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28-1 いや、神なんて興味ねえんやが ※ステータスあり

 恐怖と虚しさと狂気が渦巻く砦に亡者の軍勢が加わった。


 亡者の軍勢は俺らの味方だ。戦意喪失した敵兵を葬り、自らの仲間に加える。その勢いは津波のように拡大して次々と敵を飲み込んでいく。亡者たちは相手が非戦闘員だろうと一切の情を見せずに襲いかかっていった。


 砦防衛勢力有利な戦況はヘンドラの死から一転し、博霊隊率いる捕虜軍団の圧倒的優勢となった。もうじき戦いは終わる。


 たった今、最後の敵兵がキングに敗れたところだ。最後まで足掻いた勇敢なダークエルフの戦士にトドメの棍棒攻撃がお見舞いされた。


 トロールたちから勝どきが上がり、砦奪還作戦はわずかな犠牲を出して成功した。


 この一戦に勝利したとはいえウカウカしてはいられない。敵が籠城戦を選択して準備したのであれば後から援軍がやってくる。


 火山エリアからか、それとも森エリアからか、あるいは両方か。

 伝達係と思われる敵は森エリアへ走ったが、確実に森エリアから来るとは言い切れない。脱走兵を出したせいで、俺らは砦で嵌められたわけだからな。

 脱走兵は砦と真逆の方向へ逃げたのに砦で罠を張られるというね。もう何が起きてもおかしくない。


 予測もつかない状況でのんびりしてはいられない。


 博麗隊の三人の育成だけに注力するなら砦を放棄し、トロール・エルフ・小人を砦に置いて移動できる。もはや籠城戦は絶望的だからこれが最善かもしれない。


 エルフ軸超大国を築くのであれば、アリルレ王女の功績を増やしておきたい。もし俺が先輩使者に負けて居なくなってしまった後、博麗隊の任務を楽にする目的ならこっちだ。


 今ならどちらかを選べる。三人の育成か超大国の地盤作りか。

 ゆっくり悩む時間はない。じきに砦が落とされたことは敵に伝わる。そうなれば敵は待ってくれないだろう。



 よし、決めた。

 三人の育成を終了し、地盤作りを優先する。どちらを選ぶにせよ。三人には砦を離れてもらう。そばに俺がいるか、いないかの違いだ。


 地球では、指定モンスターに相応しい対象者か人間だった当時の調査が終了し、審議の時期もとっくに過ぎている。その結果を受けてヤヨイさんがこっちに向かっている可能性は大いに高い。

 もしもヤヨイさんが合流した場合、試験は次の段階へ移る。そしたら俺はほぼ待機状態でいなければならない。


 それはだめだ。俺は博多ダンジョンでやることがある。何より優先したい目的があって、ここにきたわけだからな。

 仇を取って生きて帰るにしても、俺を殺す手がかりくらいは掴んでおかなければ。



 ついでに地盤作りもできたらラッキーだから。三人のことは全部ヤヨイさんに任せちゃおう。


 すぐに門の修復に取りかかり、使わない家屋を破壊してバリケードを作らせる。

 同時進行で他にも色々と準備しなければならない。

 今度はこちらが籠城戦だ。



 砦を奪還した夕暮れに宴を開いて戦勝を祝う。


 今回はキングとアリルレに花を持たせて、幹事は俺が担った。


 敵の援軍がいつ到着するともわからない状況で、悠長に宴会している場合ではない。とはいえ、こういう息抜きをやるかやらないかが、今後の士気に大きく影響する。



「砦の防衛は亡者に任せて、俺たち生者は楽しくやろう! では此度の勝利を祝って! かんぱーい!」



 砦で追加された捕虜のエルフと小人も交えて賑やかになった会場。

 トロールがエルフのコップに酒を注ぎ、エルフが小人のコップに酒を注ぐ。種族の壁、捕食者と被食者の壁、ダンジョンモンスターと在来種の壁を超えて、みんな仲良くやっている。


 そこに壁はない。美しい光景に感動しながら、空っぽのビールジョッキ片手に会場を歩きまわる。


 即席とは思えないほど素晴らしい宴会だ。俺が近寄るとみんな離れていってしまう。みんな意気投合している。素晴らしい空間だ。



 誰か、俺に追加の酒を注いでくれないか。



 時が経ち、ビールジョッキの底に溜まったわずかな酒を舌の上に落とす。

 この酒は美味い。結構好きな部類だ。エルフ製と思われる酒は新感覚の味で面白い。


 飲むと喉の奥で炭酸の泡が弾けてハチミツの香りがする。苦味と酸味が薄く、水分と甘みが多い。市販のスパークリングワインよりアルコール度数が数段低く、例えるならハチミツで発酵させたブドウ味のスパークリングジュースという感想だ。


 エルフの村でブドウ畑は見られなかったが、天然の物を使用しているのだろうか。


「お飲み物はお気に召したでしょうか?」


 急に横から現れたアリルレに問いかけられる。アリルレの侍女オリビアによってビールジョッキに新しい酒が注がれ、一気に飲み干した。


「うまい! これは何の素材で作ってるんや?」


「はい。原料は蒸留した川の水。キラービーの蜂蜜。山に自生する赤紫の実でございます。私たちはその実をブドウと呼んでおりまして、秋の始めごろに採取したものを酒造に使っています」


「やまぶどうみたいなもんか……」


「秋の終わり頃になると落ちたブドウが乾燥するのですが、この干しぶどうがほっぺたが落ちるような甘さで私の大好物なのです。毎年、今頃の時期にオリビアと干しぶどうを拾いに行っていました。ぜひケー様にも食べていただきたいですわ」


