25-1 将たる者、勝ち目のない戦いに挑むな ※ステータスあり
魔王軍の占領から解放したエルフ小村に夜の帳が下りる。村で一番大きな屋敷の大きな部屋にて一人の夜を過ごすことにした。
季節は真夏、本日は熱帯夜。窓を開けて風を呼び込んだ。暑苦しい室内を冷やすように血生臭い風が循環する。
薄汚れたベッドに腰掛け、胸いっぱいに新鮮な空気を吸い込んだ。
「ふぅー。いい夜やな。ここにはうるせえ蚊もおらんしな」
ダンジョンには自衛隊や俺が集めた図鑑にも載っていないモンスターが数多くいる。特に虫系は多すぎて危険とされる大型モンスターしか載せていない。
載せてない情報の中にウイルスの運び屋とも言われる蚊に似たモンスターもいるが、地球より小型で主に渓谷エリアにしか生息しない。
ウイルスもモンスター扱いであり、ダンジョンゲートを通った際に死滅するため、定住しない限りは脅威ではない。
後々、ダンジョンに人間が住む時代が来るかもしれないし、情報としては残しているが直ちに脅威はないため図鑑には載せてない。
「人類が移住する日が来るまでは頑張らんとな。未来の子どもたちのために」
模範的強者の育成。ダンジョンの征服。圧倒的脅威の排除。
陛下から直接頂いた3つの勅令を胸の内で復唱する。こうしてる間は孤独が薄れる。仕事モードを継続させられる。
コンコン。静謐な空間を濁すように部屋の扉がノックされた。屋敷内には博霊隊しかいないから三人のうちの誰かだろう。
「入っていいぜ。ユーキちゃん」
「透視能力もあるん?」
扉を開けて入ってきたのはやっぱりユーキちゃんだった。来訪の理由は大方予想がついている。
「夜這いに来るなんて積極的やな。こそこそしなくても俺はいつでもウェルカムだぜ」
「ちがーう!」
来訪の理由は予想通り魔石融合の相談だった。ユーキちゃんは他のモンスターと比べればかなり上位に位置する。しかし博霊隊の二人と比べれば数段劣る。二人に追いつきたいと悩んでいるのだろう。心を覗かなくとも『助けてサイン』は見てとれた。
ユーキちゃんは二人と比べてステータスが5000ほど低い。
さらにハナマルくんには〖退魔の鱗〗という戦闘力・タフネス・魔力倍増の強化能力があり、サキさんには〖火炎のオーラ〗という防御力無視の破壊能力がある。どちらも格上相手に通用する能力だ。ユーキちゃんはそれを望んでいた。
「そっかあ。でもユーキちゃんには〖回復魔法LV.10〗があるやんか。すごいことだぜ。人間には魔法が使えないんやからな」
「それが魔力が足らんくて全然意味なかったい。今日の戦闘みたく、敵はオラば真っ先に狙っちくるし。戦闘中に傷ば治すと二人さ喜んでくれるけんど、そんかわりオラはバテるし」
「もうちょい方言と訛りを抑えろ。おめぇ3ヶ月もなにやってたんだ?」
「ひぃ」
「自分らしく振る舞うのはええけどな、俺が出した課題は守ってくれんと困る。
方言を捨てろとは言わん。練習と思って俺の前では万人に話すつもりで話してくれよな。意思疎通ができないモンスターを世に放つわけにはいかんのや。わかったか?」
「はい……ごめんなさい……」
「よしよし。これから変えていけばええんや」
反省しとるようやし今回は見逃しちゃろう。俺もバリバリ方言使うとるしな。
ユーキちゃんに言ったこととは真逆やけど、圧倒的に強けりゃ意思疎通できんくてもええのよ。俺より強けりゃあな。
「明日の出発を遅らせれば今からでも間に合うぜ。魔石食っとくか?」
「食べたい」
ユーキちゃんの要望通り、魔石をもう食べられないって言うまで食べさせた。
