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25-2 将たる者、勝ち目のない戦いに挑むな ※条文あり

ステータスを比べやすいようにサブタイトルに※をつけました。ご不便をおかけして申し訳ありません。

「ケーちゃん先生。今日はどうしましょう」

「幹部クラスが1匹やられたことに気づけば敵も対応してくるやろうし、このまま勢いを落さずに魔王軍の戦力を削るのが得策やな」


 三人の表情を見ると異論はないように見える。しかし頭の中を覗くとハテナマークが浮かんでいた。


「なにか意見があれば聞くぜ」


 三人とも口を開かない。そもそもどんな行動が最適なのかすら考えていないようだった。指示待ちは楽やな。俺もそっちに行きたいよ。


「俺らの強みは機動力や。とりあえず今日は火山エリア付近まで移動するぜ。何ヶ所か敵陣を横切ることになるやろうけど手を出さずに迂回すっぞ。移動先を敵に悟られないよう後方にあるトロール砦を強襲する」


 博霊隊の目的は一貫して神出鬼没のゲリラ戦だ。ゲリラ戦において、敵の警戒が緩いところから攻めるのがセオリーなのは理解している。


 しかし、ここはリスクを取ってでも戦況が動かない今のうちに火山エリアと森エリアを繋ぐ砦だけは抑えておきたい。


 危険を冒す理由は情報不足だ。サーズから敵の正体は知れたものの、未だ敵戦力の全容を掴めていない。今の調子で少しずつ敵陣の数を削るのも悪くないが、火山エリアから全軍で攻めてくる可能性が捨てきれない以上、行軍の中継地となる砦は抑えておいて損はない。


「ほんじゃあ、気を引き締めて行こう」

「はい」「おう」「うん」



 これから長い移動になるわけだから、移動しながらでも指定モンスターに関わる最低限の法律を教えようかと思ったら、思いがけない答えが返ってきた。


「そんなのもう三人とも暗記してるよ」

「え、どうやって?」


 法律を記したレジュメは俺が亜空間に収納している。他に知る手段は手元に無いはず。


「これだよ」


 サキさんが取り出したのはスマートフォン。電源が付いている。


 おかしい。なぜ電波が立っているんだ。しかもWi-Fiまで繋がっている。


 電波塔のある草原エリアまで行けば、地上と連絡を取ることもネットに繋ぐこともできる。しかし、ここは草原エリアではない。


 電波塔の性能が上がったのか?


「どういうことや。もっと具体的に言ってくれ」


「スマホで法律を探して覚えたんだよ」


「それはわかるぜ。なんで電波きてんの。しかもWi-Fiまで」

「それはこっちが聞きたいよ。ほら」



 そう言って見せてきたのはスマホの設定画面。




────────────────────

<設定   Wi-Fi

…………………………………………


 Wi-Fi          [オン]

…………………………………………

ネットワーク


✓ケースマイルダーク       [オン]


────────────────────




「なんやこれ。誰のや」

「アンタのだろうね」


 俺はモバイルWi-Fiルーターを持ってない。


 亜空間から自前のスマートフォンを取り出して確認してみる。

 すると、ネットワークパスワードの入力画面も出ずに自動接続された。



 え、なにこれ。フリーWi-Fiなんだが?



「アタイらは異次元レベルのルーターなんて持ち込んでないからケーさん発信なのは間違いないね。発見したのはハナマルだよ。行く先々でアンタの写真を撮ってると思ったらネットに接続できててさ。


 あと、ほら、こうやってスマホをアンタに当てると充電までできる」


 サキさんのスマートフォンの電池が98%→100%に増加した。嘘は言っていないようだ。


 えーと、つまり俺本体がなんらかの手段でインターネットと接続して、Wi-Fiを飛ばしてるってこと?


