24-2 いてこませ、博霊隊
食事休憩終わり。こっからは遊んだりせずに真面目に進む。先頭のユーキちゃんは遊んで欲しいのか時折振り返ってビクビクしていた。そんなにおねだりしても遊んでやらないぜ。
今回は触手を広げて探索したけど、キラービー集め以外には使わない。次の敵陣の位置は三人に探らせる。これも修行のうちや。
現在、三人が追跡しているのは侵略者の痕跡ではなく、エルフが使用する通り道だ。
森エリアにはエルフの小村が点在する。平時に行商が使う通路を探していた。
行商がいるかどうか定かではない。俺はそこまでエルフの生活に興味がなかったから行商の存在など調べてない。しかし、完全自給自足ではなく村によって生産物が違かったのなら、村と村の間で物品取引の必要性が高まる。
小村が占領された可能性も考えつつ、行商の実存を前提に通り道を辿る。
森の中から煙が上がる場所を見つけた。煙だけでは敵か住民かの判別がつかないため、周りを警戒して近づく。
小村の外れで高い段差になった場所を見つけた。あそこからなら小村を一望できる。当然、敵がいる可能性を考える。敵を見つけ次第排除し、高所から優先して確保したい。
高所付近に到着。敵の勢力を発見。
敵の総数は6。巨大狼が3。ヤタガラスが1。アックスオークが2。
アックスオークは城エリア全域に分布される戦斧使いの初見殺しモンスター。仲間を呼ぶ角笛を持つ。城エリアからの侵略者という噂は正しかったようだ。
挟み撃ちの形になるよう、二手にわかれる。サキさんとハナマルくんを待機させ、俺とユーキちゃんは反対側に急いだ。
移動の途中で先んじてヤタガラス衆を放つ。囮と威圧と勧誘の意味を兼ねた先制攻撃。
仲間の存在に気づいた敵側のヤタガラスがヤタガラス衆に合流。これで制空権は取れた。
先行したヤタガラス衆はアックスオークに小石を落として嫌がらせしている。アックスオークも負けじと石を上に投げて応戦。遊んでいるのかもしれんけど。
気をつけるべきは巨大狼の嗅覚だ。すでにこちらの存在には気づいているだろう。おそらくまだ怪しいと疑っている段階だ。近づけば吠えられる可能性が高い。おびき寄せてから静かに仕留めたい。
亜空間から鉱石トカゲの肉を取り出して放置。木の上に隠れて様子を見る。
食いしん坊な巨大狼が1匹釣れた。鼻をひくつかせて近づいてくる。肉を見つけると罠とも知らずに飛びついた。モンスターとしては格上な鉱石トカゲの肉を美味しそうに食べている。それが最後の晩餐や。昼だけど。
ユーキちゃんに指示を出す。タイミングを見計らって木の上からユーキちゃんが飛び降りた。全体重を乗せた片手剣が振り下ろされる。
ストン。ゴロゴロ。
鳴き声ひとつあげることなく巨大狼の首が切り落とされた。ユーキちゃんはすぐ木の上に移動。
残りの巨大狼2匹が血の匂いと落下音に気づいて近寄ってきた。
合図をしてサキハナマルチームを呼び寄せる。
「クゥーン」「クゥーン……」
落とされた仲間の首を鼻の先で転がす2匹の巨大狼。仲間の死を悼んでるところ悪いけど隙だらけや。
三人がほぼ同時のタイミングで飛びかかり、2匹同時に闇討ち。
「「キャイン!」」
2匹はか細い断末魔をあげたが、アックスオークはヤタガラス衆との石合戦に夢中で気づいていない。
巨大狼の死骸が3つ並んだ。残りはアックスオーク2匹。
ヤタガラス衆に合図を出して森に戻す。
アックスオークたちは最後までヤタガラスに向けて石を投げ続けた。
息を切らしたアックスオークたちは、巨大狼がいなくなったことに気づいて腹を立てた様子を見せる。作戦成功。
戦斧を担いで2匹のアックスオークが近づいてきた。こいつらには透明化を見破る力がある。その力がどこまで高性能なのかをこの場で見極めておきたい。
三人を木の上に待機させ、俺だけでアックスオークの進路上に座り込む。