そして今回は特別に俺独自の奥義を伝授したい。ユーキちゃんは死者蘇生しても魂が傷つかない『輪廻者』という謎のスペックを持っている。
後々、俺無しで魔石を食べる機会が来るかもしれんし、効率よく強くなりたいなら絶対に必要な奥義だ。
「よし。ほんじゃあベッドに座れ。コツを教えちゃる」
「え、このベッドに……」
嫌々ながらユーキちゃんはシミ付きベッドの上で胡座を組んだ。これから伝授する奥義は坐禅による融合誘導。俺を何度も助けてきた技術だ。
ただ、ユーキちゃんは坐禅のド素人やからイメージすら掴めないと思われる。そこで用意したのが……
「絹ごし豆腐や。これを頭に乗っける。落としちゃダメだぜ」
「え、それ、どこから」
有無を言わさず頭に乗せると大人しくなった。絹ごし豆腐は底の面積が大きいから多少揺れても落ちにくいが、水分が多くて些細な力でも崩れやすい。
「目を瞑れ。染みるぜ」
「はい……え、なにかけとんの!?」
「醤油や」
「これ冷や奴? 頭の上で?」
「しっかり感じろ。絹ごし豆腐の重みと醤油の流れを。そして醤油を肌の内側に吸い込むイメージを保つんだぜ」
ドボドボと醤油をかけ続ける。もうベッドが醤油まみれ。九州の甘口醤油で良い香りや。
1時間もユーキちゃんはこの辛い修行に耐え続けている。舐めても美味しい甘口醤油とはいえ、浴びつづけたら辛くなるというのにだ。
飽きて眠らないよう、融合誘導に必要なイメージを繰り返し言い聞かせる。
「流れを感じ取りながら、イメージは常に骨と臓器。まずは魔力袋を作るんや。俺と同じステージまでは無理でも、一晩で二人に追いつけるはずだぜ」
醤油をかけ続けて3時間。まだ変化が来ない。坐禅中は魔石融合の進行が遅いしな。上手くいってる証拠でもある。
さらに3時間経って6時間。まだ変化は来ない。ユーキちゃんは途中で居眠りしたが、ワサビを鼻につけるとすぐに目を覚ました。
醤油には飽きたので、今はカツオ節をかけている。香ばしくて非常に食べたい。
頭の上で出来上がった美味しい豆腐を食べ、味つけされたユーキちゃんの顔面をペロペロ舐めていると8時間が経過した。融合の兆しが見えないまま、ついに魔石の適合試験の時間が来た。
「うぐぐ……うっ」
坐禅したまま死んだユーキちゃん。ご遺体の前で手を合わせる。
「ご臨終です」
服から下着まで醤油でびしょびしょ。エルフに貰ったであろう質素な民族衣装を全て脱がし、ベタついた体を丁寧に拭いていく。
赤子のようにスベスベの肌。黒ずみのない乳。使われていない綺麗な恥部。
モンスターとはいえ見た目は若い女や。最高にエロい。
わざわざ手作業せんでも神パワーでパパッと綺麗にできるけど、こんなの滅多にない機会なんで真心込めて拭いていく。
せっかくやから生やしっぱなしの無駄毛を処理するついでに全身永久脱毛する。女の子はこういうの気にするもんな。
各部屋に必ずある風呂場にユーキちゃんを連れていく。温泉水が貯まった浴槽からお湯をくみ、頭からかぶせると髪の毛の色が変わった。
「死んだままでも融合するんか。こりゃあ新発見やな」
ユーキちゃんの頭にお湯をかぶせる度、米のように透き通る白髪があらわになっていく。白髪に続いて顔についた醤油とカツオ節が流れていく。そして現れたのは、更に美しくなってまるでお人形さんのように整った顔だ。このまま遺体を持って帰って実家に飾りたいくらいだ。でももうちょっと俺好みの髪型にしたい。格好もそのままじゃ物足りない。
汚れた民族衣装は捨てて新しい防具を見繕う。頭から足の先までコーディネートしていくと着せ替え人形みたいで楽しい。素材はもちろん不滅な俺由来。色彩センスがないから色は白で統一。一生ものをプレゼントするぜ。
