとても危険。でも殺せない。だから封じるますね」
「ホロさん……?」
『殺す』やら『封じる』やら、普段のホロからは絶対に出ない言葉が飛び、ナギは困惑を隠しきれない。しかもホロとサキがいつのまにか対立していてナギの頭はパンクしそうだった。
「ホロさん急にどうしたの? いつものホロさんに戻ってよ! もう! なにこの空気!! ピリピリしてるんですけど!」
「………」「………」
ナギの言葉を聞いても両者は睨み合いを続けている。この場で最も高い権力者のナギをまるでいない者扱いだ。
既に手を出してしまったが、この状況はホロにとってもあまり良い状況とはいえない。元々この家には実力を隠して訪ねて来た。清水家に気に入られて居候の身分で暮らせるようになったが、正体を明かすほど親密な関係にはなってない。
ホロの正体を知っても清水家は受け入れるだろうが、このままサキと争って一線を越えてしまったら正体がどうであれ追い出される。
日本語が下手でコミュニケーションが苦手な性格のホロにとって、ここは労働の必要がなく他人の手を借りて金稼ぎもしやすい場所。この良好な環境に巡り会えたのはまさに奇跡だった。そんな場所を手放すのはホロにとって最悪の選択だろう。
超危険な生物を発見してとっさに掴んでしまったことを後悔するが、何の対処もせずにこのまま放すわけにもいかない。ホロの目には宇宙を滅ぼせる規模のステータスが見えていた。もしもケーゾウを自由にしたことで地球全土を焼き尽くす結果になったらと思うとホロは悲しい。今ケーゾウを手放すのも最悪の選択だろう。
ホロは今どちらも手放せない状況にあった。妥協策として正体を明かし、ケーゾウを封印する手段も取れるが最善とは言い難い。
このどん詰まりの状況をどうやって打開するか、サキを視線で威圧しながら考えていると悩みの全てを解決する物が飛び込んできた。
「その刀と交換するます! そしたらコレをお返しできます! 約束します!」
「ええっ! ホロさんそれはおかしいよ! だってどっちもサキ姉のじゃんか!」
「嫌ならどうなります?」
「……わかった。この刀と交換するよ。そのかわりに条件がある。取引したらもう二度とアタイとケーゾウに手を出さないことを約束してくれ」
「約束します」
サキは腰の刀に手をかけ、ゆっくりと鞘の下げ緒をほどく。柄と鞘を握り、奉納するように俯いて恐る恐る近づいた。
「抜く気ならやめといたほうがいいますよ」
「ッ…!!!」
ビクリとサキの肩が跳ねた。不意打ちする前にサキの思考が完全に見破られている。既に一足一刀の間合いよりも近い。踏み込まずとも鞘から抜けば振り抜くだけで胴体を切断できる。
「我慢できないなら試していいますよ」
視線を戻したサキの表情に躊躇はない。全身の筋肉が激しく盛り上がり、鞘を後ろに投げ捨てると同時に片手で刀を横に振る。強靭な体幹と腕力が成せる技だ。
ブゥォン!!!
ナギの目にはサキの右肩から先が消えたように映った。
ドガンッ!! バキバキバキッ!!
次に何かが壊れる音がした。全力で首を回して音の鳴る方へ振り向くと、ナギの視線の先には大きく空いた部屋の壁。その奥に驚きと恐怖が入り混じった表情のホロがいた。
崩れた壁のゴミクズを肩から払い落としながら、サキの部屋から五体満足のホロが出てきた。
「約束どおり刀と交換しますよね」
「わかった」
拾った鞘に刀を納め、今度は正直に刀を渡す。
ホロは貰ったばかりの刀を下から上にゆっくりと舐めるように見つめ、右手に握りっぱなしだったケーゾウをサキに返した。
「汚れたら風呂に入りますよね。では」
まるで何事もなかったかのようなすまし顔でホロは言い放ち、鞘から抜いたり差したりしながらそそくさと立ち去った。
「ケーゾウ、起きろケーゾウ」
『マム〜やばかったよ〜〜……』
「しゃ、しゃべったあああああ!」
部屋の大穴を見たときのショックがぶっ飛ぶくらいの声量でツッコんだ。
だが冷静になるとどんどん謎が溢れてきて頭の中をグルグルする。
(なんでサキ姉はこんなペットを持ってるの!? なんで刀と交換なの!? なんでホロさんは無事だったの!? そもそもなんでホロさんは……)
考えてもキリがない。どれだけ探そうとこの地上で答えを知る者はこの家の中にしかいないのだ。
「サキ姉ぇ! さっきのはナニ! なんでホロさんとバトっちゃってんの!?」
「ああ……多分、あちちっ!」
「サキ姉大丈夫!?」
風呂上がりまで無事だった袖はビリビリに破れ、サキの二の腕が紫色の紅葉模様に腫れていた。
「手加減してもらえたみたいだ」
「手加減って……この手形はホロさんが?」
「多分ね」
全力の振りかぶりに対応して、サキの上腕を片手で抑えるつもりだったのだろう。手の跡を見る限り速度は充分に間に合ったようだが、抑えつける力が足りずに吹き飛ばされたというわけだ。あれだけイキっておきながらなんとも情け無い。
「この指輪のおかげかな」
サキは指に嵌められた新しい指輪『偽装指輪』を見て安堵の表情を浮かべた。