高い草むらで隠れているためか、巨大狼の死骸にアックスオークたちは気づいていない。奴らが真っ直ぐ進めばニオイで気づくだろうから、死骸の隣に座って待つ。
草むらをかき分けてアックスオークが近づいてくる。かくれんぼみたいでドキドキするわ。バックンバックンと心臓が飛び出してるよ。
「うわああああああ! 犬が死んでる!」
「どこだ! うわあああああ!」
目の前の俺に気づいていないな。見破るのは戦うときだけか? 凝視を怠るなよ。
1匹が腰から下げた角笛に手をかける。
角笛を持ってるのはこいつだけか。ラッキーやな。
バレないように角笛の穴へ触手を突っ込む。アックスオークが口をつけた瞬間に溶解液を流し込んだ。
「ごぼっごぼごぼ」
顔面から溶解液を浴び、ぶくぶくと泡を立てながら崩れ落ちる1匹のアックスオーク。
「ごぼっごぼっ」
「いやあああああああ!」
コトン、コロコロ、と半分溶けた角笛とバラバラになった指が地面を転がる。
「きゃあああああああ!! きゃああああああ!!」
相棒のアックスオークの悲鳴は鳴り止まらない。
透明な俺にはまだ気づいていないようだ。
残りの1匹は三人に任せたい。腕を上げて合図を送ると、ユーキちゃんの背中を二人が軽く叩いて耳打ちする。俺は静かにその場を離れた。こっからは三人のショータイムだ。
「きゃああああああああ!」
絶叫をやめないアックスオーク目掛けて三人が木の上から奇襲した。
刀、双剣、片手剣。振り下ろされた4の刃はアックスオークに深々と突き刺さる。しかし致命傷にはならない。
三人はそれぞれの武器を引き抜き、距離をとって再度構え直す。
なにはともあれファーストアタックは効果抜群。仕留め切れずともこっちの優勢に変わりはない。
三人は透明化を解き、三角形にアックスオークを囲む。
起き上がったアックスオークは戦斧を握りなおし、三人を恨みがましく睨んだ。敵を視認した瞬間に恐怖を怒りで塗り替えたようだ。
サキさんは火炎のオーラを纏い、刀に炎をエンチャント。ハナマルくんは全身の鱗を青白く光らせ、双剣に雷をエンチャント。ユーキちゃんは盾を構える。
アックスオークは真っ先にユーキちゃんを狙った。それは同時に二人へ背中を向けるリスクを負う。
アックスオークの顔面に向けて盾からレーザーが放たれた。レーザーに殺傷力はないが視界を奪える。
目にレーザーを浴びたにもかかわらず、アックスオークは怯む様子を見せない。さらには見えているかのように迷いなく戦斧を振り下ろした。
一瞬遅れて盾を構え直すユーキちゃん。盾と戦斧が激しくぶつかった。
ドォン!
爆弾が落ちたような音が森をざわつかせる。大地を震わせるほどの一撃は盾越しにユーキちゃんを崩し、その意識を奪い去った。
倒れるユーキちゃんに向けて再度戦斧が振りあげられる。
その隙を逃すまいと、二人の刃がアックスオークの胴体を切り裂いた。
「ブラボーブラボー。ナイスファイト!」
戦斧の重さに負けて後ろに倒れるアックスオーク。その死に顔は恐怖で歪んでいた。
高所は取れたけども、あれだけ大きな音をさせたのだから戦闘は下の村まで知られているかもしれない。
「おーいユーキちゃん起きてるかー?」
戦闘が終わっても起き上がらないユーキちゃんを治療する。アックスオークの戦闘力はユーキちゃんのタフネスより少し上程度だったが、全力の一撃をまともに受ければ致命傷になる。盾で受けたにもかかわらず複数箇所を骨折していた。アックスオーク1匹にこれほどの深手を負うならば先が思いやられる。
「大丈夫、起きた」
オークが休んでいた場所まで運ぶ途中、俺の胸の中でユーキちゃんが目を覚ました。
「魔石食おうぜ。もうちっと骨を強くしねえと盾を使う意味がねえ。二人の足を引っ張るのは嫌やろ?」
「そ、それは…」
「そんな言い方しなくてもいいじゃないですか! ユーキは今のままでも充分役に立ってる、ですよ!」
「ん!!?」
びっくりした。ハナマルくんが強い反抗を見せるの初めてやないか?