新生ユーキちゃんを椅子に座らせ、カツオ節と醤油まみれになったベッドを一瞥する。
「この部屋はもう使えねえな」
元々一泊だけの予定だったからええけど、同じことを地上でやったら弁償代がえらいことなりそうや。
死者蘇生の儀式を行い、ユーキちゃんを蘇らせる。静かに目を覚ましたユーキちゃんは真っ先にステータスカードを取り出そうとして失敗した。俺が着せた服が邪魔だったみたいやな。
鬱陶しそうに袖をたくし上げて腕からステータスカードをめくった。
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【LV.0】如月ユーキ
【種族】ヒト
【重さ】 45
【戦闘力】MAX:20245
【タフネス】 18225
【魔力】 220×10
【スペック】
『ケーの魔石』『健康指輪(呪い)』
『悪食』『輪廻者』
『透明指輪(呪い)』
〈スキル〉
〖恐慌無効〗〖状態異常無効〗
〖片手剣LV.10〗〖盾LV.10〗
〖回復魔法LV.10〗〖投擲LV.4〗
〖光学迷彩〗
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変化したのはリセットされたレベルとステータスのみ。戦闘力・タフネス値の底上げと魔力の倍率アップが主な変更点だ。スペックとスキルに追加はない。
でも俺には見えるぜ。ユーキちゃんの骨質が変わったのがね。これで少しは怪我しにくくなる。
残念ながら魔力袋はできなかったけども。俺の休眠中に魔法を覚えていたということはそれなりに臓器が魔力変換に適応した証拠だし、きっと今回の魔石融合で変換効率は上がったはずや。
「やった!」
「二人に会ってこい。きっとびっくりするぜ」
「うん! またあとで!」
フリルのミニスカートを揺らしながら、部屋の扉を開けるユーキちゃん。
防具のコンセプトは未来感あるバイオスーツと魔法少女の融合。
我ながら良い出来やと思う。全身の防御力を上げつつ、伸縮性のある生地で動きを阻害しない。
見た目にもこだわり、魔力を通せば細工した線が青白く光る。SFとファンタジーの調和を目指した自信作や。
新たなユーキちゃんの戦力を踏まえて今後の予定を組んでいると、バタバタと足音を増やしてこっちに近づいてきた。どうしたどうした。
「先生! オラの髪!」
「おう、白くなったな」
「ちがう! なんで切っちゃった!?」
「俺はショートヘアが好きなんや。姫カットも似合ってるぜ」
「オラ長いのが気に入ってたのに!」
「戻す気は無いぜ」
「もう!」
思春期やなあ。見た目に囚われ、気に入らないと怒り出す。
「女の子の髪を勝手に切るなんて正直言ってドン引きだよ。ケーさん反省しな」
「反省しまーす。もうしませーん。でもその前に、えい!」
ビビビ〜、とユーキちゃんの髪の毛に神パワービームを当てる。
「ぎゃあ!」
これでずっと姫ショートや。一生付き合うことになれば髪型で悩むことも減るやろ。
「なにしたん!?」
「そのうちわかるぜ」
屋敷を出ると何者かの気配を感じた。
光センサーを起動して確認すると木の上にエルフが6匹、身軽な装備で来ていた。おそらく村の状況を見にきたエルフ達だろう。
「エルフが来た。姿を隠せ」
三人に透明化を命じて俺自身も存在感を消す。今ここでエルフと仲良しごっこするわけにはいかない。まだまだ不気味な噂を広めてもらわなければ、俺の居場所を探している奴にまで届かない。
家屋を揺らすほどの突風を起こし、ヤタガラス衆には不協和音で歌ってもらう。
不穏な空気を作り出し、俺ら博霊隊は隙を見て村を離れた。




