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27-2 ですから、夜這いにございます

 砦奪還作戦を実行する前に、参加者を村の中心に集めて作戦の最終確認を行う。

 こちらにはトロールがいるのだからしつこくチェックしておいた方がいい。



 いくつもの敵拠点を陥落させ、増えた仲間を数えると総勢60名の戦力となった。


 トロール25、エルフ25、小人6、博霊隊4。


 増えたヤタガラス衆を加えると100を超えるが、直接戦闘をしないため戦力には数えていない。


 加わった捕虜の多くは女子どもであったため、実際の戦闘力は見かけの数字より数段落ちるだろう。


 落ちるとはいえ主戦力のトロールは一度に複数の敵を相手にできる。


 エルフは年齢性別関係なく魔法と弓術が得意とのことで、遠くからトロールの援護ができる。


 小人は小さな体格とすばしっこさを活かして工作に使える。小人には一人一人に俺の手持ちから手榴弾を複数個持たせており、足りない火力を補っている。



 砦奪還作戦の内容は簡単。まずはトロールが荷車を引いて補給係を装い、敵の方から門を開けさせる。

 侵入に成功したら、小人が荷車から飛び出して門のまわりを破壊する。森に待機させたトロールを突撃させ、エルフは高所を取りつつトロールの援護を務める。


 これら全ては陽動であり、本命の博霊隊が城壁の裏手から城内へ侵入し、城館に忍び込んで敵を一掃する。



 言うは易く行うは難し。突撃したトロールが半数以下まで削られるとエルフが判断した場合は、砦奪還を諦めて、森に配置した荷車を雌トロールに引かせて散り散りに撤退。


 追撃者への対処はエルフが荷車の上から矢を放って迎撃する算段だ。揺れる荷車の上でも、正確に射撃可能なエルフにしかこの役目は務まらない。後々の陸上戦にも使えそうな戦術だ。


 ほとんどの戦力を正面に集中させているため、相手に動きを読まれたら全滅するだろう。一応、砦周辺に伏兵が隠れていないか調べ、伏兵の存在が確認されたら砦を諦めて連合軍本陣まで退く予定ではある。


 いよいよ行軍開始。


 砦までの移動は荷車で行う。博霊隊を乗せたキングの荷車を先頭にして25台が進む。トロール以外は全員荷車に乗車して、外から見えないように隠れている。


 大勢の足跡を残しながらの移動は足跡が見つかった場合のリスクが大きい。


 トロールとエルフと小人の足跡だけが残っていれば敵は怪しむはずだ。不自然すぎる。


 その点、普段から軍需品の補給ルートを通るトロールと荷車の跡だけならば、砦周辺をパトロール中の敵に見つかっても行動が読まれにくいだろう。


 25台の荷車が一列になって補給線を辿る。もうすぐ砦だ。城壁から見えない辺りで15台の荷車を放棄。

 ここからは伏兵を探しながら怪しまれないように進む。


 伏兵はいなかった。城壁そばの森にトロールたちとエルフたちを隠れさせる。

 雌トロール9匹と荷車9台をその奥に待機させる。


 キングの荷車にダークエルフの死骸と小人を乗せ、俺たちは離れた。

 城門を開けるまではキングの荷車だけ行かせる。


 作戦開始だ。


 総勢44羽となったヤタガラス衆を先行させ、砦内のヤタガラスを取り込んでもらう。


 俺たち博霊隊は城壁をまわり、騒ぎが起こるのを待つ。


 ドドーン!


「小人が門をやったな。博霊隊出陣じゃ!」

「「「おう!」」」


 城壁に飛び乗って城内の様子を見る。


 城内には武装したモンスターがうじゃうじゃいた。

 思っていた3倍の敵戦力が砦に集まっていた。


 どうやら相手は馬鹿じゃなかったらしい。俺たちの目的を砦奪還と読んで人員を増やしていたようだ。


 俺らはわざわざ敵の罠に飛び込んだってことか。トロール達をわざと砦に招き入れて全滅させる気だな。


 作戦前に砦周辺を探らせていたが、敵の伏兵は見られなかった。伏兵がいたら撤退するつもりだったのに。トロール相手に奇策は必要ないってか。


 やはり敵幹部を逃したのは痛かったか。そのままにしてきた村々はおそらく敵に奪い返されているだろう。村を出るときに兵糧庫を空っぽにしておいたが、どれほど効果があったかはわからない。


 敵が砦の襲撃に備え、援軍を村々に配置している可能性は高い。

 

