24-3 いてこませ、博霊隊
「まずは俺が場をかき乱す。騒ぎに乗じて侵入してくれよな」
三人から了解の意思表示を受けて号令を出す。
「いてこませ、博霊隊! いざ出陣じゃあ!」
俺ひとりで先行して、堂々と村の入り口から入る。透明化はしてるけども。
「お邪魔しまーす!」
鉱石トカゲがいるけど気にしない。鳴きたきゃ鳴けばいい。キラービーを置いていくだけや。
「きーーーー! きーーーー!」
鉱石トカゲが鳴き出したんで、上空へ逃げてキラービーを少しだけ口から漏らしておく。
異変に気づいて近づいてきたのは城エリアモンスター・ガードゴブリン。
大楯を常用するガードゴブリンにはキラービーを倒す手段が限られている。基本的に短剣か棍棒が攻撃手段のガードゴブリンにはキラービーの猛攻が止められない。
「ギギー! ギギー!」
ガードゴブリンを見つけたキラービー達が果敢に間合いへ飛び込んでいく。革鎧越しに針が突き刺さり、全身の皮膚を腫れ上がらせた。ガードゴブリンは悲鳴を上げて助けを呼ぶことしかできない。
悲鳴を聞いて近寄ってきた仲間のガードゴブリンたちにもキラービーを仕向けた。洗脳したキラービーはよく働いてくれて助かる。
近寄ってきたゴブリンたちは全員、顔パンパンのイタイイタイになって、苦痛にうめくだけのレコーダーと化した。
「ギギギ……ギギ…ぐるじい……ギギギ」
「いひひひひひひ! いひひひひひひ!」
まだまだキラービーのストックはある。これだけガードゴブリンがおるってことはアタッカーのモンスターもまだまだおるはずや。
楽しいなあ。楽しいなあ。人型モンスターを懲らしめるとスカッとして気持ちがいい。
「きーーーー! きーーーー!」
「グルルルルル! ガウガウ!」
空に吠え続ける巨大狼と鉱石トカゲは無視していい。我先にと逃げ出した大顎猿を追う必要はない。
だがゴブリンとオークは逃がさない。見つけ次第キラービーを仕向ける。
「ギャアアアアア! た、助けてぇ! 誰か! 痛いイダアアアアアアア」
こいつらキラービーに対して耐性が無さすぎる。武器大きすぎ、露出多すぎ、頭悪すぎで数え役満だぜ。
表にいる敵の中で唯一レッドスカルにはキラービーの針と毒が通用しない。そんな強みはあれども、死霊系は基本的に五感が弱いから無視でいい。ヤタガラスや鉱石トカゲみたいにうるさい探知系モンスターと組み合わせることでレッドスカルの弱点を補える。
ここにいるレッドスカルも定石通り鉱石トカゲと組んでいる。ところが肝心のレッドスカルは、空に吠え続ける鉱石トカゲの周りをウロウロするだけでまるで機能していない。
門番にトロールを置いてるみたいだが、あいつら頭が悪くて基本指示待ちモンスターだから腹が減るか同族が攻撃されるまでは持ち場を離れない。ちなみに横を通って挨拶しても門番の仕事をしなかった。
可愛いやつらや。キラービーをプレゼントしよう。
「グオオオ! いでええ! オデのこぶ食ってくれえ!」
「グオオオ! オデのを先に食ってくれえ!」
「いひひひひひひひ」
互いの腫れを食いあうトロールたち。舌に毒が回ったのか2匹とも窒息して倒れた。死に様まで面白いやつらよ。
村じゅうの小屋をまわって侵略者を探す。小屋はどこもかしこも逃げ隠れた小人やエルフばかりだ。
3階建ての大きい屋敷を残して全ての家屋に目を通したが、侵略者たちは屋内にいなかった。
ただ一つ気がかりなのは指揮官の存在。必ずいるはずなのに姿を見せようとしない。この緊急事態に出てこないのはリーダーとして失格や。
村内で戦闘不能にしたモンスターは20匹。無視したモンスターは12匹。計32匹、捕虜を合わせればもっといる。これだけの戦力をまとめる奴は必ず村の中にいる。
知性が低いオーク、ゴブリン、トロールではないのは間違いない。あれらにあるのは忠誠心と戦闘センスだけだ。こいつらを従える実力者がいるとすれば確実に領地持ちの城エリアモンスター。