「俺も食いてぇな」


「アリルレ様、たしかこの辺りでブドウのツルを見た覚えがあります。使者様と拾いに行ってみてはいかがでしょうか」


 まるで俺の答えを待ってましたかのようなオリビアのアシストパス。

 ボールを受け取ったアリルレがゴールめがけて、下からあざとく見上げてきた。


「ケー様、来ていただけますか?」

「敵が近づいてるかもしれんのやぞ。わかっとんのか?」


「そうですよね」


「だからさっさと採りにいって、宴が終わる前に戻ろう。俺はブドウについて詳しくなかけん。見つけるのはアリルレに頼むぜ」


「えっ! はい…///」


「アリルレ様、この辺りの地理はわかりませんが、ブドウは山の奥地でよく見かけます」

「ありがとうオリビア」

「いいえ。無事に帰って来てくださるのであればオリビアは構いません。使者様から離れないでくださいませ」



 博麗隊の三人に宴会から抜け出す旨を連絡しておき、俺が抜けた間の砦の留守を頼む。


「せんせーい。なんか雰囲気変わりましたー?」

「気持ち悪いくらい柔らかくなったな」


「気持ち悪いはなかろうが。先生やぞ俺」

「先生。すごく変わった。恐くない。おかしい」


 なんか、三人が怪しいくらいニヤニヤしとるが酔っとんのかな。


「ユーキちゃん酔ってんの?」

「酔ってなーい」


 そういや成人してるのはサキさんだけか。アルコールはほとんど感じなかったが酒は酒。今日が初めてなら、ハナマルくんとユーキちゃんが酒に飲まれて気持ちよくなるのも仕方がない。短い間でも砦を任せて大丈夫なのか心配ではあるけども。



 博麗隊と別れ、アリルレと砦を抜け出す。砦を出てからは会話もなく、薄暗い森の中を方角も定まらないまま静かに歩いている。


 少しずつ山の方から離れているわけだが、アリルレは何も言わない。案内してくれるんじゃねぇんかい。


 このまま沈黙を続けてもいいが、どうやら俺が切り出さないと一生沈黙が続きそうなんで、仕方なく話題を振った。


「あっちとそっち、どっちの山に行くんや?」

「私たちが暮らしていた村があっちの方角ですから、あっちの山に行きましょう」


「案内頼むわ」

「お任せください」


 よかったよかった。謎の遠回りになったけど当初のルートに戻った。


 アリルレはどうやら俺の指示を待っていたらしい。来た道を引き返し、山に入っていったアリルレを追いかける。


 アリルレは暗闇の中でも空間を把握できるようで、木の幹や枝や根を足場にしてジャンプ移動している。


 失望されそうでとてもアリルレには漏らせないが、同じやり方ではついて行くのがやっとなんだわ。


 触手を木々に伸ばして、体勢を安定させながら移動する方法に切り替えた。



 トロールの砦は山と山の間に挟まれており、山を越えると隣り合うように別のトロールの砦が配置されている。

 これはダンジョンの設定で編集された地形であり、大陸の端から端まで連なっている。砦と山脈はエリアを区切るための境界線でもある。


 火山エリアへの行手を遮るトロール砦だが、山を迂回することでエリアボスのトロール軍団と戦わずに火山エリアへ抜けることができる。ただし、その場合はトロール軍団と戦うよりもツラい道のりとなる。


 それこそアリルレのように木と木の間を飛び回れるなら突破も楽だが、人間の能力では歩くのもやっとだ。

 ダンジョンの山には舗装された道なんてものが無い。そして火山エリアに近づくほど足場が険しくなる特徴がある。境界線沿いの山は森エリアとは言わず、博多ダンジョンで最大の難易度となるだろう。


 境界線沿いの山は急な斜面や崖が多く、常に地面が湿っていて滑りやすい。一度足を踏み外して滑り落ちれば、エルフが矢尻に使うほど鋭い鉱石がその身を突き刺すだろう。


 加えて足もとが不安定な中で大顎猿や巨大狼に襲われるため事故に遭いやすく、登山による森エリア突破は全く推奨されない。



 そんな危険な山をハイペースの登るアリルレ。見失わぬよう追いかけるのが大変だ。

 途中、わざと大顎猿の手前を横切って挑発したり、底が見えない亀裂の間を飛び越えたり、わざわざ困難なルートを通ってブドウを探していた。


 案内役を買ってくれたのに、案内しようという意思がまるで感じられない。後ろの俺を確認しないし、ついてこれなければ置いていくと背中が語っていた。あのスピードについてこれるか、俺の力が試されている気がしたくらいだ。


 戦闘力が低いのに何故こんなにも速いのか。その速さの秘訣をアリルレのステータスから探す。


──────────────>


【LV.4020】

【種族】ヒト

【重さ】     40

【戦闘力】MAX:10040

【タフネス】   9040

【魔力】     12980

【スペック】

『限界到達者』『カリスマ』


〈スキル〉

〖射手王〗〖風魔王〗

〖光魔王〗〖回復魔王〗

〖魅了〗〖高速思考〗

〖威風堂々〗〖不老〗

〖威光〗


──────────────>



 アリルレの戦闘力は博霊隊の三人よりも低い。なのに間違いなく三人よりも足が速い。おそらく風魔法か光魔法かによる身体強化魔法がかかっているのだろう。


 エルフは地球人よりも戦闘力の限界値が低い分、魔力に上方補正があり魔力の操作に適した体組成になっている。


 研究機関の強い要望に応え、数々のサンプルを送ったおかげで得られた情報だ。政府内でも内閣にしか明かされていない非公開情報であり、まだまだエルフの身体の謎は多い。


 いや違う。エルフだけじゃなく人間の身体も謎か。生まれてこのかた人類は何ひとつ答えなんか見つけちゃいない。二つの世界には謎しかない。


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