 おそらく退路は塞がれているだろう。迅速に砦を落として籠城戦に切り替えなければならない。


 トロールとの乱戦を抜け、砦の外に走っていた奴らもいた。おそらく伝達役だろう。撤退しても挟み撃ち、作戦が長引いても挟み撃ちにあう。


「ほぼ詰みやな」


 悔しいが最終手段で俺の力を使う必要がありそうだ。三人にとっていい経験になるかと思ったのに失敗した。


「さっさと城館に忍び込んで砦を落とすぜ。早く行動しないと全滅する」

「「「はい!」」」


 60羽になったヤタガラスが上空を旋回し、その中から数羽が俺のもとへやってきた。


「ヤタガラス! 撹乱頼むぜ!」

『カー! カー!』


 ヤタガラスに命じてから博霊隊も動き出す。


 城壁を飛び降りて城内に侵入し、目についた獲物から素早く仕留めて移動する。止まらなければ追いつかれることもない。


 そこらじゅうで角笛が鳴っているが気にしない。陽動作戦のおかげで城館の警備は薄くなっている。角笛を聞いた兵が城館に戻ってくる頃には幹部の首が落ちているだろう。


 城館内の敵はほとんど出払っていて、門番を倒したら中はガラガラだった。巡回中の兵士は数えるほどしかおらず、戦略会議室の衛兵を倒したら簡単に幹部たちと会えた。


「よお! やってるかい?」


「曲者じゃあああああ! であえー!」


 室内の隅で待機していた城エリア級の近衛兵が動き出す。こいつらは三人に任せるとして、俺は幹部たちの首を次々に落としていく。


 最後に残したヘンドラという名の幹部を人質に取り、怯んだ近衛兵を三人に始末させた。


「くううう! 異形の蕃神(ばんしん)め! 地球へ帰れ!」

「ほうほう。このダンジョンの持ち主である俺に逆らうとはいい度胸やな。いったい誰に吹き込まれたんや?」


「真の神々だ! 元から我々の土地に有らせられる真の神々だ! 神々はお前を許しはしない!」


「それは偽りの神々や。この世界において神は唯一なる者。俺は偽りの神々に罰を与える役目を負った神の使者なんよ」


「戯れ言を!」

「信じてもらわんでよか」



 騒ぐヘンドラを引きずり、城館の屋上を目指す。


 トロール専用の城館は全てがトロール基準のサイズであり、広く、長く、高い。階段の一段さえも腰の高さまである。


 通常サイズでの移動は時間がかかると判断し、トロールの1.5倍ほどの大きさまで巨大化する。背伸びしたら天井に手が届くようになった。


 大きくなれば隙間も増えるため、ヘンドラの腰に触手を絡ませて逃さないようにする。


「城館クリアや。こっからは俺ひとりでよか。三人はみんなの加勢に行ってくれるか」

「「「はい!」」」


 正面のトロール、背面の博霊隊。加えてエルフの援護射撃があれば、敵の隊列を崩して戦力を分散できるだろう。

 数では圧倒的に劣るが、敵の士気を下げれば逆転のチャンスがあるかもしれない。


「獣戦神のとこで逃げた幹部はおめぇか。今は誰の指示で動いてんの?」


 こいつには何らかの魔法がかけられていて、頭の中を覗こうとすると妨害される。先輩使者の仕業だろう。どうやら直接情報を喋らせるしかないらしい。


 だがラッキーなことにこいつは口が軽い。少し脅しただけで名前を吐いたしな。

 本名かどうかの確証はないが、会議室にいた他の奴らの記憶は読めている。日常で使っている名前なのは間違いない。

 

「お前なんぞに話してたまるか……いだだだだ! 話します! 話しますから! ヒゲを引っ張らないでください!」


「このあとおめぇは死ぬ。それは決定事項や。ただし、その首にヒゲが残るか残らないかはおめぇの返答次第だぜ。笑われたいなら雑に抜いちゃるけんな」


 ヘンドラには板垣退助みたいな立派な髭(ひげ)が生えている。長いこと世話してきた大事な髭のはずだ。


「抜かないで! お願いします!」


「じゃあ言え。おめぇらに接触してきた神はどれだけいるのか」


「よ、4柱にございます! 


 生命神アンカーネ様、魔海神エンカナロア様、

 獣戦神ザババクー様、豊穣神ロノイナンナ様


 です! 他にも沢山来られたそうです! あなた様は終わりです!」


「この辺にはあと3人か。戦い専門じゃなきゃいいがなぁ」


「へ? あと3人?」

「獣戦神は殺した。強かったぜ」

「へ……?」


 それ以降、ヘンドラは涙を流して声を発しなくなった。髭を毟(むし)っても無反応。生きたまま死んでいた。


 エルフ・小人と同様にダークエルフは在来種であり、ダンジョン由来のモンスターではない。


 この土地に根付く神が殺されたと聞けば放心しても無理はない。神を偽ったとはいえ、先輩使者達がマナガスの者どもから信仰されてきたことに変わりはない。

 その神々と接触した敬虔(けいけん)深い信者なら相当強い愛着があるだろう。その喪失感は絶大だ。


 ヘンドラの気持ちは俺にもわかる。俺も天皇陛下を失ったばかりだからな。


「安心せえ。死んだ使者は100年後に蘇らせてもらえるらしいからよ。消えてなくなったわけじゃない。本当の神様に感謝しろ」


 声を失われたら困るんよ。

 これから公開処刑するんだからさ。ちゃんと生にしがみついてもらわないとさ。


 城館の屋上についた。砦の城内では今も戦闘が続いている。


 大勢を相手取っても博霊隊からは一人も欠けておらず、トロールも被害は軽微。多少の犠牲を出しながらも大きな活躍をみせるのはエルフ達。


 エルフ達は城壁の上から矢を斉射する長弓隊と、城内にある家屋を屋根伝いに飛び回って矢を射る短弓隊の二手に分かれて行動し、戦場の戦力を一ヶ所に集めないように撹乱している。