村じゅうに散らばったキラービーを回収して最後の屋敷の最上階に立った。
換気口からキラービーを侵入させ、中のモンスターどもを全て追い出す。
キラービーに追われて屋敷から出てきたのは裸のエルフたち。女子供入り混じっている。子供じゃねえや、よく見たら裸の小人だった。
最後に出てきたのは完全装備をした城エリアモンスター・コウモリ人間。こいつだけはキラービー対策ができているみたいやな。
こいつが指揮官に違いない。屋敷にはもうモンスターの気配が無いしな。
「これはいったいなんの騒ぎだあ。パーティーの邪魔しやがってえ!」
「いひひひひひひひ。ほんじゃあパーティーの続きをしようぜ!」
「誰だ! どこにいる!?」
極力見つからず移動するために、俺以外の時の流れを凍結させた。コウモリ人間のそばに近寄り、透明化を解いてから真横に立って、時が動き出す。
「主催は俺がやってやるよ」
「ぎゃあああああああ!」
透明化を解いたのは単なるイタズラ目的だ。深い意味はない。
やっぱり近くで見てもコウモリ人間に翼は無いし、耳が長いのと毛深いだけやな。毛深いエルフに改名させたほうがええかもしれん。これは流石にネーミングセンスないか。福岡市長が名付けたコウモリ人間よりはマシだろうけど。
あえて名付け直すなら第一候補はダークエルフってところか。こいつらが使っている種族名だし。
こいつを驚かせたいがために透明化を解いたから捕虜の奴らに見られたかもしれんが、もう一度透明化して姿を隠す。
見られたなら見られたでいい。前回は博霊隊の存在を匂わせる程度で捕虜を解放した。今回は捕虜の数も多い。多少は情報に現実味を持たせて博霊隊の噂を拡散してもらおう。新情報を小出しして、世間に注目されつづけるのも立派な戦略や。
「おめぇをすぐに始末してやってもええけど、仲間の到着を待ちたいんや。待ってくれるよな?」
うんうんと頷くダークエルフ。無理に拘束はしない。逃げようとすれば背中からブスっと刺すだけや。
「ちょっとおしゃべりしようや。兵を働かせておいて自分は捕虜とエッチなことしてたんか?」
三人の到着を待つ間にダークエルフと世間話をする。既に脳みそ覗いたから、必要な情報は得たけども暇やしな。本人の口から聞くのも一興よ。
敵の総大将は『鬼魔王』と名乗っているそうだ。このダークエルフはその姿を見ていないが、おそらく博多ダンジョンのラスボスのことだろう。
このダークエルフの名は『サーズ』。
サーズ直属の上司は同じくダークエルフの族長『エボラ』。火山エリアは別種族が制圧しており、森エリアの侵攻はダークエルフ軍団に一任されている。
鬼魔王からダークエルフ軍団に与えられた兵力は最低限の数しかなく、連合軍本陣を確実に落とすためにモンスターを現地調達で増やしているそうだ。ダークエルフが得意とするのは調教スキルだ。群れ行動をするモンスター種が多い森エリアは絶好の場所だろう。
サーズはダークエルフの中でも良いところの生まれらしく、今回の作戦では割と良いポジションにつかせてもらっている。
サーズは俺たちが出発したエルフの村を落とせるほどの過剰戦力を預けられ、周辺の小村を占領する役割を与えられた。安全に戦果を稼げるポジションは過保護にも思えるが、信用はされておらず腫れ物扱いのようだ。サーズは作戦の中核から外されていて、重要な情報を聞かされていなかった。
敵の幹部はなかなか人を見る目があるようだ。確かにサーズは無能で傲慢な性格を持つ。エルフの実力を見誤ったか、同胞のダークエルフに無謀な突撃をさせて撃沈させており、残ったダークエルフは今やサーズ1匹だけだ。
「おうおうボンボンが抜けてねえんじゃねえの、おい。戦時中に女としけ込みやがってこの野郎、ええ?」
「はい。すみません」
「村の外の高所を取ったのはよかったぜ。ありゃあ、おめぇの案か?」