まあいい、どのみち今はやれないしな。
「お、おぉ、ハナマルくんの気持ちはようわからんけども、ユーキちゃんを思ってのことなのは伝わるぜ。
でも決めるのはユーキちゃんや。ひとまず考えておいてくれな。ほんじゃあ村の様子を見てみましょっかね」
さてさて村はどうなってんのかね。やっぱり侵略者に占領されとるな。そしてやっぱり騒いでんね。
あんな爆音が鳴れば気になるよな。戦時中なら尚更な。
村から偵察部隊が出てきた。総員5名。アックスオーク1。大顎猿4。探索には不向きな編成だが総戦力は高い。戦闘力の合計値が博霊隊の三人を上回っている。
正面から仕留めるのは愚策やな、工夫しないと倒せない。
偵察部隊は音の鳴った方向を探りながら進行中。待ってりゃここまで来そうやな。
戦力が別れたことで小村の守りが手薄になっているが、さてどっちを先に攻めるか。
「ケーちゃん先生。どうするんですか?」
「せやな。偵察部隊を先に排除するか、無視して村を落としすか。三人で決めていいぜ。やりやすい方を選んでくれや」
坂道を上がってくる偵察部隊を迎撃するのは容易い。問題は仕留めきれずに角笛で救援信号を出される可能性があることやな。
三人は話し合った結果、偵察部隊を先に排除することに決めた。今回俺は一切手を貸さない。
偵察部隊の進路上に透明化した三人がバラバラの配置につく。
ユーキちゃんは二人とは離れ、坂の上で石を集めている。ハナマルくんとサキさんはそれぞれ別の木の陰に隠れた。
森の中を探りながらジリジリと登ってくる偵察部隊。偵察部隊が通り過ぎても息を殺して合図を待つハナマルくん。
タイミングを見計って木から飛び出したサキさんが先頭の大顎猿の首を切り落とした。
慌てふためく偵察部隊。その隙をついて背後に迫るハナマルくん。さらにもう1匹の大顎猿の胸から双剣の切先が飛び出した。残り3匹。
パニックを起こしたアックスオークが腰の角笛に手をかける。あれを吹かれたら村にいる敵の動きが読めなくなるぜ。
アックスオークが角笛に口を付けた瞬間、拳大の石が角笛を吹き飛ばした。どこから飛んできたのかもわからずアックスオークがキョロキョロと周りを見ているうちに、透明化したユーキちゃんは次の投球姿勢を取る。
再びアックスオークの顔面に向けて小石が飛んでいく。野球をやってたのかってくらい素晴らしい制球力でアックスオークの片目を潰した。俺にはとてもできない芸当や。
平たい石のスライダー、丸石のカーブ、角ばった石のフォーク。それらは全てアックスオークの顔面に命中した。
血まみれの顔を怒りで歪ませるアックスオーク。戦斧を盾にして、周りの大顎猿に手を貸せと指示を出した。そこでようやく味方が全て倒されていることに気がついたようだ。
戸惑うアックスオークの両脇に透明化したサキさんとハナマルくんが肉薄する。
しかし二人の攻撃は躱された。危機を察知したのかバックステップで二人を引き離した。
やはり戦闘中のアックスオークに透明化は通用しない。
本気になったアックスオークは障害を物ともしない。戦斧を振り回して木々を伐採しながら二人に迫った。
戦斧と共に回転するアックスオークの顔面に、後頭部に、側頭部に、強烈な石の雨が降り注ぐ。
アックスオークの平たい鼻はえぐられ、両目はなくなり、歯はボロボロ。大きな片耳が石に削り取られたとき、ついにアックスオークは転倒する。
戦斧を杖にして立ち上がろうとするアックスオークに、トドメの刃が3本突き立てられた。
占領された小村を見ると偵察部隊が討たれたことに気づいていない様子だった。完全なる奇襲の成功。ようやった。
偵察部隊が帰ってこないことを不審に思われないうちに小村を落としたい。そのためにはまずヤタガラスを回収せんといかん。先んじて7羽のヤタガラス衆を放ち、小村のヤタガラスを取り込む。これで13羽に増えた。
増やしたヤタガラス衆はこちらには呼ばず、小村内で待機させる。
知らないヤタガラスが急に増えたことで小村内に一時的な混乱が見えた。
しかし混乱はすぐに沈静化する。止まり木で休んだまま動きがないヤタガラスを見て、仲間と思ったのか敵の動揺がなくなった。いい役者になれるぜヤタガラス。
占領された小村内の敵勢力を把握しようとしたが、隠れやすい小屋や労働する捕虜が多く、外からでは全容を掴めない。
敵にのろしさえ使わせなければ、どのようにでも暴れていい。そのように博霊隊内で意識を共有して陣地奪還に動く。
今回は俺も本格的に参加する。そのためのキラービーよ。