 しかしこのまま戦闘が長引けば、敵の援軍が到着する前に俺らは敗北するだろう。


 相手は数が多く、武器も豊富。対して俺らは火力が貧しく節約しながら戦っている。メイン火力のトロールが削れたらドミノ倒しのように崩れていくだろう。


「敵将討ち取ったりー! 遠からん者は音に聞け! 近くば寄って目にも見よ! これよりヘンドラの公開処刑を始める!」


 戦闘中の兵士はさほど反応しなかったが、ほとんどの非戦闘員は目に見えて落胆していた。士気は順調に落ちている。


「そしてこれが! おめぇらが信仰する戦の神の首だー!」


 獣戦神ザババクーを模した生首を触手に吊るしてぶらつかせる。本物の首でやりたかったけど黒紫食いしちゃったからもう無い。


 非戦闘員だけでなく、戦闘していない兵士も気付いたのか武器を捨てて崩れ落ちた。


「なにか言い残したいことはあるか」


 ヘンドラは正気を取り戻していた。俺のメンタルケアに効果があったみたいやな。


「お前には必ずムカエル様の天罰が下る。お前が来るのを地獄で待っているぞ」

「ほんじゃあ地獄に行ったら探しに行くわ。じゃあな」


 巨人のように大きな右手でヘンドラの脇を強く掴み、脇から下を左手で掴む。

 左手をゆっくりと回転させ、下半身を捻じ切るように引っ張っていく。皮膚が剥がれる前に服が破れて落ちていった。



「ぎゃああああああ! いぎぎぎぎ……」



「キャー!」「ワー!」「イヤー!」



  ブチブチィッ……!


   ブチブチブチブチッ……!



 筋肉の断裂音が徐々に増えていく。

 絵の具のチューブを絞るようにヘンドラの体を捻(ねじ)っていき、股の間から汚物が螺旋を描いて地上へ振り撒かれる。


「ぴぎゃああああああああああ!」


 ヘンドラの悲鳴は戦場まで届き、処刑を見た者達の叫び声が連鎖する。徐々に戦闘音が薄れていくのを感じた。


 戦意喪失した敵兵たちにトロールの棍棒が打ち込まれ、あちらこちらで狂気がうまれている。


 ヘンドラの血で指が滑ってしまって、握りやすい位置を探りながら徐々に握る力を強めていく。ついには胴体の表面がブチンと千切れた。

 千切れた勢いで指が滑って、ヘンドラの頭部を背骨ごと引っこ抜いてしまった。


 狂ったような絶叫がここまで届く。

 敵味方のどちらからも意気消沈した兵士が出ており、唯一トロールの進撃だけがペースを上げていた。


 相手の士気はガタ落ち。このまま押し切れば勝てる。


 狂気は満ちた。恐怖が怒りに変わる前に決着をつける。


「〖墓守〗発動! 死より蘇れ敗北者たち!」


 スキル〖墓守〗の効果は固有ダンジョンの作成。範囲内の死者を復活させ、操れる。


 このスキルの最大効果範囲は管理していた墓地や霊園と同等の高さと広さになる。俺が管理していた朝倉ピラミッドなら砦くらいスッポリと覆いかぶせる。


 墓守の効果範囲を砦全体に設定し、蘇生条件を砦奪還作戦で死んだモンスターに限定した。


 ヘンドラの背骨が粋のいいウナギのようにバタバタと暴れている。屋上から放り投げたら、ヘンドラは空中を泳いで昔の手下に噛み付いていた。



 固有ダンジョン作成スキルは〖墓守〗だけのものではない。


他にも〖結界士〗〖時計職人〗〖地図士〗

   〖航海士〗〖気象予報士〗〖自宅警備員〗

   〖城主〗〖創造者〗『天使』『悪魔』

   〖魔術王〗〖奇術王〗〖暴食家〗などなど。


 固有ダンジョンを作成するスキル・スペックはいくつもある。ただし、強力なスキルゆえにそれぞれリスクが大きいというデメリットがある。


 魔力消費量は莫大だが神パワーならそれら全てをデメリットなしに再現可能だ。


 今使用した〖墓守〗は神パワーを経由せずに、スキルの取得条件を満たして自力で獲得したデメリットありのオリジナルだ。


 何故わざわざ使いづらいオリジナルの〖墓守〗を使用するのか。

 それは〖墓守〗のデメリットが俺にとってのメリットだからだ。



 戦場の至る所で虚な目をした死者たちが起き上がる。


 彼らは生に執着し、生を求めて襲いかかった。生前と比べ、その握力は実に10倍。掴まれたらもう噛まれるしかない。



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