「い、いえ、父上にいただいた兵法書から高地に兵を置くことを学びました」
「だろうと思った。それ以外は最悪だったぜ。偵察部隊の編成も、門番にトロールを選んだのも、小屋に伏兵を置かないのも、兵を休ませないのも、現地調達した兵を村の外側に配置しないのもダメ。全部ダメダメ。役立たず。
レッドスカルを有効活用すれば村の守りはさらに固くなる。もうちょい頭を使って配置させないとな」
「ア゛アアアアアアアア!!」
「いひひひひひひひひひ」
サーズをいじる間にモンスターの鳴き声が減り、血の匂いが濃くなってきた。城エリア級は半殺しにしたが、無視してきたモンスターも弱くはない。鉱石トカゲのまわりにはレッドスカルや巨大狼が集まっているはず。
それでも血の匂いが濃くなるということは、博霊隊の三人がモンスターを倒しながら近づいてきたからに違いない。
血の匂いに気づいたのは俺だけじゃない。村を占領する戦力が減り、サーズが動けないと知るや否や隠れていた捕虜達が集まりだした。
捕虜もただのデクの坊じゃない。しっかり森エリアの支配者たる能力を持っている。
エルフも小人も複数人寄れば、鍛錬されたダークエルフを倒せるだけの実力がある。
身勝手に性処理道具として使われた恨みもあることだろう。隷属が反抗に変わるのに時間はかからなかった。
捕虜たちは身体強化の魔法を自身にかけて石を投げてきた。仲間に魔法を重ねがけしてもらって、更に威力を上げた投擲は鉄製の鎧をも貫通する。
「いひひひっ……いで! いで!」
「ぎっ……ひぎっ!」
透明化してる俺の体を石が貫通してサーズの顔面を叩いた。あちゃー、穴がほげてる。
逃げ出すサーズ。その背中を触手で刺して連れ戻す。一緒に痛みを味わおうぜ。
俺の全身は穴だらけ。蜂の巣になった肉体からキラービー達が逃げていく。ありがとうさようなら。
俺という肉壁があったとはいえ、サーズも無事じゃない。しっかり穴があいている。サーズの背骨に巻きつけた触手を離すとぶっ倒れた。
「「うおおーーー!」」
サーズが倒れると捕虜達から歓声が上がった。
しばらくすると大きな刃物を持った小人が現れ、サーズの首を切り落とした。サーズの首は他の捕虜が持ってきた箱に丁寧に収納され、箱が掲げられると再び歓喜の声が上がった。
敵将首を手土産にして連合軍本陣へ援助を求めるのだろう。村に帰ってくるのはその後だろうな。
捕虜たちは皆、様々な表情で村から出て行った。泣く者もいれば喜ぶ者もいる。そんな様々な感情を抱く捕虜たちにも共通する仕草がある。
捕虜は皆、思い出すようにして一様に怯えた。時折り後ろを振り返っている。作戦成功や。
村から捕虜たちの気配がなくなったのを確認して透明化を解き、三人を屋敷のエントランスホールに呼び集める。
状況を説明する前に、まずは13羽に増えたヤタガラスダンスを披露してステージクリアを祝った。
「ヒュー、ようやった。ヒュー、三人とも無事でなにより」
「ケーさんは無事じゃないように見えるけどね」
「穴あきチーズみたい」
「大丈夫なんですか?」
触手から絞り出した肉のパテで全身の穴を埋めていく。あっという間に元通りだぜ。
「なんかもう強さの次元が違うね。どうなってんのその体」
「中身見ていいぜ。ほら」
カパッと体を半分に開いて俺の断面図を見せつける。解剖要請してきた研究者たちのために身につけた技や。
「ぎゃ! 閉じろ!」
「いひひひひひひひひ」
みんなそういう反応するのよな。この体になって本当にラッキー。社会に出ても一発芸に頭を悩ませることがないのよ。
今晩はサーズに占拠された屋敷でバラバラの部屋に泊まることにした。野宿じゃこういう機会もなかっただろうし、三人にはひとりの時間が必要なはずや。
どれだけ仲が良かろうと、プライベートもないところで誰かと一緒に居続けるのは精神的に疲れるもんな。