 え、なにそれ超便利。


 ちゃんとWi-Fi7だろうな。低スペックは嫌やぞ。 


「なんやこれ。俺も知らない能力やぞ。いつからこんなんなってたんだ。通信料金タダ乗りじゃねーか」

「そのへんの謎は置いといて、ネットで検索すれば法律は学べるだろ。長々と授業受けるのはダルいし、ケーさんが寝てる間に覚えられることは覚えておこうと思ってさ」


 なかなか勤勉家やな。ほんじゃあ、ちゃんと成果が出ているのかテストしないとな。


「ハナマルくんに問題です。指定モンスター法、その第一条は?」


「この法律は指定モンスターの行動及び権限、指定モンスターの任命権を定めることを目的とする。ですよね」


「正解。第二条は? ユーキちゃん」


 その後もローテーションしながら法律を確認していく。

 俺自身は覚えてないんで、レジュメを見ながら答え合わせした。




────────────────────


〘この法律の目的〙

第一条 この法律は、指定モンスターの行動及び権限、指定モンスターの任命権を定めることを目的とする。

〘指定モンスターの任務及び権限〙

第二条 指定モンスターは、任務の遂行に必要な武器を保有することができる。

第三条 指定モンスターは、任務の遂行にあたり日本国憲法及び本法を除くあらゆる国内法の効力を受けない。

〘指定モンスターの任命権〙

第四条 指定モンスターの任免、懲戒に関する基準は天皇が定める。

第五条 指定モンスターの代表は、現存する最古の指定モンスターが資格を有し、天皇又は内閣総理大臣によって任命される。

第六条 指定モンスターの代表の同意をもって天皇が定めた基準の下に任免、懲戒することができる。

第七条 指定モンスターは、指定モンスターの代表に絶対服従を原則とする。


────────────────────




 任免の細かい基準については別の指針がある。


 懲戒免職は実質あの世行きだから、三人にはその基準から外れて欲しくない。絶対に外れて欲しくはないが、任免に関する指針の詳細を知られるわけにはいかない。


 指定モンスターの人外な強さは人間社会にとって脅威であり、デリケートな問題を数多く抱えている。


 特に多いのは国民からの異議申し立て。書類にして並べると東京ドームひとつ分ある。

 怪物との共存を上からの圧力で認めさせられた形だから国民の不満は大きい。俺だって同じ立場ならそう思う。


 俺の活躍でガス抜きできていたが、人間というのは忘れっぽい。成果をあらわさない日が続いた今、日本で俺への誹謗中傷の声が高まっていてもおかしくない。


 弱者の声も集まれば強い力となる。国民の生活が指定モンスターによって崩されれば、集いし弱者の大声によって指定モンスターの立場も容易に崩れるだろう。それができるほど国民の声には力がある。




 だからこそ任免に関わる指針は見せられない。指針の穴をすり抜け、基準をクリアしたうえで悪事を働かれたりすれば俺も手出しをできない。


 博霊隊のみんなには、あるかもないかもわからない指針に警戒してもらい、心優しいモンスターに育って欲しい。


 指定モンスター制度を国民に信じてもらえるように。



「条文には書いていないが、絶対に覚えていて欲しいことがある。それは指定モンスターとなれば常に任務中と位置付けられるということ。


 第三条にあるように、任務遂行中の指定モンスターを警察は拘束できない。


 指定モンスターは公務員ではないから憲法99条に則り、憲法を守る義務もない。俺らに対して本法以外の法律は無効になるため、国は指定モンスターへの罰則に関与しない。


 逆に言えば、俺らの被害を受けた一般人を国は守らないということ。俺らのせいで大事なものが壊れても、被害者は泣き寝入りしなければならない。


 そんなの人間として許せるわけないやろ?


 だから俺が裁く。


 社会規範を外れようものなら、刑務所なんて行かずに指定モンスター調査会の審査に入れられるから覚悟するんだぜ。

 審査の結果で陛下の機嫌を損ねたら俺が直々に処分する」


「天皇陛下の機嫌次第ですか……」

「今はやめときな。ちゃんと話を聞くんだよ」


 ダンジョン内では自由にしていいが、地球に出れば気を引き締めてもらわないといけない。常に監視されるのは窮屈だろうけど、人外の力はそういうデメリットも一緒に抱えるんや。


「ダンジョンから出て、一番気をつけなきゃなんねぇのは自分の中の正義の心や。その心について否定はせん。しかし誰かを力尽くで救おうとしたとき、新しい被害者が生まれるってことは覚えておくんだぜ」


 正義の心を振りかざして死んでいった俺の元生徒たちがいた。彼らを誇りに思いつつも、残念な気持ちが蘇ってくる。


 悪党どもの所業がどれほど残酷な悪意に充ち満ちていても、それを力尽くで止めてしまえば罰を受けるのは俺たちだ。

 我が国には悪魔の味方をする優しい国民が多い。社会が狂っているのなら、狂った悪魔ように振る舞って辻褄を合わせるしかない。


 共同体における正義とは、多数派に都合が良い秩序ってわけだ。


  俺は過ごしやすいけど、みんなはどうだろう。


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